東雲芸能科GP、二日目(1)
(しかし、俺も来年星光騎士団の団長になったらこのくらい先々のこと、学院全体のことまで考えなければならないんだな。いや、宇月先輩はちょっと考えすぎなところがあるような気がしないでもないけれど……)
だが、これこそが“リーダー”の姿なのだろう。
Frenzyのリーダーとして、淳もこのくらい視野を広げていかねばならないのかもしれない、と学びを得た気がする。
なお、優勝者にIG夏の陣に出場権については、優勝者が決まった時にその場でサプライズ景品としてパネルを手渡すことになった。
優勝者、驚きすぎて腰抜かさないだろうか。
「そういえばコラボユニットのメンバー候補はどんな感じ?」
「Colorの夏山真紅先輩と、『花鳥風月』の桃花鳥咲良先輩、『Monday』の松土結良先輩、『Egg Ball』の北王子密……この辺りの人気が高いですね」
「へぇー。やっぱり三年生は強いね。そこに食い込む北王子くんすごい」
「次点で『SAMURAI』の芽黒那実。去年のコラボユニットから人気が安定しているようですね」
スマホを見せてくれる。
こちらは運営用のページだ。
そこには現在の東雲芸能科GPの個人のポイントランキングが表示されていた。
三年生が中心な中、数人の二年生。
一年生だと元々の知名度の高いの愛咲由依が十位に入っている。
愛咲は柳と同じ子役上がり俳優。
次点で一年生でランキングに入っているのは楪ルシル。
そして不可思議なのは、休んでいる鏡音の名前も下の方に入っていること。
今回の東雲芸能科GPは星光騎士団、勇士隊、魔王軍を除いたグループとそのメンバーのみを対象としたもの。
それなのにわざわざ指名入力投票で鏡音に投票するなんて。
「鏡音くんに投票している人は、鏡音くんへの応援の気持ちで投票したのかな」
「そうでしょうね。鏡音くんに見せてあげましょう」
と、言って周がスクショを撮る。
淳もせっかくなのでスクショしておく。
鏡音には夕方に会いにいく予定なので、その時に見せてあげよう。
「しかし」
顔を上げる周。
視線の先には野外大型モニター。
現在のグループランキングと、個人ランキング、宣伝や今後の対戦カードが十秒間隔で映り変わる。
「IGは本当にしんどかったですから、今回の東雲芸能科GPは他のグループにも擬似体験してもらえるので、若干気分がいいですね」
「周ってたまに毒舌になるよね〜。言いたいことはわかるけれど」
ただ有名どころだからと嫉妬されることが多い三大大手グループ。
小さな嫉妬の声は淳の耳にも聞こえてくる。
だいたいは、『地獄の洗礼』で挫折した者たちからのもの。
昨年のコラボユニット以降はめっきり聞かなくなったが、周や魁星の耳にはまだまだ聞こえてくるらしい。
三年生たちはもう、活動による酸いも甘いも知り抜いているので他人に直接そんなことを言ったりはしない。
そういうことを言うやつは、三年に上がる前に絶滅する。
まだ残っている彼らも今年中に自分の限界なりなんなりから転科を考える頃だろう。
しかしウザいものはウザい。
そういう彼らに擬似IGを経験してもらい、本番を乗り越えた三大大手グループメンバーのすごさ、過酷さを味わってもらいたい。
実際、宇月が嫌悪している実力不足のアイドルたちは、二日目ですでに心折れているらしい。
一応、IGよりもお客さんの数は少ないし、規模は学院の中だけ。
かなりゆるゆるなので、初日から三日目までMC入れつつ既存曲を三曲歌えばOK。
一日三曲を三日連続。
IGの三日目なんて勝敗が決まるまでパフォーマンスし続けなければならないのに。
ただ、戦いの形式は同じ。
敗退したグループはメインステージである野外大型ステージ以外の場所でライブを行う。
生き残るグループは今日で半分以下――六グループになる。
明日はその六グループ以外で“前座”を行う。
午後からが優勝決定戦。
それでもやはり、連日のライブは体力も気力も消費する。
「それに、Colorがほぼ一人勝ちですしね」
「夏山先輩、去年の『トップ4』だしね」
「しかし……Colorは四人ともキャラが濃いといいますか。個人ランキングで他の三人の先輩方の順位が低いのが意外です」
首を傾げる周に、淳はふぅ、と溜息を吐く。
別に周に対して「これだから」とは言わない。
ただ、理由はなんとなくわかる。
「初春珊瑚先輩は見ての通り宇月先輩と同じ“可愛い系”だから伸び悩むのは仕方ない。あと、訛りでなに言ってるのかちょっとわからないんだよね。訛りが可愛いっていう人もそれなりに多いんだけど……」
「ああ……MCの時なに言っているのかまったくわからないですよね。いえ、言ってる内容は『こうかな?』という感じですけど」
「結構好き好きというか……人を選ぶっていうか」
「なるほど」
いや、普通に可愛いんだが。
可愛いアイドルは東雲学院芸能科三年生には宇月美桜という有名どころがいるので、どうしても影になりがち。
星光騎士団が有名すぎるのもあるのだが、桃色の髪の初春よりも黒髪の宇月の方がやはり顔立ちがはっきりして見えるし、声優事務所に入所ができたという点で実力もあるからだ。
「睦秋琥珀先輩は……ぶっちゃけガラが悪い」
「ガラが………………悪い人なのですか?」
「うん。麻野先輩もガラが悪い感じだけど、あの人はステージ上だといかにも『魔王軍』って感じで色気があるんだけど……」
睦秋琥珀はステージ上でもガラが悪い。
と、こっそりと言うと周も沈黙。
「冬紋翡翠先輩は実家が“ゴツい”」
「……実家が……ゴツい……?」
なかなか聞かない表現だろう。
淳も彼の実家事情を聞いた時「お、おう……」となった。
「元ヤのつくお家なんだって」
「………………」
周が後ろにのけぞって沈黙した。






