謎に修羅場
微妙に嫌だなぁ、と思いつつも同行を許すことにしたLARA。
幸いにも今の彼女の視線はマギに釘づけ。
見たこともないような乙女顔でマギに色々質問しつつ、武器の使い方を教わっている。
パーティーの中でレベルが二番目に低い、今日ログインしたばかりの新人だがプレイヤースキルは一番高いのでLARAの男を見る目は間違いないと頷くシーナとビッキー。
しかしながらビッキーが若干面白くなさそうな顔になっているのに気がつき、「大丈夫?」と声をかけてみる。
「大丈夫なんですけどぉ……なんか……まだお礼も言えてないのにって思うと」
「まあ、今じゃなくてもまたあとで言えばいいんじゃない?」
「そ、そうですかねぇ? 時間が経つとちょっと言いづらくないです?」
「そんなこと気にする子じゃないと思うよ」
一応そのようにフォローしつつ、ダンジョンを進むことにする。
ダンジョン『壺』は下に行くにつれて広がっていく。
中央に向かって伸びる階段も、途中で途切れてしまったり、途切れた階段から腐りで下の階段に続く階段がぶら下がっていたり、なかなかの迷路のようになっている。
初心者向けのダンジョンなので、迷路は難しいわけではなく数人いれば誰かしらが正解に辿り着くくらいの難易度ではあるが、VRMMO初体験のビッキーは階段から階段に飛び移るのもビクビクしていて大変だった。
「ここって一番下にダンジョンボスがいるんだっけー?」
「そうですね」
「殺りますか?」
ぶりぶりのかわい子ぶりっこを始めたミオに、ダンジョンボスと聞いて完全に目がアサシンのそれになるマギ。
先程から仮面獣人が出る度に、経験者のシーナやルカやセイよりも早く反応して倒していくマギが、どうにもこうにも強すぎて怖い。
LARAの好感度が果てしなく上昇し続けている気がするのだ。
「マギさん、本当に強い〜! 今日初めてなんですよね? こんなに強いなんて、VRMMOはたくさんプレイしてるんですか?」
「フルダイブ型は、あんまりしてないんですけど……なんとかできます」
「かっこいい〜! 今度リアルでもお茶しませんか?」
「いえ、しばらくはSBOでレベリングしたいので」
断り方が斬新。
「えぇ〜。じゃああたしも毎日SBOにログインします! でもでも、リアルでも一回くらい会ってみませんか!?」
「え、ええと……いえ……」
「LARAちゃんってば積極的ぃ。マギくんなんてリアルだと超絶オタクの超絶クソゲーオタクのクソ豚不潔ヤローだよぉ? アタシ一回会ってマジなしって感じだったもーん。お風呂一週間入らないとかザラって言ってたしぃ。ね?」
と、そこでついにミオが動いた。
リアルでも『クール系男前ゲーマーアイドル』というイケメンであるとバレないように、リアルとはかけ離れたゲーオタ像で煙に巻くつもりだ。
わかりやすくマギが「え」という不本意な顔になるが、宇月美桜が怖いのでなんにも言えない。
多分意図も理解していなさそうである。
「マギさん、リアルだとそんな感じなんですか?」
「えー……と……そう………………かも?」
目を逸らすマギ。
おおよそ「自分ってそんなふうに見えるのか」とでも思っていそうだが、振り返るとミオが目だけで「黙ってろよガキ」と意地悪く微笑んでいるので「なるほど、これは誰も逆らえない」と納得せざるを得ない。
だがそれを聞いてもLARAはマギへ向ける目を変えることはなかった。
「そうなんですね〜。まあ、あたしの料理でダイエットすればいいし、一緒にお風呂に入れば毎日お風呂も入れますし」
「な、なにを言ってるんですか」
「大丈夫です! イケメンを目指しましょうね、マギさん!」
「な、なにが?」
あのマギがガチで引いている。
その様子にミオですら「アイツヤバいね」と真顔になった。
本名すらわからない、現実ではどこに住んでいるのかもわからない相手に「食事を作る、一緒にお風呂に入る」はヤバすぎる。
「ミオ先輩」
「なに?」
スッ、とビッキーがミオの後ろに立つ。
ミオよりも迫真の無表情に、ミオがビクッと肩を振るわせる。
「ここは“リアルの彼女は自分”って感じで倒しましょう。あの女」
「……あ……お、おう……な、なるほど……や、やってみる、ね?」
「はい」
ここであえてシーナではなくミオにそういう演技指導を出すあたり、ビッキーがアレな気もしないわけではないのだが言ってることはなんとなくわかるのでミオも納得。
こほん、と気を取り直して、LARAの反対側に移動して急に笑顔を作る。
本性を知っているセイとルカはそんな笑顔にビクッと体を直立させた。
「ねー、ここまで言ったら察してくれなぁい? もしかして、他人のものでも知らぬ存ぜぬで略奪したい系? 性格性悪確定なんだねぇー?」
「……はあ?」
「……!?」
右腕に腕を回して、突然そんなことを言い出すミオに話が聞こえていなかったミオに目を白黒させるマギ。
可哀想。
対するLARAは愛想のいい笑顔から突然“性悪女”の顔になってそれにも困惑を隠せないマギ。
とても可哀想。
「なによ、あんた。マギさんとつき合ってんの?」
「同じパーティーなんだからそのくらい察してほしーい。察しの悪い女の子なんだね♪ LARAちゃんって♡」
「はあぁ?」
ぶわ、と変な汗が噴き出すシーナ、セイ、ルカ、マギ。
拳を作って応援するビッキー、口は出さない。
こんなわかりやすく修羅場を作り出せるミオがむしろすごいと思うべきか?
煽りスキルが高すぎる。
「っていうかー、助けてもらったから惚れちゃったとかなの? 単純なんだね♪ LARAちゃん♡ でも人のものに手を出すのはよくないってことくらいはわかるよねぇ? そのくらいは知ってるよねぇ? ねぇ?」
「そんなの嘘! 嘘だよね、マギさん! この女の勝手な言い分だよね!?」
「え……え……え……」
「やだー、怖ーーーい。すごい詰めてくるじゃぁん。こんな女、怖くてヤダねぇ、マギくん?」
「それは……ハイ」
そこは「ハイ」って言っちゃうあたりがマギである。
普通言わないよそこで「ハイ」は。






