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騎士団長という名の魔王


 ライブ後に千景から相談を受けた内容としては、淳一人で解決は不可能と判断した。

 ゴールデンウィーク中に開催される『東雲芸能科GP』という名称で行われるらしい。

 一年生はライブオーディションで一日だけいないが、その翌日からIG形式で二年と三年生がライブを行う。

 ゴールデンウィーク中の三日の間に勝ち抜いたグループの中で、優勝が決まる。

 さらに『東雲芸能科GP』期間中、人気投票が行われて上位四人がコラボユニットを組む――。

 人気投票を行うことで、三大大手グループ以外にもコラボユニットの機会を増やしつつ、知名度アップを狙う――ということらしい。

 それはまったく問題がないのだが。


「ええ……!? 今回の東雲芸能科GP、企画が宇月先輩なんですか!?」

「そうー」


 翌日の朝、千景からの相談を宇月にしてみた結果けろりと肯定されて「えええ……」となる淳。

 具体的な相談内容として、千景は作詞作曲ができるのでコラボユニットの専用曲を書いてほしい、と頼まれた。

 いわゆる優勝者、コラボユニットに選ばれた人気者へのご褒美だ。

 千景としては特に断る理由もなく、安請け合いしてしまったとのこと。

 ドルオタなので、東雲学院のアイドルに自分の作った曲を歌ってもらえるのは性癖に効くらしい。

 淳、それを聞いて「俺も作詞作曲の勉強しよう」と誓う。

 それはそれとして、今回のゴールデンウィーク期間中に開催される東雲芸能科GP、企画を提出したのは宇月。

 理由は三年生卒業により“戦力低下”にも関わらず、星光騎士団及び綾城珀の影響で増え続けるにわかファンを、繋ぎ止めておくための“戦力増強”が目的。

 

「まあ、あとシンプルに古参三グループが強すぎてパワーバランスがずっと星光騎士団・勇士隊・魔王軍に傾きっぱなしなのが問題だと思ってる。他のグループも三年努力してて結局事務所に見向きもされない子とか多いじゃん? 僕、いまだに『ケ・セラセラ』の中泉なかいずみ先輩と行藤ゆきふじ先輩がスルーされたのマジ納得してないからね」

「ああ……それは俺も思っていました。大久保先輩ばかりスカウトされて、中泉先輩と行藤先輩も十分プロでやっていけそうなスペックでしたもんね」

「そうそーう。事務所の人たち見る目なさすぎって思ったけどさー、結局のところ『ケ・セラセラ』の実績不足だったと思うんだよねぇ。なら、古参三グループ以外にも実績を積めばいいわけよ。そのために僕らが参加しない大会みたいなのに、優秀なのをどんどんぶち込む! 人気が出ないやつらはそれを踏まえた上で、自分の魅せ方、売り込み方を学べばいいんじゃない? って」

 

 そういうことを考慮した上で、三大大手グループ以外を育てる。

 とんでもないことを考えるが、そもそもそういうことは教師が考えることではないのだろうか?

 とも思うが、この学院はスパルタなシステム。

 デビューしたら即、仕事現場に送られる叩き上げが主流。

 その叩き上げが、ちゃんと叩かれて跳ね上がるようにしようというのが、今回宇月が考えた東雲芸能科GP。

 IGと似たシステムを採用して、それに耐えうる体力・気力・実力をつけさせる。

 努力すれば努力しただけ、結果に繋がるように――。

 

「で、そのちーちゃんが作詞作曲しんどいって話?」

「ああ、いえ。それはまったく問題ないそうなんですけど、予定のない『勇士隊』の君主様たちが乱入を企てているらしく」

「はあ?」

 

 今回千景が相談してきたのは蓮名と苗村がライブで勝負する東雲芸能科GPに、戦隊モノ小芝居で参加しようとしている、という点。

 当然二年生たちは「勇士隊は参加権がないです!」と引き止めたが「ライブはしないから大丈夫!」とのこと。

 違う、そうじゃない。

 二年生たちの――主に日守と熊田の怒りの反対もものともせず、苗村がシナリオを考えて練習しているとか。

 そこまで話すと聞いたことのない低音で「は?」と聞こえてきて、淳は恐る恐る宇月を見た。

 見たことを後悔した。

 

「………………ふーーーーーん。そう……。あいつら、そうなんだぁ? へぇーーーーーー。僕の企画をぶち壊したいわけねぇ? ふーん、そう。わかったぁ」

「え、えーと……あの、その……お、俺に手伝えることがあったら、お手伝いしますので……?」

「いいよぉ、ナッシーはなにもしなくてもぉ。ちょっと麻野と茅原を召喚してあのバカ二人はシメてくるからぁ、今日の打ち合わせナッシーに丸投げしていい?」

「はい。それは……もちろん」

 

 笑顔。

 宇月の可愛い笑顔が、今日も非常に輝かしくて怖い。

 鼻歌混じりに出ていく宇月に加えて、茅原と麻野の普通に怒鳴って叱る、怒ると怖い組が参戦するのか。

 さすがに蓮名と苗村が可哀想……いや、そうでもないか?

 どちらにしても君主様を締め上げる騎士団長と魔王様の姿を、ちょっとだけ見たいような見たくないような。

 

「おはようございまーす。……あれ? 淳ちゃんだけ?」

「おはよう、魁星。宇月先輩はちょっと……蓮名先輩と苗村先輩を締め上げに行っているよ」

「……なにしたの……?」

「実はかくかくしかじか……」

「それは蓮名先輩たちが悪いわ」

 

 というわけで、本日のミーティングは淳が担当することになった。

 ミーティングといっても来週の全員分の予定の擦り合わせと、星光騎士団チャンネル配信用動画作成のスケジュール確認、担当同士の打ち合わせ、オーディションライブに出演する柳のレッスンについてなど普段とあまり変わらないのだが。

 

「でも、今みんなが準備している東雲芸能科GPって宇月先輩の発案だったんだなー。俺、ちょっと見るの楽しみだったから意外。いや、意外っていうのは悪いけど」

「うんうん、俺もそう思う。すごく素敵な企画だよね。周り甲斐があるよー」

「あ……」

 

 まあ、IG方式なので一つのステージで二つのグループが先攻後攻で戦うから別に動き回ることはないのだが。

 それでもドルオタは応援のしがいがあるので普通に楽しみ。

 レッスンも初日の午前中はお休みなので、しっかりと観戦する予定だ。

 

「あのさー」

「うん?」

「勉強も兼ねて……二人きりで観戦しない? そのー、ほら、あれあれ。BL営業も兼ねて」

 

 と、魁星からの提案。

 淳、あまり深く考えずに「いいよ」と笑顔で返答してしまう。

 

「うん、じゃあ……約束。他の誰も誘わないでね」

「え? うん……?」



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