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神野VS槇


「お給料が出るならいいけど?」

「えっ」

「無料でやるわけないよね? 俺の時間を、まさか無料で使えると思ってる?」

「そ、そんなことは……。ですがあの、一応後輩たち、ということですし」

「それがなに? 関係ないよね? まさかプライベートの時間を使って後輩指導をしろって言ってる? 俺に?」

「………………。社長にかけ合ってみます」

「うん、それならいいよ。俺も後輩を可愛がるのは好きだしね」


 強い。

 一応プロデューサー兼マネージャーのはずなのだが、槇が手も足も出ない。

 あまりにも見事な返り討ち。


「技術にも時間にもお金を払う姿勢がないと、逆に足下見られるから気をつけた方がいいよね、アンタ。まあ、普通につまんない男を演じてるのもどうにかした方がいいと思うけどね。演技力なさすぎて性悪さが漏れ出てるよ? そんなだから上総と梅春に警戒されちゃうんじゃない? ちょっとくらいその腐った性根を出してあげた方が、二人とも素直になってくれると思うよ。お前気持ち悪いもんね」


 笑顔でなんてことを言うんだ。

 淳がサーっと顔を青くするが、石動と松田は「それな」と言わんばかり。

 毒舌キャラで有名だが、それは身内、同事務所内の同僚相手だとより鋭利になる。

 が、神野の言葉に槇が顔を強張らせて固まった。


「君……確かまだ二十一歳、ですよね? 俺をそこまで見透かす子には会ったことがないですよ」

「いやー、今年の二月で二十二歳になったけどね? あと、俺はクズセンサー持ちなの。お前確実にクズでしょ? 社長もどういうつもりでこんな教育に悪い男を未成年含むグループのマネージャーだかプロデューサーにしたんだろうね?」

「そうですね。まあ、物書きなんて基本的に変人でクズでしょう。性格よくていい話なんて書けませんよ」

晴日(はれひ)くんはそんなことないよ? 物書き全員一緒にすんなよ、そういうところがクズなんだよね」

「おや、そうでした?」


 にこにこ、二人が笑顔で交わす会話は誰がどう聞いてもバチバチだ。

 淳が冷や汗で背筋が冷える中、巻き込まれる春日芸能事務所所属の俳優兼部隊脚本家の甘宮晴日(あまみやはれひ)

 歳も近く、一晴と同じ俳優業の人なので意外と会話をするらしい。

 ハラハラしながら見ていると、突然槇が神野の顎を指で持ち上げる。

 あれは伝説の、顎クイ……!


「面白い。これほど美しいのに、君は自分を嫌いらしい。人に攻撃的なのは自分が攻撃されたくないからでしょう。しかし、それにしては相手の突かれて痛いところを的確に見抜く。人間をよく見ている。強く美しいからこその脆さ。ぜひすべて暴いて見てみたくなる人ですね」

「悪いけど俺、アンタみたいなクズは好みじゃないんだよねぇ」


 やんわり槇の腕を叩き落とす。

 もうその仕草ですら美しい。

 ハラハラヒヤヒヤ見ていた淳と松田は二人の空気がわかりやすく冷えて、そろそろ胃の痛みを感じ始めた。


「栄治の身はどこもかしこも商売道具ですぞ。許可なく触れるなどなにをお考えなのでしょうな?」

「……!?」

「しまえしまえ。お前最近刀抜くのに躊躇なさすぎになってるよ」


 槇の喉仏に真紅の刃が突きつけられる。

 思わず両手を上げて降参ポーズをする槇。

 刀を突きつけたのは、鶴城一晴。

 待ってほしい。

 ガチの真剣なのだが?


「栄治もすぐに喧嘩を売るのはやめてくださいと、言っているでしょう? あなたはその美貌と遠慮のない性格で、気色の悪いタイプの変態を惹き寄せがちなのですから。自分含めて」

「自覚あるなら自制してほしいよね」


 鶴城がやれやれ、と刀を鞘に納める。

 その横で神野もやれやれと肩を竦める。

 鶴城一晴、自分が気持ち悪い自覚があったのか。


「妖刀……本物の……」

「え……?」

「……鶴城一晴も“こっち側”かよ……」


 石動が呟き、まるで睨みつけるように鶴城を見る。

 こっち側。

 神様の社長と、淳のわからない会話をする石動。

 つまり石動も“そっち側”ということなのか。


(……あれ? 上総先輩も社長たち側ってこと……?)


 そして石動に“こっち側”と言われるということは、鶴城一晴も――?

 確かに、もう一度鶴城の手元を見るとなにも持っていない。

 先程紅い刀を持っていたはずなのに。


「あれ? 刀持ってなかった……?」

「持って……た、ような……?」

「あれは本物の妖刀。具現化しなければ人の目には基本的に見えない。気色の悪い男だな、妖刀と共生していやがる。妖刀に認められるなんて精神と性格ぶっ壊れてるな」

「えええ……?」

「よ、妖刀?」

「ま、見えたらとりあえず近づくな。普通の刀よりもヤバい」


 松田と顔を見合わせる。

 これは、多分アレだ。

 こういう時にこそ、神野栄治理論が発動するのだ。

 見ないふり、聞こえないふり、知らないふり。

 淳の中で『神様側』に石動、鶴城が追加。

 この二人がなにかやったり言ったりしても、見ないふり、聞かないふりをすることにした。


「で、なんの話をしていたのですか?」

「お色気の講師をしてって頼まれたの。社長にスケジュールとお給料かけあってくれたら別にいいよって言ったよね」

「は? いったいなにを教える気なのですか……!?」

「別に。モデルとしての仕事で意識していることとか教えればいいんじゃない? お前が考えているようなことは教えないよね。普通に。だって未成年含むだし」

「栄治! あなたは自分の色香の強さをもっと自覚してくだされ!」

「うるせぇな。黙れ」


 ついに神野がガチトーンで鶴城を睨みつけた。

 美人が凄むと本当に怖い。

 ただ、淳としては鶴城に完全同意。

 神野栄治、本人が自分の色気を理解してない。



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