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東雲芸能科GP(4)


 カメラを回して東雲学院芸能科、三大大手グループ以外のグループのパフォーマンスをカメラに収めていく。

 おそらくほとんどがカットされるとは思うが、撮れ高を取り逃がすわけにはいかない。

 高画質、拡大機能もバッチリの大型カメラの方も確認するが、こちらも録画に問題はなし。

 音声が入るのがまずいので、スマホのチャットルームで会話をしながら問題なく作業は進む。

 時々別室に移動してMCシーンを撮って、収録室に戻って成り行きを見守る。


「やっぱり三年生が多いグループが優勢になりがちですねー、解説の音無くん」

「そうですねー。具体的に言うとやはり今のところ全員が三年生のグループ、『Color(カラー)』が優勝最有力候補、という感じですね! しかし!」

「東雲芸能科GPは三日間の開催! 明日は中央区のショッピングモールで一年生たちのオーディションライブがあり、一年生たちが不在の中の二年生、三年生の戦いとなります。そのあたりはいかがでしょう、解説の音無くん」

「一年生はまだまだ成長期。応援したい一年生の“推し”を探している方はオーディションライブも覗いてみるといいと思いますが――もちろん現時点で応援したい一年生推しがいる方ももちろん、まだまだ魅力的な成長期アイドルがたくさんいますので、ちょっとでも気になった子がいたら是非是非チェックしてみてくださいねー」

「それじゃあ、一日目前半戦はここまで! 午後からは引き続き花房魁星と」

「俺は同じく星光騎士団第二部隊隊長、狗央周(くおうあまね)にバトンタッチ! また明日!」


 と、締めのMCを録画してすぐに動画編集を担当する宇月にテープを届けにいく。

 昼食の時間中に淳は周と交代して、午後は春日芸能事務所のレッスン室でレッスンだ。


「おつおつー。午前の撮れ高どんな感じぃ〜?」

「「う……うーーーん」」

「まあ、そんなこったろうと思ったぁ。うちの学院のアイドルたちってこう、撮れ高とか爪痕残したるー! っていう意識が低いよねぇ。キャラも薄いっていうか、個性爆発させてやるーっていう気概が足らないから淡々としているの」


 はい、とテープを手渡すと、宇月が午前中の感想……淳が感じた「撮れ高のなさ」を言語化してくれた。

 そうだ、なんとも言えず、実にスムーズに、なんのトラブルもなく進んでいくことになにかこう、絶妙な違和感はそれだ。

 去年のIG夏の陣ではどのグループのパフォーマンスも、メンバーの個性が表れていた。

 おそらくだが、学生セミプロとプロの決定的な違いはそこだ。

 星光騎士団と魔王軍、勇士隊は学生セミプロでありながら、プロにも劣らぬ個性が強く出ているグループ。

 だからこそ十年以上の歴史があるのかもしれない。


(でもそう考えると……Frenzy(フレンジー)でやっていく俺にもそんな個性が必要、ってことじゃないか? 俺に特徴なんてないしなー……)


 自分にドルオタと演者の特徴があることを、本人まったく気づいていない。


「午後出演のグループには昼休憩中、ごたちゃんに反省点を伝えてもらうー。ナッシーはこのあとレッスンでお休みでしょ?」

「はい。続きはアーカイブで見ます」

「あんまり期待しないで見なねぇ? 星光騎士団、魔王軍、勇士隊、あと、Color(カラー)以外のグループは、今のままじゃアイドルとして三流すぎるからねぇ。三年なら多少今までの流れで改善点を自分たちで気づいて明日には変化が出てくるかもしれないけど、一年、二年のグループは教えてあげないと難しいかもぉ。ま、一年生はまだ新規グループとして確立しているかどうか微妙だけれど〜、二年生はブサーとクオーで指摘してあげるといいかもねぇ〜。僕から言うとキツくなっちゃうから」


 キツくなる自覚はあるんだ。

 と、思ったけれど口にはしない、いい子の淳と魁星。

 実際宇月がガチ目に叱りつけると二年生でも泣いちゃう。


「ナッシーは時間大丈夫なの?」

「あ、そろそろ出ます。あとのこと、よろしくお願いね、魁星」

「うん、わかった。あのさ、さっきの件……」

「うん、もちろん社長にかけ合ってみる」

「うん?」


 小首を傾げる宇月に、魁星を春日芸能事務所に誘っていいかと社長に聞いてみるつもり、と素直に話すと微妙な表情。

 いや、宇月の言いたいことはわかる。

 事務所というのは所属する者の将来を決めるものだ。

 魁星はあまり、やりたいことが定まっているとは言い難い。

 周のように「アナウンサーをやりたいから、これとこれとこの事務所を希望する」というわけではない。

 自分の将来もあやふやなのに、事務所を決めるのはどうなのか。

 でも、宇月自身やりたいことと求められていることが違うのでそれもまた真理、とわかっているから自分で事務所を決めずにそれでいいのか、という表情なのだと思う。


「まあ、ブサーがいいならいいけどぉ……あの事務所結構未知だしねぇ」

「社長はタレントのやりたいことを優先させてくれるので、魁星をきっと素晴らしいアイドルにしてくれると思います」

「ブサーはアイドルでいいの? 結構モデル業界からも声かかってるよねぇ?」

「いや、なんか俺、顔が派手だから表情に合う、みたいな感じで……だからなんかそういうのじゃないような……?」

「ふーん? まあ、マルチタレントみたいな道もあるしねぇ。とりあえずなんでもやってみたらぁ?」

「はい!」

「あ、あとー、今夜もSBOでドカてんの様子見れそうなら見てほしいー。僕もログインする予定だけど」

「わかりました」


 完全に反対はしない。

 優しい。

 荷物をまとめて、事務所に向かって歩き出す。

 しかし――マルチタレント、という道は淳には思いつかないものだった。

 なるほど、あの魁星の顔面ならとにかく顔を利用した様々なことをさせてみるのもありなのか。

 顔はいいのに頭は悪く、性格はおおらかなのでドラマや映画の演技業界、クイズ番組のおバカ枠でもイケるだろうし、お笑い番組やお料理番組とも相性がよさそうだ。

 歌もダンスも上手いので、音楽番組にも呼ばれて問題ないだろう。

 魁星、あまりにも可能性が無限大。

 問題はやはり母親の凸。

 売れれば売れるほど、狙われる。


(そこを社長に相談してみよう)



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