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柳と鏡音のお披露目ライブ(3)


「どれどれ……『さっきはライブに来てくれてありがとうー♪ あんなに練習したのに緊張で思うようにできなかったよ〜……しょんぼり顔文字。空き時間ステージで名誉挽回したいから、観にきてね!』――うん、いいと思うな」

「じゃあ呟きますね」

「あ、鏡音くんと写真を撮って添付して。画像があるのとないのとじゃ雲泥の差だから」

「はい!」

「ねえ〜、なんかナギー、僕とナッシーへの態度違いすぎなーい? なに、舐めてんの? しばく?」

「ひえ!? ごめんなさい!? むぎゅう!?」


 宇月に顎を掴まれて「ごめんなひゃぁい」と繰り返す柳。

 別に宇月を舐めてるわけではなさそうだが、宇月に対しては「怖い」が先に来ているのではないだろうか。

 パワハラになるので、となんとか顎から手を離してもらい、柳と鏡音の二人で写真を撮影。

 撮影は写真部の宇月が担当。

 曰く、「オタクって他の誰かの影が垣間見えるのも需要あるじゃん?」とのこと。

 ドルオタの淳、真顔で強めに頷く。

 別の角度から推しの名前が出る時の悦び。

 たとえば鶴城一晴から出る神野栄治の話とか。

 推しと親しい人から出る推しの情報からしか得られない栄養素があるのだ。


「さすが宇月先輩……オタク心理をよくよく理解している……」

「ふふ、まあ僕も伊達にオタクやってないからね」


 ドルオタと声優オタク、愛すべきジャンルは違うがオタクの喜ぶポイントはガッツリ押さえている。

 オタクじゃない面々は頭の上に疑問符を浮かべているが、鏡音だけは「なるほど」と納得したのでわかるやつにはわかるのか。

 しっかりオタクの心を刺激するトラップを仕掛けつつ、二人がSNSに呟きを投稿した。


「さて、それじゃあ空き時間チェックしてゴー」

「これが終わったらSBOアカウント作っていいんですよね」

「うん、いいよ。僕とごたちゃんは撮影に徹するから、ガキどもの面倒はナッシーたちが見てね」


 と、言うわけで柳と鏡音が空いているステージを探して『イースト・ホーム』から予約を入れる。

 幸い校舎側のステージが空いていたので、そこで歌うことに。

 物販のケースもそこに運び、淳たちもSNSで『校舎側のBステージで、星光騎士団の一年生が改めてライブをするので、観に来てくださいねー。俺たちも応援に行きます!』と呟く。

 水分補給をして、昼食を取ってから移動。

 で、ステージ横の待機時間に柳と鏡音がまた緊張で顔を青くし始める。

 二人の緊張をなんとか解そうとするが、逆に意識してガチガチに拍車をかけてしまうようなのでもうどうしていいのやら。

 宇月の言う通り、場数を増やしていくしかあるまい。


「音無先輩は緊張しないタイプなんですか?」

「俺は舞台経験があるし……。今まで観てきたアイドルのステージを思い出しながら、ファンが望む“理想的なアイドル”を演じてる感じでパフォーマンスしてるからなー」

「……ファンの望む……アイドルを演じてる……!?」


 柳も俳優の端くれだ。

 そういう形で“アイドル”を演るのは、一種の手ではある。

 あくまでも淳の場合なので、真似するかどうかは柳次第。


「ちょっと意識してやってみます」

「無理に真似しなくていいよ。俺は色々なアイドルを見てきたからできるのであって、柳くんはあんまりアイドル見てこなかったでしょ?」

「う……はい」

「柳くんは柳くんのまま……アイドルをやればいいと思うんだよね」


 と、言ってあげるが複雑そう。

 時間は待ってくれず、あっという間に出番の時間。

 頰を叩いて、鏡音とともにステージに上がっていく。

 二年生たちはバックダンサーを担当。

 宇月と後藤が関係者席からカメラを回して撮影し、編集して星光騎士団チャンネルで動画としてあげる予定だ。

 スタッフさんに音源を渡してあるので、まずはトーク。

 小粋な自己紹介から、職業、これまでの経歴を語っていく柳。

 さすがにドラマ関係の番宣で慣れている部分だろう、と安心して見ていたが「あぐっ」「あびょ」などと突然噛む。

 想像以上に客席がいる前でのパフォーマンスに弱々。

 裏を返すと、克服できればまた一つ成長に繋がると言える。


(ん? ……ぅわ……! 柳くんのマネージャーさん、いる……!)


 今気がついたが、最前列にサイリウムを持った柳のマネージャーがハラハラ顔で見守っていた。

 いや、いるのは構わないのだが本当に過保護すぎる気がする。

 あんなに最前列でハラハラされながら見守られれば、逆に柳も緊張度合いが増してしまいかねないのに。


「柳くんかわいい〜」

「頑張ってー!」

「あ、ありがとぅおーーーーうー!」


 しかし、やはりそこは初心者慣れしている東雲学院芸能科のファン。

 あたたかく見守り、応援の声をかける。

 アイドルとしてデビュー間もない柳は、あたたかな声援で少し、笑顔になった。

 これには二年の先輩たちもにっこり。


「ジュンジュン、あの人スタッフ?」

「え? 誰?」

「あれ、あれ、あそこから上がってこようとしてる人」

「え?」


 にこにこ微笑ましく見守っていると、魁星が近づいてきて顎と視線でステージ脇からステージに登ってきた男を指す。

 いやいや、イベント会社のスタッフは腕章をつけている。

 それ以外の人間がステージに上がってこようとしたら警備会社の人が止めるはずなのだが、近くに警備員がいない。


(え……!? 警備員がいない!?)


 暗い色の青と緑のパーカー、フードを被った男が口元に笑みを浮かべながら「柳くぅん」と呼ぶ。

 驚いて振り返った柳は一瞬でギョッとした顔になる。


「あ……なんで」

「響! 逃げて!」


 客席からマネージャーが叫ぶ。

 その時、マネージャーがずっと淳のことを警戒した顔で見ていた。

 なにかに――誰かを警戒しがちのマネージャー。

 それが「逃げろ!」と叫ぶ。


「柳くん!」


 男の手にナイフが見えて、喉が引き攣る。

 誰も動けない。

 走ってくる男。




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