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SBO新人研修会(5)


「え? マギはもう技スキル覚えたの……? え? 一人だけ武具屋に行って武器交換してきたの?」

「え? はい。ファーストソングに一度戻って……。あの、それでですね」

 

 マジかよ、こいつ。

 という空気の中、マギが振り返る。

 ビッキーの後ろにいたのは金髪碧眼美少女。

 プレイヤー名を見てシーナがギョッとする。

 

「初めまして。あの、LARAといいます」

「誰ぇ? それぇ?」

「来る途中でプレイヤーキラーに襲われていたので、つい連れてきてしまいました。レベリングしたいとのことなので、どうせならパーティーに入れて差し上げることはできないでしょうか? 一人は不安とのことなのですが」

「プレイヤーキラーに……? うーーーん……」

 

 ミオが腕を組んで考え込む。

 教えるべきことはほとんど教え終わっているので、今日はレベリングするのみ。

 なので、部外者を入れる分には問題ない。

 しかし、それなら“素”を出さないように極力気をつけなければならないだろう。

 先程ファーストソングを歩いているだけで星光騎士団の話題が聞こえてくる程度には、SBO内で星光騎士団は知名度トップのアイドルグループ。

 仮初の姿が広まってしまうのは非常にやりにくくなる。

 アバターデザインをまた新しく作り直さねばならない。

 

「プレイヤーキラーって、初心者狩り? 星光騎士団を名乗ってたやつら?」

「え?」

「俺たちが初心者の頃、初心者狩りするプレイヤーキラーが星光騎士団を名乗っていたんだよ。星光騎士団のメンバーはそれを知って、歴代メンバー引き連れてSBO内で星光騎士団のギルドを正式に立ち上げたんだ〜。ああ……あの時のライブ、本当に夢みたいだったなぁ……!」

「わかるぅ! 十三代目団長蔵梨柚子様に副団長佐藤日向様が一時でも復活して一緒に歌ってくださったの、オタク大歓喜だったよねぇー!」

「他にも初代から先代まで、アイドルを卒業した人たちも協力してくださって本当に夢の時間でしたよねぇー! 未だにゲーム内アーカイブ見直して泣いちゃいます!」

 

 見た目美少女のシーナとミオがアイドル話で盛り上がっているのは、まあ、あまり違和感がない。

 セイが若干、面白くなさそうだが。

 

「そんなやつらがいたんですね……。名乗りはしていなかったですけど、そんなに前からいたプレイヤーキラーなら垢BANはされないんでしょうか?」

「うーん、プレイヤーキルは迷惑行為にはなるけれど、通報件数が少ないと垢BANまではいかないんじゃないかな? 俺たちも襲われた時はいっぱいいっぱいで、運営に通報はしてなかったし」

「……確かに、咄嗟に通報は難しい、ですよね。LARAさんは、通報しました?」

「ううん! 逃げることで頭いっぱいで……」

「ですよね。そんなに悪質なユーザーだったなんて……。HP削り落とした時に通報しておけばよかったですね」

 

 ん?

 と、場が一度静まり返る。

 まさかな、と思いつつルカが「倒したのですか? プレイヤーキラー」と聞いてみると「武器を叩き落としてしまえば、あとはどうとでも……」と言い放つのでルカとシーナは天を仰ぎ見る。

 規格外、どこまで行っても、規格外。

 ゲームに関してマギを常識に当てはめて考えてはいけない、と学んだ一同。

 

「た、倒してはいないんだ?」

「プレイヤーキルするとペナルティーがつくと規約にあったので」

「え、すっごい偉い……規約読んでる子なんて初めて見たレベルで偉い……」

「規約は必ず目を通します。配信で使えないと困るので」

「あ、ああ……」

 

 本当に偉い。すごい。

 SBO、配信はOKらしい。

 それよりも、シーナはマギをキラキラした目で見上げる金髪碧眼美少女が気になってせっかくのミオとのドルオタトークで盛り上がったテンションが下がっていく。

 もう、隠す気はなさそうなくらい間違いなく雨門(あまかど)らら、その人ではないか。

 モデルで使っている芸名をつけている上、現実の姿を反映してプレイとか。

 ネットテラシーを小学校で習わなかったのか?

 いや、絶対に習っているはず。

 にも関わらず堂々とその名前と姿でプレイしている――ということは目的はおそらく……。

 

(う、うわぁ……智子を探しに智子がプレイしているゲームまで始めたってこと……? さすがにそろそろ警察や弁護士に相談したら接近禁止くらいつけられそう。怖い)

 

 兄の自分ですら薄寒さを感じるLARAの行動に、ガチのドン引き。

 どうしてそんなに妹に執着するのだろう?

 とは思うが――今のLARAの視線はマギに注がれている。

 これはこれで厄介な事態になっていないだろうか? かなり。

 

「パーティーに入れてレベリングを一緒にやろうって話だったよね? まあ、僕はダメとは言えないけどー。少なくともダンジョン内(こんなところ)で放り出すわけにはいかないもんね?」

「う……そ、そうですね」

「シーナがいいなら、俺も別にいいかなぁ」

「自分も特に異論はないです」

「どうせ元々先輩が一人いませんしね」

 

 後藤、いまだに連絡なし。

 みんながOKと言っているのに、断るのも逆に不審だろう。

 シーナがいい、というのでセイとルカもあっさり了承。

 ただ、ミオはシーナの様子に違和感は持ってくれたらしく、こっそり近づいてきて「あの子、知り合い?」と聞いてくる。

 微妙な表情で「多分……」と項垂れると同じような表情をされた。

 

「ま、それじゃあ僕らは“女の子”やろっか」

「が、がんばります」

 

 人生初の女の子の演技をやることになりそうである。



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