東雲芸能科GP、二日目(2)
「え、そ、そ、そ、そ、それは……ええと……」
周、超困惑。
それはそう。
コメントしづらい。
つまり、まあ、そういうことです。
「ファンの方々もご存じなのですか?」
「冬紋先輩ってイケメンだからプロフィールも調べるじゃん? 公式ホームページの。そうすると普通に書いてある」
「え…………ええ…………?」
「おじいさんの代で辞めているから、今は普通の建築会社なんだって。まあ、でも、その……どうしても、ね?」
「それはそうでしょうね。……なるほど……それは……納得しました」
触れづらすぎて、最推しにするにはなかなか……ということ。
本人も最初は普通科を希望していたらしい。
「Colorの四人は全員幼馴染なんだよね」
「え!? そうなんですか!?」
「うん。それで、実家のこともあるから、冬紋先輩は普通科に通って静かに生きようって思っていたらしいんだけれど、他の三人……特に夏山先輩が冬紋先輩を強く誘って、芸能科で幼馴染四人でアイドルをやろう、ってことになったみたい。幼馴染の絆がいいんだよね〜」
一年生の冬――淳たちが受験勉強の頃。
昨年の淳たちのように、年末の『聖魔勇祭』で『トップ4』の一人に選ばれた夏山は、幼馴染たちへの想い……特にアイドルを辞めて普通科に行きたがっていた冬紋への気持ちを吐露した。
その時の感動は今も淳たち東雲学院芸能科を推すファンの心に残っており、本当に素晴らしかったと語る。
Colorの幼馴染四人の絆を見て、冬紋翡翠だけを推すというよりはColor四人を推す、というファンがほとんど。
その中でもリーダーの夏山は、まさにリーダーでありアイドル、という感じで人気が高い。
普通に顔もいいし、身体能力も高くカリスマ性もあるからだ。
そりゃあ『トップ4』にも選ばれる。
「幼馴染の絆、というやつですか……。それなら納得です。『花鳥風月』の桃花鳥先輩や『Monday』の松土先輩は校内ランキングで五位、六位の人たちですから、まあそのままって感じですね」
「うん。っていうことは、やっぱりあれだよね、宇月先輩の予想通りって感じだよね」
「そうですね。ただ、学年も関係なくコラボユニットメンバーにする予定とのことですから、二年の代表で北王子くんと一年の愛咲くん……になるのでしょうか? いや、二年生は芽黒くんもいい位置にいるので北王子くんとどちらが選ばれるか」
「あれ? コラボユニットって何人までなの?」
「スケジュールを合わせる影響で五人が限界、とのことですね」
「五人かぁ〜」
今年三年生の夏山、桃花鳥、松土は確定にしてあげたい。
しかし、北王子と芽黒、一年生の愛咲にもあの地獄を……いや、IGという大舞台を経験してほしい気持ちもある。
五人となると、少なくとも一人は切り捨てられてしまう。
「宇月先輩に六人なんとかイケないですかね、って聞いてみようか……」
「淳……欲望が口から出ていますよ」
「だ、だってー!」
呆れられたが、大舞台で東雲学院のアイドルが一組で多くパフォーマンスをするところが見たいドルオタ。
周には「私欲はいけません」と叱られてしまった。
そんな淳の願いを宇月に伝えられるであろう午後の部の終わり。
MCを担当していた魔王軍、麻野と茅原が今日の結果を改めて読み上げる。
明日の優勝決定戦に参加する六組のグループは『Color』、『Monday』『SAMURAI』『Puff』『らいじんぐ』『花鳥風月』に決定した。
ここで二年生だけのグループ、『SAMURAI』が入ってきたのは淳たちとしても嬉しい。
「らいじんぐとPuffの先輩たちにもIGに行ってほしい――!」
「淳……」
「ジュンジュンどうしたの? いつものドルオタ発作?」
「ドルオタ発作です。困ったものです」
「あらら」
ドルオタ発作って言われるようになっている。
「さーて、ここで主催の一人、星光騎士団の宇月美桜からなんか発表があるらしいぜー」
「はいはーい! お呼ばれしたよ! 星光騎士団、団長の宇月美桜だよぉ〜! 主催の一人である僕から参加者及びお客さんたちにお知らせがあっりまーーーす⭐︎」
可愛い。
撮影部屋で野外大型ステージを撮影していたが、らいじんぐとPuffの三年生たちに「IGに出てほしい〜」と床に突っ伏していた淳が立ち上がってめちゃくちゃ真顔になる。
そんなドルオタの姿になんとも言えない顔をする周と魁星。
「お知らせ? なに?」
ステージ上で茅原が怪訝な表情をする。
怪訝な顔もかっこいい、と淳が真顔で呟くので魁星が嫌そうな顔をしたが淳は気づかない。
「重・大・発・表〜! なんとなんとー! 明日の優勝決定戦を勝ち抜き、見事優勝を果たした『優勝グループ』に景品をご用意いたしました〜! ほらほら、東雲芸能科GPは個人ランキングでコラボユニットを組む〜って話はすでに告知されてたと思うんだけど〜、それだとせっかくグループで参加しているのにグループにご褒美がないじゃん? なので! いろんな伝手を使って優勝グループにご褒美を用意したよ!」
「へー! なにもらえるんだ? 肉か?」
「そうだね、僕のポケットマネーからお肉と蟹の詰め合わせも用意してあるよ。二位がお肉で三位が蟹ね」
「「はあああああああああぁ!?」」
いえい、とピースサインをする宇月にマジで驚く麻野と茅原。
まさかの宇月の実費からご褒美。
しかも肉と蟹。
参加グループからも「マジか!」「肉!」「嘘だろ肉!?」
「肉!? 蟹!?」とどよめきが凄まじい。
なんなら司会二人も「ずりぃ!」「俺たちが参加できないイベントでなんでそんないいもん景品に出すんだよ! ずりぃ!」とガチで羨ましがる。
さらに初日と本日、敗退したグループからも「ずりいいぃ!」「それを知ってたらもっと頑張ったのに!」という声が上がるので宇月に「ばーかばーか。僕の言う通り全力を尽くさないからだよ、ばーか」と煽る煽る。
「っていうか、そのお肉や蟹よりも“イイモノ”が優勝グループに用意してあるって考えて〜。どう? めっちゃやる気出たでしょ?」
「「「「出たー!」」」」
参加グループの待機している方に向かって宇月が話しかければ、そんな大声の返事。
そりゃあ、肉と蟹よりいいもの、なんて言われたら男子校生は食欲が刺激されるに決まっている。
……残念ながら食べ物ではないんだが。
「っていうわけでぇ、明日はいよいよ優勝が決まるよぉ。もちろん引き続き個人投票もされるからぁ、明日も引き続き応援に来てくれたら嬉しいな〜! 推しがまだ見つかってない人も、探しに来てねぇ? 以上! 主催の一人の星光騎士団、宇月美桜でしたー」






