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宇月の謎の人脈


「――という感じで、うちの妹のストーカー? みたいな感じなんです」

「え……きも……」


 宇月、どストレートな感想。

 誰しもそう思って、しかしあえてなにも言わなかったのに。

 どんな美少女だろうと行動があれだとシンプルに「キモい」と言われるものだ。

 仕方ない。


「まあでもそれならその子の事務所にチクったら一発じゃなぁい? どこのモデル事務所?」

「え? どこだろう? 調べてみますね」

「事務所にチクるとか、いいんっすか?」

「だって親もダメなんでしょお? 学校でもいいと思うけどぉ、学生の身分だと難しいしねぇ。でも事務所としても変な噂は立ってほしくないじゃない? だから割と効果は抜群だと思うなぁ」

「「なるほど」」


 周と鏡音の声が重なる。

 スマホでLARAの所属事務所を検索すると、女性モデル中心の事務所所属とわかった。

 事務所の名前を伝えると、なにやら宇月はスマホを取り出してスイスイスクロール。

 そして誰かに連絡。


「あ、もしもし羽奏(わかな)ちゃん? 突然ごめんねー。今大丈夫? ありがとうー。実は僕の後輩のアパートに、最近毎朝LARAちゃんっていう北雲芸能科のモデルの子が張ってるんだって。……うん。そう、張ってる。意味わかんないと思うんだけど、マジらしいんだよね」


 魁星と周と鏡音は頭にハテナマークを浮かべるが、三人は淳の顔を見て「ああ、有名な人なんだなぁ」とぼんやり思う。

 そう、実際有名な人。

 モデル兼俳優のやや珍しい毛色の活動を行い、さらに自身のファッションブランドも持つ。

 なんでそんな人とワンコールで繋がれるんだ、この人。

 しかもちゃんづけ。


「そう、LARAちゃんっていう金髪の子だって。うちの後輩たちの住んでる寮のアパートだから、学校の方からも様子見の指示で困ってるんだってさ〜。なにか間違いが起こっている的な炎上でもしたらたまったもんじゃないからねー。そー。わかってくれるぅ? ありがとう〜、よろしくお願いします〜」


 ぽち、と電話を切る宇月。

 ぽかんと見守っていた後輩たちに「事務所でなんとかしてくれるってぇ」と笑顔。


「ど……どういうルートで鶯谷(うぐいすだに)羽奏(わかな)と知り合いになったんですか!?」

「同じバレエスクールだったんだよぉ〜。モデル業の仕事も最初は羽奏ちゃんに斡旋してもらってたの〜。さすがにいきなりは庶民の僕には敷居が高かったから、読モからスタートしたけどねぇ」

「バレエ教室の繋がり! 普通にすごい人ですよね!?」

「そうそ。手足も長いし背も高いし、顔も綺麗だし、人気の“王子様”だったんだよぉ〜」


 あ、男の人だったのか。

 そのあたりの業界にまったく明るくない周と魁星と鏡音は、その人の性別すら想像がつかなかった。

 名前の響きから女の人かとすら思っていたので。


「今ではすっかり成功者で雲の上の人って感じになってるんだけど〜。まあ、僕のことは弟みたいにすっごく可愛がってくれるからぁ、甘えた声でおねだりしたら一発だけどねぇ」

「わあ……」


 世界五大音楽一族の後藤と幼馴染だったり、世界的に注目度が上がり続けているモデル兼俳優及びファッションブランド社長を“お兄ちゃん”扱いしたり、この人普通にとんでもねぇ人である。


「ってわけで明日か明後日にはなんとかなるんじゃなぁい? ダメだったら証拠写真とか動画撮っておきなぁ? 証拠があるのとないのじゃあ、大人を説得する時の攻撃力が違うからね〜」

「証拠、ですか」

「そー。スマホでもいいから、朝どんなふうに塀の内側で待ち伏せしてるのかを毎日、できるだけ動画の方がいいかな? 撮影してUSBメモリにでも入れて保存しておきなぁ」

「わかりました」


 確かに、事務所でも止めきれなければ今度はしっかりと証拠を提示して彼女の行為が『異常である』『迷惑である』と知らしめなければならない。

 彼女を追い詰める結果にはなるが、彼女の人生を正しく修正するのに必要と思えば。


「SBOの中も最悪キャラクターネームとアバターを変えて、フレンド解除すれば逃げられるだろうしねー」

「そうですね……」

「それにしても、現実(リアル)では不審な行動してSBOではドカてんにストーカーって、普通にヤバいね、その子」

「そうなんですよね……」


 それはもう否定のしようがない。

 淳が精一杯のフォローで「昔はここまでヤバくなかったんですけど」と言うが「今が問題なんだよねぇ」と宇月に言い返されてぐうの音も出なかった。


「どっちにしても、事務所に注意されても続くようなら間違いなくカウンセリング行きだから、ドカテン含めここのアパートの子たちは全員手を引きなねぇ? でも、毎日張っているってことはお目当てのナッシーの妹ちゃんはここの道通らないの?」

「自転車登校に変えて、ルートも変えたって言ってましたね」

「可愛いと可愛いで大変だもんねぇ。芸能科の寮に住んでた方がむしろ安全だったんじゃないのぉ?」

「智子は芸能科に興味ないんですよね。将来を見据えて普通科に通って勉強したいそうです」

「堅実派なんだねぇ。あんなに可愛いのに」

「しっかり者ですよね」


 ドヤ顔のシスコン。

 だが、智子の容姿を見たことのある者は「まあ、あの可愛さでは仕方ない」と頷く。


「ドカてん、他になにか心配ごととか、相談したいことある?」

「えっと……同じくLARAさんの話なのですが……」

「え? この話題まだ終わってなかったの」

「いえ、あの……オレ的にはここからが本番というか――」


 ごくり、と変な緊張感が流れる。

 もう結構LARAネタはお腹いっぱいなのだが、まだ序章だったのかもしれない?


「もしかしたら、オレが……『マギ』が『鏡音円』だと、彼女にバレたかもしれません」



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