東雲芸能科GP、最終日(3)
淳がそう決めて、星光騎士団の四人は野外大型ステージの周りを見張ることにした。
魁星と淳は控え室からステージの舞台裏に向かう通路。
周はステージの周辺。
鏡音は音響室の近くに待機して、警戒を続けた。
前座のグループのパフォーマンスは特に問題なく続き、昼休みに入る最後のグループが前へ出た瞬間だ。
茅原と麻野が出番を終えた双陽月の双子にインタビューするために前へ出ると、ステージ上になにか落ちてきた。
「うわーーーっはっはっはっはっはっはぁー!」
「「…………は……は、はぁあああぁ!?」」
高笑いをしながら野外ステージに落ちてきたのは、苗村を抱えた蓮名。
ステージ上でぐるり、と三回転して着地。
ポカーン、となる観客。
一拍の間のあと、大声で叫ぶ茅原と麻野。
間違いなく野外大型ステージを狙ってくると思っていたが、想像以上に予想外の登場の仕方だった。
さらに、火のついた花火を宙に投げる。
火の勢いで回転しながらステージ上を乱舞し始める花火。
「うわわわわわわわわわ」
「ぎゃぁああああ!?」
「避難! 全員避難しろー!」
「て、てめえええぇ! 蓮名ぁー!」
「下がれ! 麻野! あぶねーよ!」
双陽月の太陽と月光が半泣きになりながら舞台袖に押し込まれる。
咄嗟なことだが後輩をしっかりと守る茅原と麻野がかっこいい。
しかもすぐに振り返り、花火を装備した蓮名に殴りかかろうとする麻野の首根っこを掴む茅原。
「わはははははは! 遠からん者は音にも聞け! 近くば寄って目にも見よ! 俺こそは『勇士隊』、君主! 蓮名和敬なり!」
「ゲフ、ゲフッ……は、はぁ、はぁ……同じく、勇士隊……! 苗村裕貴……! は、はぁ、はぁ……!」
苗村、ポーズを取るものの顔色が悪い。
そりゃあそうだ。
どこから飛んできたのかわからないが、宙から降ってきたのでそりゃあなんかヤバいやり方したに違いない。
つき合って一緒に飛んできた苗村もおかしい。
フラフラハァハァしながらも茶番をやり遂げるつもりなのか。
人間かな?
「魔王軍、魔王! 今日という今日はお前を倒す!」
「……やる気か、このバカ」
「ホンット本物のバッカヤローだなテメェ! やるなっつったよなぁ!? 下がれ下がれバァカ!」
「世界の平和を守るため、正義の勇士隊レッドが鉄槌を下す! とぉ!」
と、叫んでジャンプ。一回転。
からの拳を茅原に向けて振り下ろす。
それを腕を交差して受け止め、勢いよく右に流す茅原。
さすが格闘部現部長。
「たあ!」
「麻野! 宇月呼んでこい!」
「あ、ああ……」
「させるかぁ!」
「っ!」
流されつつも足を高らかに掲げでかかと落としを放つ蓮名。
それすらも片手で受け止める茅原が、麻野を舞台袖に逃がそうと指示を出す。
が、その麻野の行手を阻む見るからにグロッキーな苗村。
命を大事にしてほしい。
「つーか、こいつらコレか? 俺たちが『魔王軍』だから敵役をやらせようって腹づもりか?」
「まあ、そうだろうな。事前打ち合わせもなしに、刺した釘も引っこ抜いて」
「当然だ! 正義のヒーローは引かぬ! 進む! 負けぬ!」
「「ウゼェ……!」」
ボーッと見ていた客席からも、少しずつ混乱が広がる。
余興? でも茅原くんたちの様子が演技っぽくない。
と、顔を見合わせて困惑。
蓮名が割と本気で拳や蹴りを繰り出すも、茅原がさらりと流すので組み手と言われれば組み手をしているようにも見える。
このように、無理やりヒーローショーにつき合わせるスタイルなので、迷惑極まりない。
「ごるぁあああぁ!」
「げっ! で、出たな! 悪魔騎士!」
だが、どこに待機していたのか、音響室の近くの鏡音が連絡したからなのか宇月と後藤がステージに飛び出してきた。
宇月、鬼の形相。
ちゃんと星光騎士団のステージ衣装なので、鬼の形相と相俟って悪魔騎士と呼ばれてもこれは仕方ないな、と思わないでもない。
しかもちゃんと小道具の模造剣まで持ち出してきた。
また物理的にシメるつもりか。
さすがにお客さんの前であの顔はまずい。
優雅なお姫様、王子様を護る騎士系アイドルの顔じゃない。
後藤が後ろから慌てて「美桜ちゃん、顔、顔……」と耳打ちしてくれたから、すぐにいつもの笑顔に戻る。
だが、あの笑顔の後なので、もっと怖くなったようにしか見えない。
合流した周と魁星と淳は、その青筋の浮かんだ笑顔に震え上がる。
あれは“ガチ”な時の笑顔だ。
モデルのプロ根性だけで表情筋を駆使した時の笑顔。
今年の魔王を冠る茅原と荒々しい麻野、暴走列車蓮名と苗村ですら本気で怯えて一歩、二歩と後退るがもう遅い。
「な・え・む・ら〜〜〜くん♪」
「ひぃ!?」
怖い怖い怖い。
言い方が本気で怖い。
これ客席大丈夫? と淳たちが客席を見ると宇月の登場に「あ、余興っぽいね」と安堵の表情になっている。
なるほど、宇月の作り笑顔が演技だから、逆に余興として受け入れられたっぽい。
複雑である。
蓮名ではなく、呼ばれた苗村は心の底から顔を青くして肩を跳ねさせた。
「勇士隊の副リーダーなんだから、君主をしっかり捕まえておかないとダメじゃない? 僕、ちゃんと言ったよねぇ? ねぇ?」
「………………………………はい」
そこそこ長い沈黙のあと、直立不動になった苗村が俯きながら返事をした。
だが、苗村が陥落しても蓮名は負けない。
なんという精神力、と変に尊敬の眼差しを向けてしまう魁星と周。
「くっ、苗村を洗脳しようというの――がっ!?」
が、スタスタ近づいてきた宇月が10センチ以上身長差のある蓮名の顎を掴む。
笑顔で。
またもその笑顔に震え上がる魁星と周。
「お……おれはまけなひ……」
「そっかぁ♡ それはそれとして構わないんだけどぉ、それならアイドルらしく『決闘』して決着つけよっ♡ ねっ♡」
怖い怖い怖い。
宇月にそこまで苦手意識のあるわけではない淳も、ガタガタ震える周と魁星くらい震えてしまう。
あの人ほんとにすごいな。
恐怖をこれほど感じているのに『可愛い』と思てしまう。
それがまた、恐ろしい。






