柳と鏡音のお披露目ライブ(2)
「むり、怖い、こんなにライブやばいなんて思わなかった……ひっ、ひぃ……」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「もーーー、なに疲れ果ててんのぉ? なんのために一ヶ月近く『地獄の洗礼』をやってきたわけぇ? ほらほら、SNSで空き時間ライブやってきまーすって告知して動け! 一年坊主ども!」
「ひい! そんなぁ! 緊張して上手く歌えなかったし、ダンスコケたし……無理ですよぉ〜!」
汗をタオルで拭きながら、ペットボトルを持ち上げる。
久しぶりのライブで淳はとても楽しかった。
しかし、人前で演技する機会がなかった柳と鏡音は床に突っ伏して失敗を嘆いている。
正直、去年の魁星と周より酷かった。
柳の言う通り歌詞は間違える、ダンスの振付も間違える、突然歌詞が飛び、固まる。
まあ、そのくらいならお披露目ライブあるあるなので、淳のような古参ファンはそれも込みで楽しく見ているのだが……。
宇月はそんな落ち込む二人に「そういう場合は場数踏むしかないでしょー」と言い放つ。
荒療治に思えるが、鏡音が「そ、そうなんですけど」とふらふら起き上がりながらしょんぼり答える。
一応数々のゲーム大会に参加しているので、言っていることは理解しているようだ。
問題は割と本気で泣いている柳。
割と本気で泣いている柳を見て、宇月のこめかみに青筋が浮かぶのが見えた。
あ、やばい。
「あは♪ じゃあ辞めるぅ? 僕は別にいいけどぉ? 一年生ゼロでもー」
「っ!? や、辞めないです……辞めないですけど……でもっ……!」
「あーあ、お披露目が終わったらいよいよSBOアカウント作ってもらう予定だったのに、一人減るのかぁー。ま、別にいいけどねー。再募集してまた『地獄の洗礼』で鍛え直すからー」
「辞めないですー!」
「本当ですか!? ゲームにログインできるんですか!?」
煽られてやる気を出すあたり、演者としての負けず嫌いに火がついたか。
鏡音の方はゲーム――SBOというと簡単に食いついてくる。
別にSBOアカウントは自由に作ってもいいと思うのだが、と思ったが「星光騎士団専用アバター衣装ゲット……」と呟いているのを聞いてにこり……と変な笑いが浮かんでしまった。
現実でついさっきまで着ていただろうに……ゲーマーのこだわりはよくわからない。
いや淳も昨年のコラボユニット衣装は作った側だがしっかりはゲットしているので、結局ゲーマーも呼び方を変えたオタク、と納得。
「でも、正直あと一回くらいしかライブできそうにないんですけど……体力的に」
「はい、うそ〜。去年のブサーとクオーを見せてやりたい。お前ら普通に元気じゃん。ほら、僕に言い返す元気があるなら、その元気な姿を写真に撮ってSNSに空き時間ステージでライブしまーすって宣伝しな! 一応文面はこっちでもチェックするけど、二人ともだよ!」
「ひええぇ……容赦なさすぎだよぉ〜……もう少し休ませてくださいー」
「ダメー。このくらいで音を上げるんならもっと厳しく鍛えないとダメって話になるよ! IG夏の陣はこんなもんじゃないんだから!」
宇月の言う通りすぎて、二年生ズが「うんうん」と真顔で頷く。
去年のIG夏の陣、冬の陣、最終日まで進むと過労でテンションおかしくなる。
主におかしくなっていたのは淳だが。
のちに「あれは一種のホラーだった」と魁星は語る。
そのホラーテンションのままインタビューに出ていたのだが、それはいいのか。
「ううう……でもSNSに呟く内容思いつかないよぉ、円っちぃ〜」
「無難な内容でいいんじゃないだろうか。たとえば『今日はお披露目ライブにご来場いただき誠にありがとうございました。我々星光騎士団一年生、空き時間ステージにて先程の情けない姿を挽回したく、再びライブに挑戦したく存じます。お時間のある方はぜひお越しください』的な」
かッッッッた……。
あまりにも硬い文章に、全員が「ええ……」と引いた。
いや、チャラいよりはいいのだろうが、あまりにもしっかりとしすぎた文章でビジネス色が強すぎる。
鏡音のキャラクター的にいいのかな、とも思うのだが、親しみやすいアイドル感がゼロ。
いや、鏡音のキャラクターには合っているのだが。
だがそれにしたって硬い。
「ええ……お前なんかその……ビジネスメールみたいな文章書くね……?」
「すみません、SNSとか、配信予定とか配信開始や配信終了の呟きしかしたことなくて……。メールも企業の人とのやり取りばかりで、SNSで普通どんなことを呟くのかわからないです」
「別に悪くはないよ? クオーのSNSもこんな感じだし。でもクオーより硬いよ、お前。ちょっと距離ありまくり、壁高すぎって感じ」
「え……あ……う……」
宇月の呆れ顔に、眉尻を下げる鏡音。
追撃に「お前、その年齢でこんな硬い文打つのもすごいけどさー」と加えられる。
一桁年齢の頃からゲーム配信者として活動していたので、てっきり企業とのやり取りは親がやっていたのかと思ったら自分でやっていたらしい。
思った以上にしっかりした子なのだな、と感心した。
「ちょっと貸してみなー。えーと、この硬さを残しつつ〜……『本日はお披露目ライブにご来場いただき、ありがとうございました! 我々星光騎士団一年生、空き時間ステージにて再びライブに挑戦いたします! お時間のある方はぜひお越しください!』――はい、こんな感じ! びっくりマークつけると、硬さがちょっと砕けるっしょ」
「本当だ……すごいです」
「とはいえ、あんまりドカてんっぽさもなくなるから、『ぜひお越しください!』以外はマルでいいかもね」
「書き直してみます」
鏡音がスマホをポチポチ打つのを横目に、柳も渋々といった様子でスマホを打ち始める。
柳が打った文章を「音無せんぱぁい」と甘えた声で見せてくるので確認させてもらう。






