柳と鏡音のお披露目ライブ(1)
一年生のお披露目ライブ。
今年は講堂で行われ、去年よりも大勢のお客さんが押し寄せていた。
古参ファン仲間と話すと、やはりかなり新しいファンが入ってきている。
ガチ恋希望者のような、アイドルを疑似彼氏にしようと探しに来ている層が特に増えているので気をつけて、と忠告までされてしまう。
ガチ恋勢、わざわざ“推し”という名の“彼氏”を探しに来ているらしい。
なにそれヤバい。
「ああいう子って、迷惑なのよねぇ。アイドルに対して独占欲出してくるから」
「わかる~」
「あと、男性ファンも増えたわよね。いや、男性アイドルを男性が追いかけるのもまったく構わないんだけれど……」
「そうそう、別にいいんだけれどね。……でも女性アイドルの追っかけだった人の中にはちょっと……アレなのよね……気をつけてね、淳くん」
「わかりました。ありがとうございます」
男性のアイドルファン――淳も当てはまるのだが、古参ファン仲間が言っているのは女性アイドルを現在の状況……地下も含めて、極端な妄想でストーカーされたり攻撃されたりで数が極端に減ってしまった。
東雲学院芸能科のアイドルは女性ももちろんいる。
校舎が違うので淳たちと交流はないが、あちらの定期ライブの厳戒態勢は淳たちのところと桁が違う。
淳たち東雲学院芸能科の男性アイドルの稼いだお金の一部が、女性アイドル側の警備費に回されているほど。
女性アイドルへの攻撃的な思想はまだまだ根強く、東雲学院芸能科の女性アイドルも危険な目に遭うことも少なくない。
一時期、アイドルへの襲撃がニュースで毎日取り上げられていた。
鏡音もそれを知っていたから、智子がLARAに絡まれた時に心配して声をかけてくれたのだろう。
そう考えると、背筋に寒いものが走る。
智子は小学生の時から変な人によく絡まれていた。
神野栄治に助けられたのも、変なおじさんから声をかけられた時だ。
普通科に通っているとはいえ、あれほどの美貌。
芸能科のアイドルと間違えられたりもするのかもしれない。
普通科の先生が智子に「芸能科に転科しないか?」と打診されたのも、智子の芸能人オーラがすごかったから、ではなく、智子の身の安全を思ってのことなのでは……?
少なくとも普通科より芸能科の方がセキュリティがしっかりとしている。
芸能科の校舎付近には警備会社が定期巡回しているぐらい、安全性は高い。
いくら中身がゴリラとはいえ、年頃の女の子であることは間違いないのだから変なトラウマを植えつけられる前に芸能科の方がいいのでは。
(いや、でも……智子は就職を望んでいるし……ううん……一度父さん、母さんと智子、家族会議した方がいいか)
悩ましい。
できれば妹には自分のやりたいことをやってほしい。
古参ファン仲間の情報的に淳たち男性アイドルたちも心配されているが、男性アイドルの方の校舎もセキュリティは高いので、大丈夫だろう。
「なんにしても、今日のお披露目ライブも楽しみにしているわね」
「柳響くんも鏡音円くんも有名だものね。すごい大型新人が星光騎士団に入ってきたわよ、今後の活躍が楽しみだわー」
「本当、本当〜。魔王軍、勇士隊もすごい美少年が入っていたし、続いてほしいわよね」
「頑張ってほしいねぇ〜。期待しすぎるのも可哀想だから、程よい距離感で応援するしかないけれど」
手を振って古参ファン仲間と別れて講堂に戻る。
星光騎士団の正装衣装を纏った一年生ズは、緊張でガチガチ。
大丈夫、と淳が声をかけると、震えて真っ青の柳が「は、はひ……」と一応返事をする。
鏡音の方はなにも言葉が出なくなっているのだが。
「な……な、舐めてたわけじゃ、ないんです……。でも、でも……想像以上に講堂ステージがびっしりお客さんがいて……」
「柳くん、舞台経験ないもんね。鏡音くんはゲームの大会で客席が埋まっているところでプレイするって言ってなかった?」
「……自分のアバターが見られるのと、自分が見られるのは……っ」
「そっかぁ」
二人とも去年の魁星と周よりも緊張でガチガチ。
しかしそれでも出番は来る。
なんなら、星光騎士団は朝からお客さんを招くために一番手だ。
宇月が腰に手を当てて、ふん、と鼻を鳴らす。
「ほら、出番だよ! クオーに空き時間ライブを二回やるように言われたんでしょ。初陣のお披露目ライブは僕たちも一緒に出るんだから、失敗してもフォローしてあげるってば。僕とごたちゃんもお披露目の時は緊張したしねぇ」
腰に手を当ててフォローしてくれる宇月だが、後藤の目がめちゃくちゃ泳いでいる。
宇月と後藤は幼少期からバレエをやっており、発表会にもそれなりに出ているので柳と鏡音とはスタートダッシュが違う。
柳と鏡音の立場をよくよく理解しているのは魁星と周だろうが、二人も「なんか俺まで緊張してきた」「一年生をちゃんとフォローしなくては」となんか硬くなり始めた。
宇月が溜息を吐きつつ淳の方を見る。
「揃いの練習少なかったから不安なんだろうけれど大丈夫。こいつら全員ちゃんと一定のレベルには達してるし。フォロー慣れしてるナッシーが見てて、できる時はナッシーもフォローしてあげてね」
「はい、わかりました」
「ほら! 気合い入れ直しな、クソガキども! ステージに上がったらもうお前らは“アイドル”なんだ! お金払って遊びに来てくれている紳士淑女に、つまんないもん見せるんじゃないよ! 僕らは東雲学院芸能科、三大大手グループ星光騎士団の騎士なんだ! 騎士たる者、紳士淑女のお客さんには最高のおもてなしをしないと! そうじゃない奴には容赦しなくていいけどねぇ」
によ、と笑う宇月に若干の恐怖を感じつつ、後藤がコクコク無言で頷く。
つまり――さっき淳が古参ファンの人たちに言われた“厄介ファン”に礼節を尽くす必要はない、ということ。
そして他のグループや、まだグループ未加入の新入生たちを守れ、ということだ。
柳と鏡音にはかなりハードルが高いが、最後の一言は二年生の淳たちへのオーダー。
「では、そのように」
「うんうん、ほら行くよ!」






