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Frenzyメンバーの顔合わせ(2)


「こんなものを完璧に仕上げて出されたら、普通のアイドルは心折れるでしょう? まあ、去年の星光騎士団は先輩である栄治と一晴の実力を目の当たりにしても心折れなかったようですけれど」

「卒業生とはいえ、先輩でしたから。逆にあの空気を利用しようと言っていました」

「メンタル鋼かよ」

「花崗先輩が」

「あいつなら納得するわ」


 さすが石動は花崗と同級生。

 すぐに納得してくれたが、松田は「こわい」と顔を青くした。

 なんならちょっとガタガタ震えている。

 忘れそうになったが松田は隠キャオタク。

 アイドルという“愛されること”に特化している芸能科に所属していると忘れそうになるが、世の中には自己肯定感の低い人もいる。

 松田は蠱毒についていけず、性格がどうしても染まりきれなかった人。

 三年感芸能科で三大大手グループの一つ『勇士隊』のリーダーを務めた石動とは、やはりどうしても相性はよくなさそうである。


「ま、言いたいことはわかるし、綾城ができたことなら俺にもできるだろ。なんだかんだIG、普通に楽しかったし。夏の陣は暑くてクソだったけど」

「って思ったので、屋根をより大きく改修してもらってるんですよね。本当はドームを造れたらいいんですけど、さすがに土地の買収と整地からなので……」

「そこまでやれとは言ってねーよ?」


 いかん、春日社長、うっかり要望を口にするととんでもない額が動くことになりそう。

 お金をなんとも思っていなさそうである。

 逆に不安になる、と石動が苦言を呈するとびっくりした顔をされた。


「とはいえ今言った通りあんたのオーダーは理解した。異論はないし、Vtuberってのと同じグループでやっていくのも別にいい。ちょっと誰だかわからねーけどな」

「う……うう……」


 チラリと石動が松田を見る。

 睨んでいるわけではないが、顔が綺麗すぎて睨まれているように見えるのだ、石動は。

 なるほど、これをなんとかしなければならないのか、リーダーは。


「松田先輩は――」

「あ、淳。春樹のことは今後Vtuber名で呼んで慣れてください」

「あ、わかりました。ええと……」

松竹梅春(しょうちくうめはる)、だよ」

「えーと……松竹先輩……?」


 社長に注意されたのでVtuber名の方で呼んでみる。

 が、微妙な反応。

 松田、もとい松竹だけでなく、石動や社長にまで。


「お前なぁ……。まあ、この業界上下関係厳しいしな、仕方ないかもしれんが、芸歴一番長いのお前だろう?」

「へ」

「そうですよ。上総と春樹が嫌がったのもありますけれど、淳をリーダーに据えようと思ったのは芸歴の長さです。二人とも芸歴だけで言えば三年……春樹に至っては一年未満ですからね」

「え、えっと……それは、あのでも……」


 と、口籠もる。

 なにか言おうとするが、確かにこの世界、芸歴は重視されがち。

 しかし、淳の場合子役だったわけでもなくただコミニュケーションを養うために劇団に通い、劇団主導で数ヶ月に一度公演を行い出演していたにすぎない。


「そういうことだから観念して、リーダーらしく振る舞うことも覚えるんだな。面倒くせぇぞ〜、リーダー。仕事は多いし、メンバーのケアや調整はしなきゃならんし、教師……今は社長との兼ね合いもあるし」

「ひ……ひぇ……」

「もぉー、そんなに僕は干渉しませんよぉ。そうそう、そろそろもう一人来ると思うんですけど……」

「「「?」」」


 コンコン、とドアがノックされる。

 預言者か? と思うほどのタイミング。

 一瞬、後藤が「預言者が……」と言っていたのを思い出してしまうほど。

 考えを振り払うように振り返ると、端正な顔立ちのインテリ眼鏡風男性が入ってきた。


「紹介しますね、(まき)(みなと)くんです。あなたたちのプロデューサー兼マネージャーを務めます」

「初めまして、槇湊です。前職は脚本家なので、その時の人脈を駆使してあなた方を全力でサポートしたいと思っています。どうぞよろしく」

「よ、よろしくお願いします」


 なんかすごそうな人が追加された。

 淳が頭を下げるが、石動と松竹は嫌そうな表情。

 もうこの人たち本当に協調性が死んでいる。


「うちの事務所と契約を交わしている個人事業主の人なので、そんなに警戒しなくて大丈夫ですよ。上総、春樹」

「え、は? 別に?」

「別に……」


 警戒していたらしい。

 確かにパッと見胡散臭く見えるけれども。


「ちょうどよいので四人とも呼び方を決めてしまいましょうね。淳は今後リーダーとしてやっていくのですから、この二人を先輩と呼ぶのは禁止です」

「あ、うっ……! は、はい、わかりました」


 まさかの禁止。

 社長命令だから仕方ない。

 ではなんと呼ぶべきか。

 悩んでいる内に社長は「それでは、僕は次の業務があるのであとのことは槇くんにお任せしますね」と出て行ってしまった。

 取り残される、ほぼ初対面の四人。

 気まずすぎる。

 社長の言った通り、なんとも御し難い。


「あのー……えっと、ではそのー……石動先輩、松田先輩、今後上総さん、梅春さん、とお呼びしても……いいでしょうか?」

「じゃ、俺は普通に淳、梅春って呼ぶわ」

「えっと……淳くん、上総くん、と呼んでもいいでス?」

「俺は呼び捨てで構わないです! はい!」

「別に呼ばれ方にこだわりない。星光騎士団の変なあだ名文化はアレだけど」

「自分も平気でス」


 とりあえずグループ内での呼び方は決定。

 なので、次にちらり、と槇の方を見る。


「槇さん、とお呼びしてもいいですか?」

「はい、もちろん」

「「…………」」


 顔を見合わせる石動と松田。

 槇に対する不信感が強すぎやしないだろうか。

 二人の反応に、槇は苦笑いしながら「信用してもらえるように頑張りますね」と言ってくれた。

 先が思いやられ始めた顔合わせだった。



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