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推しと邂逅

 

 

「あー……シーナくんごめんね? 騙してるつもりはなかったんだよね。一応レベル上げはマジでやらなきゃいけないって思ってて」

「あ、う、あ」

 

 本物だ。

 本物の――神野栄治。

 まさか、本人に星光騎士団志望、とか話していたとは。

 

「先輩が言ってた子って、淳くんのことだったんですね」

「そーそー。シーナくん、無事に入団できた?」

「はい。とても優秀な子ですよ。声変わりが終われば即戦力でしょうね。振り付け最初から完璧で、業務的なことばかり教えている状況ですよ」

「へー、才能あるとは思ったけどマジ優秀じゃん」

「あ、え、あ、い、いや、そ、そん……そんな……」

 

 美しすぎる。

 本物の神野栄治、立ち姿から顔貌から、声から。

 ありとあらゆる彼のすべてが美しい。

 推しが目の前にいる。

 尊敬する“神”が。

 口をはくはくと開閉していると、カイセイが立ち上がった。

 

「あ、あの、は、初めまして。俺は花房魁星(はなぶさかいせい)っていいます! 俺も、星光騎士団の一年です」

「そっちも星光騎士団の新人だったのですか? 初めまして、私は鶴城一晴(つるぎいっせい)。こちらの美人は神野栄治(こうのえいじ)。そこの女装男は蔵梨柚子(くらなしゆず)ですぞ」

「あ……お、俺! 俺は……音無淳(おとなしじゅん)です!」

 

 自己紹介タイムに便乗して、本名を名乗って頭を下げる。

 顔を上げると腰に手を当てた栄治と完全に目が合った。

 

「――妹と定期ライブにいつも来てた子だよね? へえ、もうそんな歳になったんだね」

「に、認知されている……!?」

「そりゃー、毎回会いに来てくれてればね。情報イベントの時にも来てたでしょ? シーナくんじゃん、って思ってたけど、君だったんだね。ありがと」

「~~~~っ!」

 

 ガッツリ認知されている――!

 と、顔を上げられなくなる。

 体がプルプル震えて涙が滲む。

 

「この子らも今度のライブオーディションに来るの?」

「はい」

「ふーん。じゃあ楽しみにしてようね♪」

「ひ、ひえぇ……」

 

 綾城と栄治がニコニコシーナを見下ろしながらそんなことを言う。

 いったいなにを楽しみにされているのだろうか。

 

「淳くん、神野先輩大好きって言ってたじゃん。握手とかしてもらったら?」

「や! やめてよ、魁星! ちょっと、本当に……無、無理なんだから!」

 

 好きすぎて。

 余裕がない。

 狼狽まくるシーナにカイセイがなんとも言えない表情になる。

 それを見て、一晴と栄治と柚子が「ほーん」という意地悪い笑顔。

 

「ほ、本物がこんな、近すぎて……ええぇ……無理無理……」

「す、好きなのに?」

「好きだから無理なの! 神々しいし、尊いし! 眩しくて無理!」

「にゃはは♪ かーわいー。俺は俺を好きって言ってくれるファンにはファンサしちゃうよね~。声変わり終わったら一緒にカラオケ行こうね」

「っ!? ヒッ!? へっ!? はっ!?」

 

 カラオケ?

 神野栄治と?

 なにを言ってるんだこの人は。

 いつの間にかカイセイの背中に隠れてしまうシーナ。

 

「そうですな! “星光騎士団で”! 行きましょうか!」

「ウッッッザ」

「ファンで後輩ってこと? そんな子相手にまでマウントとるのカッコ悪いっすよぉ、一晴先輩~」

「同担は拒否ですぞ!」

「「最低~」」

 

 栄治と柚子に非難される一晴。

 鶴城一晴が神野栄治ガチ勢なのは学生時代から有名。

 当然シーナも知っている。

 目の前で繰り広げらるツルカミコンビの定番漫才に、今日は蔵梨柚子まで参戦。

 完全に12代目時代の光景だ。

 足りないのは蔵梨柚子と同級生で、東雲芸能科を卒業と同時にアイドルも辞めてしまった佐藤日向ぐらいか。

 それ含めて、ファンにとっては夢のような光景。

 カイセイの背中で手を合わせてしまうシーナ。

 

「さってと、せっかくだしみんなでレベリングするー? おれたちしばらくプレイヤーキルペナルティでバフ無効化されちゃうから、手伝ってもらえると助かるしぃ、一晴先輩と栄治先輩はゲームシステム理解しててもイマイチだしぃ」

「「うっ」」

「そ、そうですね。助けていただきましたし、レベリングお付き合いします! でも、淳くんはともかく魁星くんは一度ログアウトしてログインし直した方がいいね。腕はログインし直さないと戻らないし、チコちゃんとも合流したいし」

「あ、そうですね」

「腕ってログインし直すと元に戻るんですか?」

 

 直るよ~、と綾城とシーナが言うとそののほほんとした空気に魁星がまた複雑そうな表情になる。

 確かに強制帰還したチコとも合流したい。

 

「シーナくんたち、時間は大丈夫なの?」

「ひぇ! は、はい。俺と妹は九時までなら大丈夫なので……」

「学生っぽ~い。じゃああと一時間くらいだね。俺は一晴や柚子と違って一般人だから、前衛よろしく~」

「初の対人戦で心臓一突きした人が一般人名乗るのはさすがに無理っすよ~、栄治先輩♡」

 

 めっちゃグイグイくる栄治。

 完全に自分のファンだと把握して、いじり倒している。

 そこでふと、シーナは思う。

 

(これ、チコ合流しても大丈夫だろうか? 死なない?)

 

 多分ダメ。




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