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鏡音の処遇


「今回の件は警備会社のミスだ。鏡音が被る賠償は警備会社が支払うことになるだろう。証人が大量にいるし、その後警察に引き渡した犯人も犯行を認めている。彼は未成年だし、ネットの反応も賞賛と彼の減刑を求める声が九割以上。犯人が送検されたら、戻ってくることは難しくないでしょう」

「よ、よかった……」


 渡島(ととう)先生が後処理を担当してくれた結果、夜には鏡音の処遇が決まる。

 学院側としてはせっかくデビューしたチャンネル登録者数五十万人超えの新人を休ませたくはない、らしい。

 ネットの反応は淳たちも調べたが、かなり拡散されており「またアイドルを狙った変質者」は推しを引退に追い込まれたドルオタにより袋叩きの如くフルボッコ。

 加熱していく犯人叩きに対して、学院側が警備の不備を謝罪する声明を出すほど。

 そして柳が所属する『劇団スター☆コスモ』側からも声明が発表された。

 あの犯人、実は五年前から柳のストーカーをしていた筋金入りの厄介ファン。

 淳がもしかして、と思った通り柳のマネージャーが警戒心丸出しで塩対応だったのは、柳にああいうストーカーがいたせい。

 SNSを最近までやらせていなかったのも、柳の行動を少しでも勘づかせるのは危険と判断したためだった。

 そりゃああんなのに五年も付き纏われていたら、過保護にもなる。

 子役のストーカーなんて、そんなのいるのか……と魁星が呟いたのをマネージャーがブチギレながら「いてほしくないですよ! こっちこそ!」と言い返されたので、今魁星はちょっと反省中。

 なにが一番やばいって、あの犯人、柳の実父――の、兄らしい。

 柳の実父はひどいモラハラ男で、妊娠中の妻に生活費を渡さず浮気三昧。

 柳の母は出産直後に実家に帰り、即離婚。

 だというのに実父は親権がほしい、ほしい、とつき纏い開始。

 未だに柳母は柳父にストーカーされているらしい。

 そして、そんな実父の兄は弟の離婚と年を同じくして妻子が事故死。

 精神を壊し、弟の妻子を自分の妻子と重ねてストーカー開始。

 普通なら、そんなヤバい兄弟にストーキングされていれば慎ましく静かに暮らすところだが、お遊戯会で演技に興味を持った柳のために母は息子を劇団に入れた。

 メキメキと才覚を表し、ドラマの役柄を取ってくる息子の姿に「なんで私たちがコソコソ隠れて暮らさなきゃいけないの? 私もこの子もなにも悪いことしていないのに!」と思ったらしく、息子の才能を発揮させる道を選択したという。

 ど正論と言える。

 誰もが柳母子の生き方を支持するだろう。

 しかし、そんな幼少期からマネージャーとして柳を支えてきた彼女は、どんどん過保護になってしまった。

 観客のいる舞台の仕事は悉く断り、客席のある仕事には制限をかける。

 東雲学院芸能科に行くのも、かなり反対したらしい。

 それでも行くと決めたのは、柳自身。

 今回襲われた被害者の柳は、一度病院で手当を受けたものの怪我はなく、精神的にと思ったほどのダメージはなかったそうだ。

 むしろ、鏡音が客のいる前で暴力を振るって「休みます」と宣言したことを知り、大層後悔した。

 お客さんにフォローしなければいけないのは自分。

 狙われたのも自分で、対処しなければならなかったのも自分だった、と。


「だが、ゲームチームの方はこれから対応を検討するとのことだ。柳自身も劇団と今後の活動方針を再度話し合う時間も必要だろうから、星光騎士団としてはまた二人がアイドルとして活動していける居場所になるよう待っていてやればいい。なあ、凛咲」

「そうだな。うちとしては待つことしかできないな! まあ、星光騎士団の団長(リーダー)は今宇月だし、宇月がどう思うかだなー。火種は取り除くのが吉とか思う?」

「思いませーん。知名度が高い以上、多少そういうこともあると思ってたしぃ。まあ、珀先輩のこともあったからー、ファンのみんなは僕らより不安に思うでしよ。そこんところをグループとしてフォローすればいっかなって感じ?」


 ね、と振り返られて、淳たちも強く頷く。

 先生たちが同じように頷いて、星光騎士団としての二人の取り扱い方の確認を終えてからブリーフィングルームを出ていった。

 学生だけになってから、宇月が深く溜息を吐く。

 

「はぁー。まあ、別にいいんだけどねぇ、騒ぎを起こすのは〜。うちも十年単位で続いてる古参だから、このくらいの炎上、定番のインターネットミームみたいなもんだしぃ」

「ええ……」

「炎上は裏を返せば注目を浴びているということですしね。鏡音くんの非常に誠実な対応は賞賛されていますし、これ逆に追い風になりえます。自分も二人は実に優良株かと」


 周の意見もごもっとも。

 柳は同情的に扱われているし、鏡音はしっかりとした誠実な対応と自ら活動自粛を宣言したことでネットの意見は非常に肯定的だ。

 暴力に訴えたのは犯人が先、と犯人への厳罰を求める声が上がっているのと同じくらい「鏡音くんは正当防衛」と庇う声が大半。

 とにかくアイドルを叩きたい一部は必死で「暴力を許すべきじゃない」と騒いでいるが、警察の方も鏡音が未成年であることと正当防衛、犯人に前科があること、柳のストーカーとして相談実績もあったので無罪放免になる見通し。

 むしろ、今回の件でアイドル――もとい、芸能活動をする者への過度な加害行為を根本的に見直すべきという話も上がり始めた。


「でも、しばらくはSBOでのライブ活動を中心にしていく必要があるかもねぇ。ドカてんがゲーム好きみたいだし、復帰はSBO内でってことにしてあげよっか。アカウント作っておくように、二人にメッセージ入れとくねぇ?」

「わかりました。ありがとうございます、宇月先輩」



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