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巻き込まれ天然系鏡音くん


「音無先輩」

「鏡音くん……!? どうかした? なにか質問? それとも相談?」


 宣材写真も掲載してもらい、翌週の月曜日。

 お披露目を明後日に控えたはずの鏡音が二年生の教室まで現れたことに目を丸くしつつ、廊下から覗き込んでくる鏡音のところへ急足で近づく。

 さすがに物珍しそうに二年生の先輩に眺められるのが居心地悪いのか、廊下へ招かれた。


「あの、音無……ちこさん……って、先輩の妹かなにかですか?」

「おぇ……!? 智子? そ、そうだけど……え? 智子に会ったの? なんで?」

「オレの住んでるアパート、普通科の通学路に近いんですけど……あの坂のところの」

「うん」


 普通科と男子芸能科、女子芸能科の通学路は一箇所だけ、三又の交差点になっている場所がある。

 しかし、普通科の生徒は基本的定期ライブの手伝いを希望すればできたりするのでそれほど芸能科の生徒に騒ぐことはない。

 芸能科から普通科に転科してくる子も少なくないので。

 むしろ普通科の生徒が、他校やストーキングするような厄介ファンから芸能科を守ることもある。

 その交差点の先は三つの坂に分かれており、住宅街に囲まれていた。

 交差点近くの住宅街のアパートというと、東雲学院の寮だろう。

 アパートではあるが、セキュリティはしっかりしているはず。

 そこから通学のために三又坂に向かう最中、鏡音は他校の女子と揉めている美少女を見かけたらしい。


「金髪のなんか、派手な他校の女子と言い争ってて……芸能科がどうとか言ってたから、東雲の女子アイドルが変なファンに絡まれているのかな、とか思って無視して登校しようとしたんですけど」

「む、無視しようとしてたの」

「チコさん? から声かけられて捕まっちゃって」

「それは……申し訳ない……ごめん」


 しかし、智子が“アイドル”に声をかけて巻き込むなんて、と疑問が浮かぶ。

 智子は基本的に東雲学院のアイドルには敬意を持って接する。

 厄介ファンにならないように、距離には特に気をつけているはずだ。

 お披露目はまだだが、東雲学院アイドル箱推しの音無家。

 当然新入生アイドルのチェックは終わっている。

 智子も新しい東雲学院のアイドルグッズを揃えるべく、お小遣いを貯めたりしていた。

 ホームページを眺めて、「今年の一年生の推し誰にしようかなぁー」とニコニコしていたのがつい先日のこと。

 さらに言うと、東雲学院の中でも推している星光騎士団。

 その新加入アイドルへのチェックは、きっとかなりの速度。

 鏡音のことを知らないはずがないのだが。


「別にそれはいいんですけど……平謝りされてしまいましたし……お詫びに兄がなにかお礼しますとかよくわからないことも言ってて」

「ああ、なるほど。そうだね、妹が迷惑をかけたなら俺からお礼とお詫びをしよう」

「いえ……そういうのお断りしようと思ってわざわざここまできてるので……」

「え? 断りにきたの? ……チャットで言ってくれればよかったのに……?」

「グループのチャットで私情を書くのはよくないと思って……」


 星光騎士団のグループチャットには、柳と鏡音が招待されていた。

 綾城と花崗が抜けた時は寂しかったが、新しい柳と鏡音が入ってきて再び賑わった感じがして嬉しかったのを覚えている。

 なので、グループチャットで事情を入れてくれればよかったのだが私情といえば私情。

 それは確かに淳も考えてしまう。

 だが、チャット機能には個別DM機能とあるよ、と言うと真顔でびっくりされてしまった。

 どうも鏡音、変なところが抜けている。


(鏡音くんって……もしかしなくても天然……?)


 周のようなクールビューティ系かと思いきや、クールビューティの皮をかぶった天然の可能性が極めて高くなってきた。

 年齢一桁の頃からゲーム配信をしているらしいので、やや常識からずれているのかもしれない。

 なんにしても、お詫びやお礼を「お兄ちゃんが!」と言ったのは東雲学院ファンとしての“距離”だ。

 淳がそのように説明すると、また変な顔をする鏡音。


「それなら、チャンネル登録してほしいです」

「チャンネル登録?」

「オレのチャンネル。最近伸び悩んでるので。学院に聞いたら、個人のチャンネルは維持したままでいいって言われてて。今度格闘ゲームの大会があるから、それの練習をするんですけど……そういうのも視聴者数があると助かるので……ライブの時に宣伝する許可とか、ほしい、です」

「あー……そうか、鏡音くんは個人のチャンネル持ってるんだっけ。うん、いいよ。そういうのは積極的に発信してくれて大丈夫。ただ、SNSの炎上は気をつけてほしいから、当分は投稿前チェックはさせてほしいかな」


 と、言うとこくり、と頷かれる。

 歴もそれなりにあるので大丈夫とは思うが、一応だ。


「――そういえば、俺の所属している事務所、Vtuberもデビューするらしいんだよね。鏡音くんはそういうの、詳しい?」

「Vtuberですか? ……まあ、たまにコラボとかするので……。お互いの登録者にアピールして登録者数増やしたり、Vtuberってゲーム上手い人が多いのでいい練習になったりするんで……」

「え、そうなんだ。じゃあ事務所通して鏡音くんともコラボしてもらったりした方がいいのかな?」

「Vtuberの事務所……じゃないんですよね? 先輩の事務所……」

「手広く色々やっていく方針らしいよ」


 まさかそのVtuberが、来年アイドルデビューも予定しているとは誰も思うまい。

 まったく、技術はどんどん進んでいく。

 リアルのアイドルと、バーチャルのアイドルが同じステージでライブすることになる時代が来るのだ。

 そう考えると、ドルオタの血が騒ぐ。

 正しく新しい形のアイドルが、来年、自分と共にデビューするのだ。



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