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東雲芸能科GP、最終日(5)


 午後は特に問題なく、トーナメントは進んでいく。

Color(カラー)』、『Monday(マンデー)』『SAMURAI(サムライ)』『Puff(パフェ)』『らいじんぐ』『花鳥風月』の六グループによる総当たり戦。

 やはりColor(カラー)が強い。

 そして花鳥風月が一気に追い上げてきた。


「魅せ方が一気によくなったじゃぁん。相変わらず桃花鳥(とき)ちゃんエンジンかかるのおっそ」

「かっこいい〜! 和風ロックかっこいいですね〜!」


 星光騎士団のメンバーは撮影室でライブ映像を撮影中。

 音声は入らない設定なので、淳は推しうちわとサイリウムを振りながら大興奮。

 蓮名と苗村は宇月に「企画書出せば予算を出してヒーローショーにつき合ってあげる」と言われてすっかりその気になった。

 が、宇月と後藤は「アホの蓮名は企画書を作るのに時間がかかるだろうから、今日また邪魔しに出てくることはないだろう」とのこと。

 天才か?


「で、後藤先輩はいつ起こせばいいんですか?」

「とりあえず準決勝の時でいいんじゃなぁい? 最近本当に忙しそう〜。事務所のレッスンもあるっぽいしね〜」

「俺も夕方から三時間、事務所のレッスンだからよくわかります」

「ナッシーも忙しいねぇ」


 思い出して憂鬱になる。

 今日から『色気のレッスン』だ。

 はぁー、と深く溜息を吐く淳と、部屋の隅で寝袋にくるまり眠る後藤という不思議な空間に鏡音が入ってくる。


「宇月先輩、パネル完成しました。確認お願いします」

「おっ。ありがとう〜。どれどれ〜? ……うん! いいね!」


 鏡音が隣の部屋で作ってきたのは優勝グループに贈られる“景品”が書かれたパネル。

 発泡スチロールの板に厚紙と色紙を貼ってマッキーで字を書いた、かなり簡易のもの。

 急ぎで作ってもらったが、かなり器用。


「あの……」

「うん?」

「でも、その……まだ後片付けをしていなくて」

「お前ほんっっっとに片付け苦手だねぇ。いいよぉ、片付けは僕がやってあげるぅ。クオー、これ、布で包んで舞台袖に運んでおいてぇ。見られないようにねー」

「そのままあちらで待機した方がいいですか?」

「そだねー。舞台袖でステージを観るのも勉強になるだろうし、ドカてんも一緒に行っておいでぇ」

「わかりました」


 魁星、小さな声で「俺たちの時とドカてんへの態度だいぶ違くね……? 宇月先輩……」と淳に耳打ちしてくる。

 それは……多分単純に鏡音の人望とスペックのような気がする。

 鏡音、礼儀正しいし練習も真面目にくるし上手い感じに宇月に甘えるので。

 魁星と周は宇月を完全に苦手意識を持ってしまっているから、仕方ない。

 だが、今の魁星と周のスペックなら少し甘えれば甘やかしてもらえる気がするのだが。

 少なくとも周は魁星より宇月と会話することに怯えたりしなくなっている。


「宇月先輩、ありがとうございます。後片付けをお任せしてすみません。ステージを見学して、必ず身になるよう行ってきます」

「うんうん、行っておいでぇ」


 いや、若干、鏡音が年上キラーなところもある。かも。

 ちゃんとお礼を言うのが絶対可愛い。

 というか、本当にフォローが上手い。


「僕隣の部屋にいるからー」

「あ、後片付けなら俺が行きますよ」

「待って! ぉぉおおぉ、俺も! 後片付け行きます! 二人でやった方が早いし!」

「そぉ? じゃあよろしくー」


 慌てて挙手する魁星。

 これは淳について行きたいとかではなく、鏡音と周が舞台袖に行って、後藤が寝ているこの部屋で実質宇月と二人きりになるのを全力で避けたのだ。

 呆れた眼差しで見てしまう。

 隣の部屋に移動しつつ、宇月が気にした様子がないことにひとまず安堵する二人。


「今のはちょっとわかりやすすぎだよ、魁星〜」

「わかってるんだけど! わかっているんだけどぉ! でもなんかもう本能に刻まれているっていうか〜っ」


 完全に恐怖の象徴になっている。

 宇月先輩は優しいんだけどなぁ、と淳は思うのだが。


「さっきのWalhalla(ヴァルハラ)? だっけ? あいつらへのドスの効いた一喝とか本当怖かった」

「あれは確かに怖かった」


 多分この学校の生徒なら満場一致で怖いって思ったと思うが、あの場は三大大手グループのリーダー、副リーダーが全員揃っていた。

 そういう意味でも怖かったように思う。

 あれを正面から見たWalhalla(ヴァルハラ)の四人、心折れなかっただろうか?

 あれ、シンプルに怖かったと思う。

 ドルオタとしては羨ましくもあるのだが。


「さてと、さすが鏡音くん」

「おお……やったねぇ」


 そして隣の部屋を見ると見事な散らばりっぷり。

 まあ、急ぎで作らせたので仕方ない。


「……ところでさ」

「うん? なぁに?」

「あのWalhalla(ヴァルハラ)ってやつら、星光騎士団(うち)と魔王軍と勇士隊と『決闘』するとか言ってたけど……負けると思う?」

「ん? どっちが? こっちが?」

「うん……」

「うーん……」


 少し、目を逸らす。

 勝つか負けるかだけを語るのなら、多分勝てる。

 だが――。


「というか、今回の件……Walhalla(ヴァルハラ)の四人は三大大手グループをダシにして自分たちの知名度アップを狙ったんだと思うよ」

「え!?」

「単純にね、知名度は星光騎士団、魔王軍、勇士隊の方が高いの。特に去年のIGで星光騎士団は準優勝したし、魔王軍も勇士隊もベスト8に入っているでしょ? それに比べてWalhalla(ヴァルハラ)は今年の三月にデビューしたばかり。俺も入学してからあの子たちがプロデビューしていたのを知ったくらい。……まあ、俺はプロアイドルより東雲学院芸能科の方が好きだからアレだけど」

「……!?」


 お披露目ライブも、バトルオーディションも出演していない彼らが一気に知名度を上げるには、すでに知名度の高いところと絡むしかない。

 それが戦いならより人目を引きやすい。

 幸い東雲学院芸能科には『決闘』という特殊ルールがある。

 下手をするとWalhalla(ヴァルハラ)の四人はこの制度を利用して知名度アップするために東雲学院芸能科に入学してきたのではないか、とさえ勘繰ってしまう。




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