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今年のバトルオーディション


「もー、そういう話怖いから終わりにしよぉ〜。それよりさー、そろそろ夕方のニュースでバトルオーディションの映像とか流れるんじゃない? ドカてんテレビ…………あれ、そういえばドカてんの家テレビなくない?」


 宇月が部屋を見回す。

 そういえば……、と淳たちも部屋の掃除中にテレビを見かけていないと気がついた。

 テレビないの、と聞くと「パソコンがあればニュースも見られますし」と言い放つ。

 そうか、これが現代っ子。

 パソコンのモニターですべてが済む時代か。

 そう言われると淳の家も有料チャンネルしか見ない。

 地上波は好きなアイドルが歌番組やドラマに出演する時や、好きな俳優さんや気になる映画が放送される時くらい。


「パソコンで見ますか?」

「いいの? でもそのパソコンも見当たらないけど?」

「パソコンはここの防音室ですね」

「「「え?」」」


 淳はなんとなく「なんでこんなところにでっぱりが?」と思っていたが、壁と一体化していた四角い箇所が防音室だったらしい。

 アパートに防音室を入れたのは、鏡音の実費。

 退去する時も撤去します、と言い放つあたり、ちゃんとチャンネル登録者数五十万の収入は役に立っている模様。


「これ防音室だったのぉ!? え!? 防音室ってこんな……え!?」

「防音室ってこれが!? こんなのあるんだ!?」

「一人用の防音室なので、二十万くらいです」


 全員が沈黙。

 しかし鏡音はさらりと「経費で落ちました」と言い放つ。

 さすがチャンネル登録者数五十万人。

 経費で落ちるのか。


「ここがドアで」

「うおー、すげー!」

「狭いですね」

「まあ、広くはないですね」

「っていうか、このパソコンすごいな。外付ハードディスクにでっかいフィンもあって……」

「熱が上がりやすいので冷却しないと、防音室が暑くて熱中症になるので」


 エアコンも防音室の中にある。

 マイクの性能的にエアコンの音が入ることもあるので、長時間配信の時は気を使うんですよね、とのこと。

 へぁー、と変な顔のまま口を開ける先輩ズ。


「えーとちょっと調べてみますね」


 と、言ってパソコンをつけた鏡音がポチポチ動画サイトを検索。

 今日のバトルオーディションのアーカイブが出てきた。

 去年はBlossom(ブロッサム)がメインとして、前座としてバトルオーディションが行われた。

 だが、今年は客寄せ役として最初にBlossom(ブロッサム)が登場して前座を務める。

 さすがに去年IGの夏の陣、冬の陣を制覇したBlossom(ブロッサム)が登場したことで、お客さんの集まり方がえげつない。

 そのままBlossom(ブロッサム)メンバーがステージ横の椅子に座り、彼らがいる状態で一年たちがバトルオーディションへパフォーマンスを行う。

 これはこれで地獄の光景では?

 お披露目ライブよりも人が集まっているが、お披露目ライブは“東雲学院芸能科のアイドルを見にきた人”が相手。

 だが、バトルオーディションを見にきた人たちはBlossom(ブロッサム)に引かれて集まったお客さん。

 一年生たちを見にきた人たちではない。

 そんなお客さんたち相手にパフォーマンスをするのは地獄。

 だって興味のない相手を引き留める能力は、まだまだ初心者の一年生には高難易度。

 自己紹介をして、所属グループを言ってパフォーマンスを行うも撮影している視点からもお客さんたちがスマホをいじっているのが見える。

 やはり、少しずつお客さんは減っていくのを見るのは、なんとも心苦しい。


「うーん、まあ……こんなもんじゃない? って感じぃ」

Blossom(ブロッサム)の先輩たちも微妙な表情っすね……」

「ああ……こ、神野栄治様の険しい表情が怖い……カッコいい……」

「というか、こんな先輩たちに見守られているのは普通にプレッシャーですよね」


 今年の一年生には可哀想な結果だ。

 最終的にBlossom(ブロッサム)の先輩たちがフォローして、学院で開催中の『東雲芸能科GP』の宣伝までしてくれた。

 そのまま特に大きな問題もなく終わる。


「ハァーーー……でも、初々しい一年生たちが分厚いプレッシャーの中、震える声と体で懸命にパフォーマンスをする姿には胸が震えますね。特に玖賀衛都(くがえいと)くん! 一人だけすっごく目立ってましたね〜」

「あー、いたねー、一人目立ちたがり屋が。歌もダンスも残念だったけど」

(ゆずりは)ルシルくんもノリがいい感じでしたし」

「ネットアイドルって言ってたけど歌下手すぎない? あいつ」

「あ……愛咲くんは人前でのパフォーマンスが慣れている感じで冷静でしたよ」

「でもダンスが硬かったね。多分あいつ体が硬い」


 ドルオタ、頑張って一年生たちのパフォーマンスを褒めるが宇月がことごとく潰していく。

 最終的に「一年生なんですから」と淳が言うと、宇月も「まあ、そうね」と唇を尖らせる。

 まあまあ、と周と魁星が宇月を宥めて、パソコンを鏡音が消した。


「あーもー、やっぱり無理〜。一年生の(つたな)いパフォーマンス見てるとイライラしちゃう〜。二年のたるんだパフォーマンスもムカっ腹が立つんだけどさぁ〜」

「も〜、そのイライラ解消も目的で東雲芸能科GPを開催したんでしょう?」

「そーだけどぉー」

「……オレ、明日から練習棟行きます、ね」

「鏡音くんが気を使っちゃったじゃないですか……!」

「はあ!? いいじゃん、明日から練習頑張ろうよ! 夏の陣の練習! ナギーも呼び出して!」

「宇月先輩、落ち着いてください。明日は東雲芸能科GP最終日ですよ。我々動画撮影班です」

「そうだった」


 むぎー、と叫ぶ宇月。

 困惑の鏡音が無言で二年生図を振り返る。

 うーん、と少し考え込んだあと「手伝いなら登校してもいいんじゃない? 授業料払っているんだし」と淳が答えたので明日の最終日、鏡音は緊急参戦することになった。



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