東雲能科GP、終幕
歓声がなかなか収まらない。
Colorの夏山が「マジか! マジで!? すげえー! 本戦!? 本当に!? おめでとう桃花鳥 くん、望月くんー! 新座くん!」と叫ぶ。
パネルを持ったまま座り込んだ桃花鳥 を、左右から望月と新座が抱え起こそうとする。
「咲良ちゃん、大丈夫ぅ?」
「こ……腰が、抜けた……」
「ええ~」
へにょへにょの桃花鳥 。
そのまま正座してパネルを前へ置いてなんか置物みたいになっている。
宇月は「ドカてんイェーイ、ドッキリ大成功だよぉ~」とハイタッチ。
「いや……あの、でも……マジ? マジでいいの? 宇月。俺たち、予選落ちしてるんだけど」
「今年から大会優勝枠が設けられたんだよぉ。ごたちゃんが秋野直芸能事務所に所属したからぁ、それを伝手にお願いしたら『いいよー』って特別枠を東雲芸能科GP優勝グループにあげていい許可はもらってるんだぁ。感謝してよねぇ?」
「すごい! さすが後藤先輩!」
「後藤くん、ありがとう!」
「提案してお願いしたの僕だからねぇ!?」
後藤、無言の笑顔で手を振る。
相変わらず目立たなくていいところではできるだけ目立ちたがらない。
「まぁねー、だからねー? 来年も同じようにゴールデンウィーク中に東雲芸能科GPが開催されるかどうかは今年の一年生、二年生に委ねる感じだし~、今回みたいにIG夏の陣本戦への出場権がもらえる~っていうのも恒例化できるものではないんだけどね~? だから今回限定って可能性の方が高いよ。でもでも、みんなー! 楽しんでくれたかなぁーーーー!?」
宇月が客席に向けて叫ぶ。
ドッと揺れるような歓声。
「配信を観てくれている人はーーーー?」
と、振り返ってモニターを見上げると、配信コメント欄が表示されてコメントが流れる。
『サイコー!』『楽しかったー!』『また来年もしてー!』『うおおおおお!』などの満足げなコメントが多い。
うんうん、と頷いて宇月も満足げ。
「ついでに出演した東雲芸能科の生徒たちは~?」
「「「おおおおおおお!」」」
関係者観覧席で負けたグループメンバーがジャンプしてる歓声を上げる。
もちろん生徒たちも大満足だろう。
目の上のたんこぶとは言わないが、三大大手グループばかり注目を浴びるのだからどうしても目立てなかった“その他”が思う存分ファンにアピールできた。
大変にいいイベントだったと断言できる。
「うんうん♪ みんなが満足してくれたなら~、十五連勤三徹した甲斐もあるってもんだよねぇ」
「ええ……!?」
「宇月、マジ忙しい割に全然忙しそうに見せねぇからびびったわ。どういう時間管理してんだよ」
「んー、まあ、そのへんの苦労はお客さんには見せたくないじゃん? みんなが楽しんでくれたならそれでいいのよ。それに、茅原と麻野も打ち合わせめっちゃ真面目にやってくれたしね~」
「まぁな。そのくらいはするって」
「ふん! 魔王軍たるもの、客を虜にするためならなんでもするからな!」
ドヤ、と胸を張る麻野。
星光騎士団の二年生たちも、宇月がまさかそこまで過密スケジュールだったとは思わなかったので目を丸くして驚いた。
だってイベント期間中すらSBOで一緒に遊んでくれていたのに!
「ってな感じで~、総評いくよー! 個人アイドル投票結果! 1位、Color、 夏山真紅、2位、花鳥風月、桃花鳥咲良、3位、双陽月、桜屋敷太陽、4位、同じく双陽月、桜屋敷月光! しかしながら、咲良ちゃんが除外されるので繰り上げで5位、Color、冬紋翡翠がコラボユニットメンバーになりますー!」
「実質Colorと双陽月で決定してんなぁ」
「双陽月の二人は頑張ったねぇ。よしよし」
「「えへへー、褒められた~」」
宇月に頭を撫でられて、嬉しそうな太陽と月光。
魁星、驚愕の眼差し。
確かに宇月が人を――特に二年を褒めるなんて、信じがたい。
淳は純粋に双陽月の二人の快挙に拍手喝采なのだが。
もちろんColorの快進撃、花鳥風月の受け継がれた努力の実りも涙もの。
なんならずっと涙を滲ませながらサイリウムを振り続けているドルオタとかしている。
本当に、数年間でも東雲学院芸能科を推しているドルオタから見てこの結果は最高だった。
花鳥風月を長く応援しているファンも泣いている。
「まあ、コラボユニットについては事前に仕事のスケジュールもあるかもしれないので、もしかしたらメンバーは変動するかもしれませんけどぉ~、10位以内のメンバーで構成されると思いまぁーす」
「そして! 映えある優勝は花鳥風月! 優勝した花鳥風月は今年のIG夏の陣本戦に緊急参戦するぜ!」
「俺たち魔王軍、宇月たち星光騎士団、そして勇士隊と花鳥風月! 俺たち東雲学院芸能科からはこの四グループが今年のIG夏の陣に殴り込みする! みんな! 応援よろしく頼むぜぇ!」
わああ、と大きな歓声が再び空気を震わせる。
ステージ上で両手を振りながら「またなー!」「次は定期ライブで会おうぜー!」と声がけしながら舞台袖に下がっていく。
腰が抜けた桃花鳥 を割とみんなで支えながら。
「桃花鳥 先輩、おめでとうございます」
「……ああ……」
まだ夢を見ているかのような茫然自失状態の桃花鳥 。
しかし、舞台裏に戻るや否や、涙を拭った。
淳たちが去年、当たり前のように感受したIG出演。
けれど、普通は本戦に出るというのはこのくらい大変なこと。
だから心の底から言えるのだ。
「よかった……よかった……宇月先輩神」
「もっと褒めて~」
「宇月先輩神……!!」






