家事苦手な鏡音くん
「まあ、やっぱり叔母には暴力を振るったことについてはコラッて怒られましたけど」
(((『コラッ』で済むのか)))
叔母、優しい。のか?
「オレを産んだ人は音沙汰ないですね。祖父母も」
「そ、そうなんだぁ。でも環境としてはブサーと同じ感じ? いや、でもちゃんと保護者がいるんだもんね、ドカテンは。なら、保護者さんは問題ないのか」
「はい。叔母、忙しいのにオレを引き取って育ててくれて……尊敬しています。でも、自分の幸せも考えてほしいです。仕事と結婚した、って言ってるんですけど……」
仕事と結婚してるのか。
完全なエリートキャリアウーマンなんだろう。
「叔母、頭いいのにオレ、勉強苦手で申し訳ないです」
「いやいや、叔母様の頭がよすぎだよぉ。でも、法関係の人が身内なのは心強いねぇ。……ブサーのこと、相談してみるのもいいかも? あ、でも相談料とか払わなきゃいけないんだっけ」
「そうですね。でも、弁護士と比べれば安めです。叔母の場合一時間三千円って言ってました」
「へぇ、そうなんだぁ。なんか知らない世界だからちょっと勉強になるな。行政書士さんってどんな仕事するの?」
「法的な拘束力のある誓約書や契約書、公正証書の作成や素人の作った契約書のチェック、刑事事件や営業許可の申請、法人設立の手続き……簡単に言うと、素人にはちょっと難しい手続きや申請を一通りなんでも代行します、みたいな仕事ですね。弁護士に比べて権限がないものが多いんですけど、弁護士よりも身近な存在です」
へーーー、と思わず声を漏らす。
しかし、そこまで聞いた宇月が「ん?」と首を傾げる。
「叔母さんって料理上手いし、ドカテンも料理手伝うんでしょ?」
「え? はい」
「……なんで僕の誕生日にカップケーキ作った時、酷かったの?」
あ。
全員の視線が鏡音に向けられる。
そっと目を背ける鏡音。
「自分も料理は調理研究部に通うおかげでかなりできるようにはなりましたが、なんで経験者なのにあの悲惨なことに……?」
「叔母さんが指示してくれるので……」
「なんでそういうとこだけ指示待ち人間なわけぇ? ナギーはアレンジャーってのは聞いてたけど、ドカテンはとんでも行動やらかしてたよね?」
「そ、それはその……やはり叔母の指示がなくて……」
「お前さては日常生活ポンコツだな?」
サッと目を背ける鏡音。
掃除と洗濯誰がしてた? と宇月が聞くと「家事代行の人が」と小声で告げる。
忙しい叔母が雇った家事代行が、三日に一度来てある程度の家事をやっていってくれたらしい。
中学時代は成長期で食事量が増えたため、叔母が気を使って家事代行さんに夕飯を追加で出来立てを作ってくれとお願いしてくれたり。
「クオーはちゃんとお部屋掃除したり洗濯は? できてる?」
「動画を見ながら覚えました」
「ほらね、普通ここまでするものなの。ドカテンさぁ、ゲームばっかりやってて部屋の掃除とかしてないんじゃないの? お風呂とかトイレとかさぁ」
「………………」
「叔母さんに育ててもらって、自立目指して一人暮らしするために寮部屋に入ったんじゃないの?」
「うっ……」
ハァーーー、と深々溜息を吐く宇月。
そしてチョップ。
レベル差もあり、ちょっと揺れただけの鏡音。
「ライブ終わったらログアウトして今日はもう寝なさい。んで、明日は朝から部屋のお掃除をしなさい。もしくは家事代行を探しなさーい」
「は、はい……」
人生何周目だ? というくらいにしっかりした子だと思っていたが、やはり苦手なことはあるようだ。
明日、他の一年生たちはバトルオーデションだが柳と鏡音はすでに所属している事務所と団体があるのでどのみち休み。
宇月は学院の方にかかりきりになるが、明日は午後四時に終わるので「東雲GPが終わったら手伝いに行ってあけるから、それまで自分でできるとこまでやりなー」とデコピン。
デコピンをかましておきながらも、言ってることは優しい。
やはり一度懐に入れた者には優しい宇月。
その分、身内外には手厳しいが。
「ライブ……やっぱりやらなきゃダメなんですか」
「当たり前でしょー。とりあえず今日は星光騎士団の曲は封印。流行りの曲を何曲か歌うよー。ドカテンは歌える曲ある?」
「え、ええと……」
鏡音が宇月に最近作業で聴いている流行り曲をリストアップ。
その中で淳や周も歌えるものを三曲選んで、カラオケで流せると確認。
「うん、じゃあ振付は適当。仲良し女子グループっていうていでライブしてこよー」
「はーい」
「「はあ………………」」
鏡音と周の深々とした溜息は、自分のアバターがかわいい女の子だから、なのだろう。
不本意すぎる容姿と声でのライブ。
淳はまったく抵抗がないのだが、女の子の姿でライブするのはそんなに抵抗があるのだろうか?
「ナッシーはネカマに抵抗ないんだねぇ?」
「ないですね。どうせなら美人系の女の子の姿の方がテンション上がるかなぁ、くらいに思ってました。宇月先輩もないですよね」
「ふははははっ! 蔵梨柚子様がネカマプレイヤーだし、僕って元々可愛いしねぇ」
それはそう。
「でも嫌がる人は心底嫌がるよねぇ♪」
「……なにか考えてます?」
「クオーには申し訳ないけどぉ、ドカテンは一発“底”を経験すればライブの緊張感に耐性つくんじゃない? まあ、IGぐらいのステージから見る光景が一番効くと思うけど、まだ時間あるしねー」
「……!」
IG夏の陣の時に、初めて数千人レベルのステージで歌った。
ああ、あの時の光景は確かに一生忘れることはないだろう。
「そうですね」






