VS『壺』ダンジョンボス
ダンジョン『壺』のボス部屋は床に扉がある。
巨大な鉄の扉を二人がかりでずらして、ボス部屋に続く階段を下るのだ。
レベルが高ければ一人でも開けられるが、今回はマギとビッキーで扉を開く。
普通に気味が悪い階段を下ると、また扉がある。
今度は縦に伸びた鉄扉。
これも非常に重く、二人がかりで開く。
扉の奥にあるのが岩の壺。
一見するとただただデカい、四メートルはある巨大な壺だが、プレイヤーが部屋に入るとガタガタと少しずつ動き始める。
全員がボス部屋に入室終わると、バタン、と鉄の扉が勢いよく閉まり、退路を断たれるのだ。
BGMが流れ始め、壺が高速で襲いかかってきた。
「いや! 速!? ちょ、うわ!」
予想だにしない速度で襲われて、ミオとセイとビッキーが避けながらすっ転ぶ。
初見殺しすぎる。
シーナがすぐに歌を歌い、パーティー全体に[攻撃力上昇LV5 追加付与2]を付与。
付与されてすぐに、マギが歌う。
「〜〜〜♪」
一節分だけの短い歌。
初期歌の一つであり、付与効果は[速度低下LV1 付与効果1]。
歌デバフを付与した剣を突撃して倒れ込んだ壺ゴーレムに叩き込む。
『BOOOOO――』
敵のHPゲージの横に速度低下のデバフ表記が現れる。
先程のような素早い動きができなくなった壺ゴーレムがゆるゆる動き出すが、その前にマギが二撃、三撃、四撃、五撃とどんどん攻撃を重ねていく。
真顔で攻撃をし続けるマギが若干怖い。
これはあれだ、魔物が可哀想になるやつだ。
デバフ付与効果のついた攻撃をこれだけやられると、その都度デバフ効果時間が延びていく。
その間に態勢を立て直したミオとルカが[攻撃力上昇]と[速度上昇]のバフをパーティー全体に付与。
次の瞬間、見る見る減っていた壺ゴーレムのHPケージが半分を切った。
「早っ」
と、セイが思わず叫ぶ。
わかる。あまりにも壺ゴーレムのHPが減るのが早い。
プレイヤーレベルは本人にしか見えないのでわからないが、どんなに早くてもマギのレベルは10前後のはず。
壺ゴーレムのレベルは20。
パーティー人数は三〜五人推奨。
シーナぐらいのレベルならば一撃でHP半分にできるが、開始三分でレベル10前後のプレイヤーがHP半分切るのは初めて見た。
壺ゴーレムが人型に変形している間も攻撃が止まらない。
可哀想。壺ゴーレム可哀想。
変形中なのにずっと斬りつけられ続け、回避もできず、後ろに下がればその分前進したマギに叩き斬られる。
連携って知ってる? と聞きたいレベルで絶え間ない。
『BO、GI、GA、GI、GAAAAAAーーー!』
ついにHPがゼロになる。
いくら初心者用ダンジョンのボスとはいえ、仮にもダンジョンボスだろう。
初見殺しの攻撃以外の攻撃もできぬまま、壺ゴーレムは消し飛んだ。
でかでかと『討伐完了』の文字が浮かび、パーティーメンバー全員にドロップアイテムの表示モニターが浮かぶ。
「武器のスキルツリー、これで半分か。渋いですね」
「……そう……?」
無慈悲である。
さすがプロゲーマー。
効率重視がすぎる。
「経験値も思ったよりも少ない。レベル20までいかないなんて。初心者向けのダンジョンだからこんなものでしょうか? プレイヤーのスキルツリーなら少し……。ああ、でもこの壺はお金になるんですね。初期のお金になるアイテムはアリだな」
「シビア……」
「思ったよりも……いや、思った以上に早く攻略できちゃったし、ここからは二手に分かれてレベリングしようか。シーナ、マギっち連れて高レベルのダンジョン連れてってあげてぇ」
「了解です」
「「えっ」」
もうここまでレベル差を見せつけられてしまうと、それは仕方ない。
ミオの指示に頷いて、マギに「サードソング近くのダンジョン行こうか?」と聞くと目を輝かせたマギが「はい、ぜひ」と言い放つ。
逆にLARAとビッキーがショックを受けた顔。
「なんで!? ずるい! 二人きりなんて許せない!」
「そ、そうです! レベリングするなら、みんな一緒が……!」
「ダメダメ、無理無理。今の見たでしょ? プレイヤースキルの基礎レベルが違うのぉ。お前らはあたしたちがこの辺りでサポートしながらレベリングしよ。シーナはああ見えてレベル50あるから、サードソングのあたりのダンジョンでも余裕でサポートできるからマギのお世話はシーナに任せな。もう一度言うけど、今日の目的はレベリング。その人に合った場所でやってこそでしょ」
やれやれ、と溜息混じりにLARAとビッキーを諭すミオ。
目の前でダンジョンボスに一撃の反撃も許さず、無傷で、実質一人で勝利したマギと一緒にレベリングは事実上足を引っ張ることにかる。
「え、あの、自分、ビッキーとLARAさんに合わせます」
「えー……時間かかるよぉ?」
「今日は一緒にレベリングします。お手伝いするって言いましたし。大丈夫です。お気遣いなく。自分のレベリングは明日やるので」
「え、あ……そ、そう?」
副音声で「自粛期間暇なので」と聞こえた気がした。
顔を見合わせるミオとシーナ。
次にシーナは思わず同期二人の顔を見てしまう。
本人がそう言うのなら、とセカンドソングを目指すことにした。
「ただし、セカンドソングについたら解散ね。もう二十二時だし。明日平日だし。アタシ仕事あるから」
「了解です」
「わかりました。ご……ルーヴァ先輩は来れそうですか?」
「ううん。メッセージ来てるけど、作業が溜まっているから今日は辞めておくってさ」
作業、ということはIG夏の陣の衣装作りだろう。
それなら仕方がない。
ミオの明日の仕事は事前に決まっていたもの。
声優として、アプリゲームのキャラクターの声を担当することになったのだ。
その収録で一日いない。
明日からゴールデンウィークなので、セイも表紙を飾った雑誌の販売促進イベントに行く予定がある。






