鏡音んち
(((ガチ勢やばすぎる……)))
変な汗をかく先輩たち。
なお、ミオのレベルは36。
ルカのレベルは41である。
もうシーナ以外の先輩たちのレベルを超えちゃった後輩。
「先輩方、お疲れ様です」
「おつー。ドカてん、じゃなかったマギ、レベル上げはそろそろいいよぉ?」
「え」
出会い頭でミオにそんなことを言われて、わかりやすくショックを受けるマギ。
そもそも、あっという間に現時点の到達限界点に達しそうになっているのだ。
これ以上鍛え上げられても、正直ライブをするという東雲学院芸能科プレイヤーの本来の目的を忘れられては困る。
本当はキャラクターアバターの種類を増やして、ステージにあげた方がいい。
「ええ……!? ライブするんですか!? い、今から!?」
「うん。っていうかそもそもSBOでキャラクターを作ったのはライブするためだからね?」
「アッ」
ものすごくいまの今まで忘れてたみたいな鳴き声出た。
「まあ、正体明かすつもりもないからそのままでもいいけれど、もう一つくらいアバター作ってお気に入りに入れておけば? アイドルじゃないライブ練習用のと、レベリング用で」
「そ……そうですね。そうします」
「じゃ、ファーストソングに行こうか~」
ミオに促されて、がっくり項垂れたマギを連れファーストソングに移動。
星光騎士団の拠点で“ライブ用”のアバターを作って、完成したのはロリ系美少女。
「…………………………どうしてこんなことに」
「周と鏡音くん男の子のアバターだとバレそうなんだもん。仕方ないよ……」
「現実と徹底的にかけ離れた、むしろ『ありきたりな女性アイドル』の方がいいよねぇ」
元々女性アバターのシーナとミオはともかく、周と鏡音はアバターも本人に性格が似ているので、わざわざ女性アバターにして名前も鏡音は『マナカ』に変更。
名前まで変えたのは「レベリング用と一緒にしたくないです」という頑ななものによる。
当然声も女性っぽく高く設定。
「というか、宇月先輩と音無先輩はそのままでいいんですか?」
「俺はレベリング用とライブ用にしたいとかのこだわりないし」
「僕も~」
元々女性アバターなのでまったく気にしない淳と宇月。
再び撃沈して肩を落とす周と鏡音。
「本当はナギーも連れてきたいところだけれど、マネさんにNG返されたんだよねぇ」
「怪我はなかったと聞いていますが」
「うーん、詳しく聞いてないけれどナギーのママさんの体調が悪いんだって。もしかしたらナギーが襲われて心労が祟っちゃったのかもね」
「ああ、あのストーカー、身内の方って言ってましたもんね」
いくら腹を括ったとはいえ、本当に息子が元義兄に襲われたと聞けば具合も悪くなるだろう。
明日はバトルオーディションではあるものの、元々お休みだったので柳にはしっかりとお母さんを支えてあげてほしいと思う。
「そういえばドカてんのご両親は今回のことなんか言ってたの?」
「うちは母が金と男大好きのクズ人間で、叔母が代わりに育ててくれているんですけど」
「え。ちょ、それ僕ら聞いていいの?」
「別に隠してないので。今時珍しくもないと思いますし」
「う……ま、まあ、それはそうだけれど……」
主に魁星の母とか。
まさかの同類母登場。
「叔母は支援なしで俺を育ててくれているんです。祖父母は叔母にとっていわゆる毒親だったそうで。俺を産んだ人には甘かったそうなんですけれど、妹の叔母は蔑ろにされて育ったとかで。なんか祖父母の家から『跡取りだからよこせ』と言われて、俺が自己判断できる年齢まで黙っていろ、口出したいなら先に金を出せ、と言ったらすっこんだそうで」
「「「………………」」」
芸能科、そこそこクソ毒親が多い。
こういう話は残念ながら『よくある話』なのだが、家庭環境がそれなりにいい宇月と家族仲激良しの淳は聞く度に胸が痛んでしまう。
そして叔母、強いな。
「で、今回の件、叔母に話したんですけど『柳くんが無事でよかったね』としか。叔母は行政書士なので、もし必要なら頼ってほしいって柳くんの保護者に紹介してくれてもいい、と営業までかけてくる始末でしたね」
「おぉう……」
行政書士はなんとなく高給取りの過酷職のようなイメージ。
どんなことをするのかわからないが、宇月が「ドカテンの叔母さん、忙しそうだね」と言うと「忙しいですね。生活費は困らなかったんですけど、いつも目の下にクマを作っていて健康面が心配です」とのこと。
二人暮らしなのになかなか帰ってこない叔母だが、趣味は料理。
ストレス発散のために、休みの日は異様なほどの食材を買ってきて一週間分、二人分の食事を作り置きしてしまうらしい。
しかも、叔母は普段一人きりにしてしまうからと作り置きの食事を作る時は「一緒に作ろう」と誘ってくれる。
一人の時間が多かったので「ゲームをしたいのですが」と控えめにお願いしたら「いいよー。独り時間ばっかりでごめんね」抱き締めてお願いを聞いてくれた。
そういう一人時間をFPSゲームで潰していたら、ゲーマーの才能を開花させてしまったらしい。
そしてゲーム仲間の一人に「上手いからゲーム配信したら? 登録者数増えれば家計の足しになるし」と誘われて、お金には困っていないが血の繋がらない叔母の世話になりっ放しになるのは申し訳がない、と叔母に相談しながら配信を開始した。
配信者をやるにあたり、行政書士の叔母に口を酸っぱくして炎上の防止方法、炎上した場合の対処、大人に対しての礼儀作法、暴言リスクなどを教わったとか。
(ああ、なるほど。それであの人生何周目ってくらいの完璧な対応……)
叔母の指導のおかげだった、ということのようだ。
実際、その効果は絶大。
鏡音の丁寧かつ完璧な対応は、ネットの大多数を味方にした。
今回の件も叔母に相談して、ソッコーで叔母が代理人を立てて対応してくれたそうな。
強い。






