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鏡音のアパートの不審者


「とりあえずゴールデンウィーク以降は普通に登校してきてくれる? IG夏の陣まで時間もないし、ナギーもそうだけどお前らレッスン不足。体力と持久力とかもっとつけてほしいしぃ〜。一年たちは一年たちで新曲もらってるでしょ? そのへん今どんな感じよ? って感じだしぃ」

「わかりました。俺も響くんも歌詞は完璧です。ダンスも……オレはSBOの中で練習したりはしていましたけれど……」

「柳くん、ネットドラマが放送開始したのでだいぶ時間に余裕はできていると思いますよ」

「ああ、例のBLの?」

「はい」


 へー、と淳以外が関心の声を上げる。

 ネットドラマなので各有料動画サイトで放送され、地上波ではクレームものの内容も放送されるらしい。

 さすがに柳はまだ十五歳なので、大人向けなシーンはまったくないが。

 その代わり、どんどん心の距離が近づいていく二人の姿を、繊細に描いている――らしい。


「ジュンジュンも出てるんだっけ?」

「うん。原作者さんに気に入ってもらって。と言っても、俺が出たのは最後の二話くらい。でも楽しかったー。二話しか出ないから気楽だったし」

「人気が出たら続編が出るんでしたよね?」

「そうらしいけど、今は放送が始まったばかりでわからないよ? 好評……とは聞いたけど」

「ナッシーちゃんと宣伝してたもんねぇ?」

「もちろん! 柳くんの主演ですから! 俺も演技の指導を少しお手伝いしましたし!」


 と、ドヤ顔。

 鏡音も「BLって、あれですよね。男の子同士の」と少し困惑。

 でも、同期が主演なので「自粛期間中に観てみます」と呟く。

 宇月と淳が必死に「BL、適性ないとしんどいと思うから」「無理しちゃダメだよぉ。嫌いになるくらいなら知らない世界のままにしてよぉ」と叫ぶ。

 世の中、淳や宇月みたいにBLを受け付けられる男の子ばかりではない。

 見てトラウマになられても悲しいのだ。

 ちゃんと特殊性癖の自覚があるので、割とガチめに止めている。


「いや、あの……でも、響くん主演のものだから、観たい、です」

「本当にぃ? 無理しないでよぉ?」

「うんうん。無理だな、って思ったらすぐに視聴をやめるんだよ」

「は、はあ……」


 ちなみに周と魁星は一応観て平気だったので視聴はしている。

 BL営業の参考になるから、というのと純粋にオーディションに呼ばれたので。


「そういえば……音無先輩にお聞きしたいことがあったのですが」

「俺? なに?」

「その……以前遭遇した音無先輩の妹さんとトラブルになっていた女の子……雨門ららさんという方……」

「あ……………………ああ…………う、うん」


 思わず思い切り変な沈黙が入ってしまった。

 こほ、と謎の咳払いをして笑顔を取り繕う。

 もうすでにその名前が出た時点で嫌な予感しかしないのだが。


「SBOのLARAさんと同一人物……なのではと……ちょっと思っていて……」


 無言で頭を抱えた淳。

 その姿に鏡音の目からあまり残っていなかったハイライトが完全に消えた。


「やはりそうなのですか?」

「多分ね……? 俺もさすがに確信はないよ? でもまあ、その……LARAってローマ字、ららちゃんの芸名でもあるからまさかなぁー、と半々? ららちゃんのファンが容姿も真似しているのかもしれないし?」

「そ、そうか。その可能性もあるんですね」

「もしかしてつき纏われているの?」

「はい。ゲームの中ですけど……」


 もう一度頭を抱える淳。

 まあ、淳が頭を抱えたところでどうすることもできないのだけれど。

 雨門家、ご家族もららに甘い変な人ばかりなので。


「あと、現実でもアパートの前で待ち伏せも続いていて」

「へぁ!? 現実でも!?」

「現実では多分、音無先輩の妹さん目当てだとは思うのですが、他のアパートの住人も朝見かけていて、住人内でちょっと噂になっているんです」

「エッ」


 早朝六時くらいからアパートを囲う塀の内側で待ち伏せ行為を行っているらしい。

 一応、このアパートは男子寮。

 朝早くから女の子が塀にへばりついていたらそりゃあアパートの住民内で噂にもなる。

 しかし、どこに相談していいのかわからない。

 そこで鏡音は知り合いの知り合い、のような距離の淳に相談してみよう、ということになったという経緯のようだ。


「寮のトラブルってどこに相談するんですか?」

「あれ? 入寮の時に相談窓口ダイヤルとか教えてもらっていない?」

「それが……寮の住人になにかするわけではないので、様子を見たら? って言われたんです。むしろ、『女の子に手を出さないように』みたいに言われました。相手は女の子だし、東雲学院芸能科の生徒は全員アイドルなのだから、って」

「それは――まあ、そういう方向に心配するよねぇ……」


 と宇月も呆れ顔。

 要するに相談窓口の人はアイドルのスキャンダルに気をつけろ、という方向。

 だが、寮アパートに住む住人たちはシンプルに不審者が怖い。

 今のところ無害だが、普通に気持ち悪いのだ。

 男だって不審な女がいたら、そう思う。


「でも毎朝ランニングから帰ってくると塀にへばりついている女の子がいたら、その子がどんなに可愛くても気味が悪い、怖いってみんな言ってるんです。かと言ってオレたちの方から声をかけるのも、また別のトラブルになるかもしれないですし」

「うん、まあ、そうね。間違いなくららちゃんは、噛みついてくるね」

「エッ。そういうタイプの子なの?」

「うん。うちの智子より気が強い。というか、俺はあの子より気の強い女の子を見たことないかも」

「それはヤバいねぇ〜。っていうか、そのららちゃん? ってなんのために塀にへばりついて待ち伏せ? してるの? 誰か待ってるってことだよね?」


 事情を知らない宇月と周と魁星は、まずそこから。

 顔を見合わせる淳と鏡音。

 まあ、隠すようなことでもないだろう。



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