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コラボの話し


「そうだ、梅春さん」

「なん、なに……?」

「俺の後輩の子がゲーム配信をやっているんですけれど、最近登録者数が伸び悩んでいるらしいんです。それで、よかったらデビューするVtuberとコラボしたいって言ってて。梅春さんがよかったら、コラボしてあげてくれませんか?」

「え……」


 早速松田に聞いてみると、ものすごくドン引きした表情をされた。

 そんな変なことを言ったつもりはないのだが、ものすごく警戒されている気がする。


「……誰?」

「あ、この子です。ちょっと待ってくださいね」


 スマホを取り出し、ブックマーク済みの東雲学院芸能科ホームページの一年生紹介ページを開く。

 あいうえお順なので、か行から鏡音を出してみせた。


鏡音(かがね)(まどか)くんです」

「鏡音円じゃん……え! 東雲の芸能科に入ったの!? なんで!?」

「あれ? 鏡音くんのこと知ってました?」

「配信者業界では有名な子だよ、この子! 年齢一桁の頃からゲーム配信者をやっていたから、一時期親が叩かれたりしてたけど……この子のゲームセンスがヤバすぎてあっという間にプロ入りしたんだよね。FPS系のゲームの有名どころ、『ヴァルハラ』では世界ランキング一桁常連。今も確か世界ランキング7位だったはずだ」

「せ……世界ランキング……!?」


 知らない人間は本当に知らない世界だが、知っている人間からするととんでもない有名人。

 真顔で「この子の登録者数も50万人超えてたはずだけど」と言われて、慌ててワイチューブで検索してみる。

 鏡音円――登録者51万人。


「東雲学院と星光騎士団のチャンネル登録者数をケロッと超えてますね……」

「ヤバいでしょ。淡々と敵をキルしていく美少年の絵面が人気で一年で約10万人が登録しているって言われてるんだぜ。……え……? この子とコラボ……? 本気で言ってまス……?」


 真顔で聞かれた。

 なんならやや不安気。

 確かにこれからデビューする松田と、ワイチューブ配信者活動七年目の鏡音をコラボさせるのは……大丈夫か?


「……社長に確認してみます」

「あと……俺は東雲の芸能科から逃げた……ってか、ダメだった人間だから……未来ある東雲芸能科の子とコラボするのは心苦しい……でス」

「ええ……? それはさすがに大丈夫だと思うんですけど」


 とか言いながら事務所を覗いてみる。

 社長はこれまたすごい長身イケメンとタブレットを見ながら話していた。

 毛先が萌葱色の、藍色の髪の超イケメンはがすぐに覗き込む淳に気がつく。


「おや、顔合わせ終わりました?」

「あ、はい。石動先輩……じゃなかった、上総さんは明日は朝からレッスンがあるし、槇さんは仕事があるとかでもう帰ってしまって。あの、ちょっとお聞きしたいんですが、今お時間いいですか?」

「いいですよ。……でも、仕事関係なら、次から槇くんを通してくださいね。一応あなた方のマネージャー兼プロデュースは彼に任せているので」

「わ、わかりました」


 マネージャーとプロデューサーって兼任してイイものなのか? と思いつつ、鏡音の件をまとめて話してみる。

 淳から少し離れ、事務所の入り口からこちらを伺う松田を社長が笑顔で呼び寄せ「向こうからのお誘いなのですから、お断りなんてしたら失礼でしょう?」と叱られてしまう。

 それは本当にその通りすぎる。


「しかし、鏡音円くんってそんなに登録者がいたんですね」

「俺も今さっき知ってびっくしました……」

「彼に申し訳のない登録者数格差ですから、少しお時間をいただけないか聞いておいてください。槇くんに他のVtuber事務所とコラボできないか、かけあってもらっていますから」

「色々すみません……」


 登録者数格差とはまた切ない。

 だが、鏡音円というゲーム配信者を知っている人間が、世界に50万人以上いる、という事実の方が衝撃だ。

 東雲学院の公式チャンネルは12万人、星光騎士団のグループチャンネルの登録者数は最近やっと8万人。

 動画の再生回数は爆伸びしても、それが登録者数に繋がるかと言われると微妙にそうではなく。

 たとえば『歌ってみた』等をメインにしたいわゆる歌い手系配信者なら、その歌声によって有名になることもあるが東雲学院芸能科はあくまでアイドルグループの活動の一環。

 そこに重きを置いているわけではないので、チャンネル登録を呼びかけてはいるものの、そんなもの。

 一応、星光騎士団は料理動画投稿を多くすることで興味を持ってもらえるように努力はしているが。


「しかし、やはりネット……動画サイトはバカにできませんね。うちもタレントが増えてきましたし、ワイチューブ限定配信の番組を作りましょうか。誰か企画を担当してくれる人間を雇わなければいけませんね〜。何人くらい必要でしょう? 場所はあるから機材と……」

「普通にイベント会社を雇った方が早くないか?」

「イベント会社はブラックになりやすいので、それなら企画部をうちの事務所内に作った方が働きやすいでしょう。うーん、でもそうなると来年になりますよねぇ。新卒一括採用だと、経験不足で手探りになるでしょうし……」

「東雲学院と西雲学園の普通科の方で経営専攻のやつらを引っ張ってやらせてみたらどうだ? 学費支援を名目にさせれば、社会勉強もさせられるし安く雇えるし、上手くすればそのまま大学卒業後に抱き込める。学生の方も就職先の一つとして内定が早めにもらえるから、悪くはないだろう。クオリティはこっちで調整するが、二つの学校から人を募れば偏りも出ないだろうし、司藤グループが我がもの顔で干渉している西雲学園にここの事務所が堂々手を突っ込める」

「ああ、それはいいですね。そうしましょうか」


 パチン、と指を鳴らす社長。

 超イケメンの人、かなり無茶苦茶言ってる気がするが東雲学院と西雲学園の普通科、経営専攻の学生ならやれそうなのだ。

 目のつけどころが経営者すぎて思わず押し黙ってしまった。



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