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未熟と性質


 淳もイースト・ホームのグループチャットで『SBO内で会わない? 今後の話も少ししたいし』とメッセージを投稿。

 二人は思いの外素早く返信してきて、今夜SBO内で会ってその後のことを聞くことになった。

 もちろん、二人にはリアルな姿を反映したアバターをお気に入り登録して、仮初の――ゲーム内での普段の姿を作ってくるように、と指示をする。

 そうしてかなりいつもよりも遅い帰宅。

 

「ただいまー」

「お兄ちゃん、おかえり! ねえ、ねえ! 鏡音くんは!?」

 

 玄関に入った途端、智子が駆け寄ってきた。

 非常に焦ったように心配している智子に、先生と話したことを話す。

 

「智子、お兄ちゃんを着替えさせてあげなさい。あれでしょう、鏡音くんのことでしょう? 帰って来てからずっと気にしてたのは知っていたけれど、玄関で問い詰めたらお兄ちゃんがいつまでも家に入れないでしょう」

「う、ご、ごめんなさい」

 

 ダイニングから顔を出す母に叱られて、しょんぼりとする智子。

 しかし、すぐに「あんまり悪いことにならずに済みそうでよかった……」と胸を撫で下ろす。

 母が「早く着替えておいで」というので頷いて二階の自室に戻った。

 

「あ、返事が来た」

 

 チャットルームに一年生たちの返事が入る。

 鏡音にいたっては『ゲーム! やります!』と、めちゃくちゃいい食いつき。

 本人的には例の格ゲーをオフラインにして黙々とするつもりだったそうだが、SBOはずっとやりたそうだったので誘ってみたがすでにやる気満々。

 柳も『ゲーム経験はないですけれど、やりたいです! 色々教えてください!』と、こちらも非常に前向きな返事。

 全員が食事と風呂を終わらせて、ログインができそうな時間……ということで21時に『ファーストソング』集合ということになった。

 ファーストソングには星光騎士団の拠点もあるので、拠点の使い方も教えなければいけない。

 一応、ファーストソングでライブする時に控室として使う。

 拠点からステージに転移もできる機能があるので、拠点のことは最初に教えなければいけない。

 

「で、は、21時、に……と」

 

 チャットルームに返信を入れて、荷物を置いて着替える。

 智子は鏡音に助けられているので、今回の件で大炎上するのでは……と不安だったに違いない。

 入学して半年くらいで炎上した綾城のように、鏡音も追い詰められてしまうのでは――と。

 幸いにも、鏡音のメンタルは鬼レベルで頑丈だった。

 まあ、綾城の場合は完全な当たり屋。

 鏡音の場合は柳のストーカーの撃退という正当防衛なので、まったく質が違うと思うのだが。

 

「一応、夜にSBOの方で星光騎士団としての方針の話し合いをしてくるよ。鏡音くんは平気そうだけれど、柳くんが平身低頭になっちゃってるからそっちのフォローが必要かなって」

「そりゃあ、襲われたのは自分だものね。自分の代わりに鏡音くんが活動自粛って言い出したんだもの、責任感じてしまうわよね……」

「柳くんもまさか活動自粛!?」

 

 両親と智子、家族みんなで食卓を囲みながら今日の話を続けた。

 さすがドルオタの一家、全員今日の出来事を把握している。

 三人とも来てたの、と海老の天ぷらを麺つゆにつけながら聞くと、三人は強めに頷きながら「もちろん」と言う。

 星光騎士団のお披露目を確認してから、空き時間ステージで魔王軍の方を観に行っていたらしいが、星光騎士団のステージも観に行こうと移動中だったそうな。

 しかし、星光騎士団が空き時間ステージにあがろうとしたところが騒がしくなり、なにかあったのか古参ファン同士で一気に情報共有された。

 やはり綾城のことがあったので、ファンの間でも心配の声が飛び交っていたという。

 

「淳のフォローにもヒヤヒヤしてしまったよ。軽率に『大丈夫』なんて言うから、暴力を肯定したように聞こえた」

「あ」

「そこまで考えていなかったんだろう? お前も冷静そうに見えて混乱していたんだろうな。鏡音くんが自分から暴力を否定して活動自粛します、って言ったのは、淳の言葉をフォローする意味もあったと思うよ。いやぁ……本当にすごい子だなぁ」

「そ……ぅ……ぁううう……そっかぁぁぁ……!」

 

 父に指摘されて、沈む。

 確かに冷静に見えて、冷静ではなかった。

 目の前で起こった暴力事件。

 智子が変質者に声をかけられた時も、パニックになって固まってしまった。

 あの頃から自分はなにも成長していない。

 

「ぶ……武道を習うべきか……」

「淳がそこまでしなくたっていいだろう。今回の件で警備はますます厳重になるだろうけれど、そもそも咄嗟の時に動くのは資質が大きいよ。運動神経はいいのに、今回も動けなかったのはそういうことだろう。というか、淳はそんな時間ないんじゃないか?」

「う……」

 

 確かに、今年は去年よりも忙しくなる。

 星光騎士団の新曲の練習も始まっているが、来年のIGに向けたFrenzy(フレンジー)の練習も開始しているのだ。

 来年デビューと考えると、淳は去年の綾城と同じ状況になる。

 過労で倒れる覚悟はもうできた。

 

「お兄ちゃん、このあとSBOの中で鏡音くんに会うんだよね?」

「うん。なにか伝言ある?」

「この間のことのお礼……は、しつこいと思われるからいいけど……えっと……今日のことは驚いたけれど、私も襲われた経験があるから鏡音くんがやったことでどれほど救われたのか、わかります。ずっと応援してます! って! 伝えてほしい!」

「うん、わかった」



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