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春日芸能事務所の事務所で


「というわけで、俺の同期の花房魁星を春日芸能事務所にお誘いしてもいいでしょうか?」

「いいですよー。一年間は研修生ということで研修を時々受けていただければ、本人の希望を聞きながら働いていただきましょうか」

「え…………あ、は、はい……」

「うん? どうかしました?」


 あまりにも、あっさり。

 本当にケロリと返事をされてしまい、なんというか、力が抜けてしまった。


「そういえば、春樹が気にしていた鏡音円くんは今どうなっているのですか?」

「はい? 鏡音くんですか? 鏡音くんは一ヶ月くらい休むことになりそうです。ここ一週間はSBOの中でレベル上げをしているみたいですね。あと、格ゲーの練習をオフラインでやっているとか」

「SBOに? ……自分でバフを歌ってます?」

「多分……?」


 本人が今なにをしているのかまで淳は把握していないので、首を傾げる。

 なにを思ったのか、社長がパソコンの方をカタカタと打ち込んでなにか検索を始めた。

 ちょうどその時、事務所に石動が入ってくる。


「レッスン室にいないと思ったらこんなとこでなにしてんだよ」

「上総先輩こそ、事務所になにか用事ですか?」

「個人の仕事で給与明細発行するから来いって言われてた」

「ああ」


 主にネットの歌番組やネットドラマ、春日芸能事務所の公式チャネルの公式番組のゲストなど。

 収入自体は大したことはないが、固定給があるので生活は問題ないらしい。

 明細を事務員の舟崎さんにもらって、淳のところまでやってきた。


「――『ランクC』ですか。ふむ……」

神座(かむくら)候補の話? は? お前知ってる(・・・・)側?」

「え? え?」

「ああ、ごめんなさい。淳は知らない側ですよ。というか、栄治と同じく無視するように言い含めている子なので」

「じゃあ、無関係の人間の前でそういう話するなよ。抜けている神様だな」

「ごめんなさい」


 てへぺろ、とする社長は大変に可愛い。

 が、石動は心底嫌そうな顔。

 上司……というよりも雇い主相手にこんな顔をして許されるのだから春日社長は優しすぎるというか、石動が横暴すぎるというか。


(……神様……上総先輩も社長のこと神様って思っているのか)


 忘れがちだが春日彗は『神様』らしい。

 彼曰く「こっち側のことは見てみぬふり、聞いてないふり、知らぬふりをしなさい」とのことだ。

 神野栄治も巻き込まれたくないから、見ざる言わざる聞かざるを徹底しているとか。

 それならばそれで淳も神野栄治のように見ざる言わざる聞かざるを続けるつもりなのだが、時々淳たちにも無関係ではないような話題を出す。


「しかし、最近変な夢をよく見るのです。僕は『先見の眼』も持っているので、少し心配なのですよ。トリシェさんに相談しようかな、と思っていた矢先に小野口くんの方に問題が起きたというし……はあ、やれやれです」

「はぁ。あんた『先見の眼』持ちだったのか。本当に神様なんだな」

「信じてなかったんですかぁ? まあ、いいですけど。神座(かむくら)の才能がある者は少ないわけではありませんが、鏡音円くんも一応うちで囲っておきたいですね。うちで無理なら秋野くんのところでもよいのですが」


 思わず石動の方を見上げる。

 視線に気づいた石動には首を横に振られた。

 無視しろ、ということのようだ。


「俺が知らなくても問題ないこと、なんですよね?」

「まあ、そうですね。今のところ」


 含みがすごい。

 困る淳に、春日社長は「すみません。花房魁星くんの話でしたね。今度連れてきてください。連絡先を教えてくれるのでもいいですよ」と言う。

 魁星に一応、『社長に魁星の連絡先教えてもいい?』とメッセージを送っておいて、おそらく今午後の部開催中なので夕方に返事が来ると思います、と返事をしておく。


「では、一応花房魁星くん用に書類を作っておきますね」

「わがままを言ってすみません」

「いえいえ。明日ライブオーディションなので、もしいい子がいたら研修生に入れるつもりだったので一人増えても構いませんよ。うちは他の事務所みたいにお金に困っていないので、無償で通わせる分難易度が高いですけど」

「今年はBlossom(ブロッサム)のおかげで経験者や有名な子が多いですから、見応えがあると思います。うちの――星光騎士団の新人二人は方や自粛中、方や事務所所属済みなので参加しないんですけど」

「そうなのですか。それは少し残念ですね」


 まあ、鏡音もプロゲーマーとしてチーム所属になっているのでプラス芸能事務所にも入るかどうかは難しいところだが。

 魁星の件、思いの外あっさり受け入れてもらって安心したのと同時にもう一つ。


「あの……魁星なんですが」

「はい?」

「なんとなく、自分の進路に、悩んでいるようで。母親が魁星を有名なアイドルにして、稼がせようとして東雲に通わせたクチの親で……魁星自身は去年からアイドル活動に楽しさを覚えているし、彼自身とてもアイドルの才能のある子なんですが、そこがネックで」

「ほう」


 気のせいか、春日社長の笑顔が、一瞬質を変えた気がした。

 石動が「げっ」と声を漏らす。

 なにか変なことを言っただろうか?


「そういう家庭の事情の子、僕結構好きなんですよね」

「は、え?」

「というか、そういうダメな大人をどうやって矯正してやろうか考えるのが? うふふ、どう潰してあげましょうかねぇ? 腕が鳴りますねぇ♪」


 と、ウキウキし始まる始末。

 無言になる淳。

 石動が小声で「やっちまったな」と呟いたのが聞き間違えであってほしい。

 やっちまったのか。



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