新人たちが高スペックな件
宇月は本当に、時折優しくも厳しい、真っ当な先輩である。
淳としてはシンプルに尊敬しているのだが、ロッカールームからブリーフィングルームに移動してスケジュールの話し合いのあと二年生たちでレッスンスタジオに移動してからが先輩としての仕事だ。
去年地獄で苦しんだ魁星と周、今年は柳と鏡音を地獄に突き落とさねばならない。
憂鬱そうに溜息を吐く魁星の背中を、周が叩く。
スタジオのドアを開けて「よー、お待たせー。調子はどーぅ?」と軽い感じで入室すると二人ともケロリとした顔で水分補給をしているところだった。
目が点、表情は宇宙猫になる魁星と周。
「え? あれ? ランニング一時間、終わった?」
「はい! 水分補給しながら曲の振付を確認しているところです! 課題曲が三曲もあるのはびっくりしましたけど、映像で見たことがあるので多分、一曲は今週中に覚えられると思います!」
「歌詞は三曲、全部覚えました……。歌もダンスが苦手だから、それは不安……」
「大丈夫大丈夫〜! 円っちは“目”がいいからすぐ覚えるよ〜。音ゲーみたいな感じでさー」
「音ゲー……そうか、なるほど。やってみる……ありがとう、響くん」
無言で顔を見合わせる魁星と周。
顔を見合わせたあと、なぜか淳の方を見られる。
申し訳ないのだが、淳はなんとなくこうなる気がしていた。
そもそも、こうならないなら宇月が二人の仮加入申請を受理しない。
「えっと……そもそも柳くんって俺と同じで劇団出身なんだよね。つまりまあ、その……最低限、素人以上に体力と持久力はある、よ? リズム感も」
「え……ええ……」
「鏡音くんもプロゲーマーのチームにすでに入ってるってことは、そこそこ年相応のアスリート並みの身体能力はあるよね。うん……」
「ええと……では、あの……我々が彼らに教えることは……?」
「ライブで通用するくらいに、鍛えるくらいじゃない? 二人ともアイドルのライブは当然経験ないし? 外に向けたお披露目、デビューライブはやっぱり緊張すると思うし?」
そう言いつつ一年生たちを見ると、それはもう柳が「はい! なんならすでに緊張してます」と力強く頷く。
鏡音も「やだなぁ」と溜息。
人前に出るのが苦手とは言っているが、あまり息切れした様子がないのが恐ろしい。
「なんか今まで演じてた感じと全然違うんですよね。テレビのドラマとかはカメラがあって、それに意識を向けながら演技してればよかったんだけど……アイドルのステージってバトルオーディションの時に思ったんですけど、全方向から見られてるって感じですごい緊張しました。歌もダンスもあんまりやってこなかったっていうか、子どもだから許されてたところあるじゃないですか? そういうのがもう通用しないってところに恐怖を感じます。でも、それを克服したいです! 最近、演者がエンディングで歌って踊ったりするドラマもありますし」
「あるねぇ。逃げ○じとかあったねぇ」
具体的な例を出して首を振る柳。
幼少期の出演ドラマの中で、子どもの歌と踊りをエンディングにしたものもある。
それを思い出しつつ、より洗礼したものをお客さんに生で見せる、というのは確かに彼のこれまでの経験からはあり得ないものだろう。
「っていうか、自分で知らなかったんですけど……俺って意外と人前で演じたりとかしてこなかったからめちゃくちゃ緊張するっぽいです。ドラマの撮影はNGが出たらやり直しとかできるけど、ライブってそういうことできないって思ったら……」
「そうだねぇ。あ、そうか。柳くん、舞台じゃなくてドラマ中心だったからか」
「はい、舞台はほとんど経験ないんです。音無先輩に出会ったきっかけのあのオーディションも、収録でしたし」
「確かに」
ぶっつけ本番の生ライブの経験がほとんどない柳。
不安で堪らない、と項垂れる。
メンタル面のコーチングが必要そうである。
「鏡音くんは? 他に不安なところある? こういうところを中心にレッスンしたい、とか」
「え……えーと……結構、自分、方向音痴なところがあるから……それは不安……かも……」
確かに初日から迷子になってたしなぁ。
エレベーターホールにいたのに、と思い出す二年生ズ。
「ゲームのマッピングは得意なんですけど……」
という追加情報に顔を見合わせてしまう。
逆にそれはなんでなのか……。
「円っち緊張とかしないの?」
「大きめの大会とかで慣れてる……から? あんまり緊張とか、経験ない……かも」
「うわ、すごいねぇ」
「でも、なんかこう……あれ、なんて言えばいいだろ……? 張り合い? が、ないのかな……って……バトルオーディションの時、思った」
「なんて?」
張り合い、とは?
これには淳たちも神妙な面持ちになってしまう。
うーん、と少し考えてから鏡音が言うには、ゲーム大会では“敵”がいる。
FPSなどのシューティングゲームは、数人VS数人のチーム戦。
敵がいるから“負けたくない”という気持ちが、緊張や人前という苦手意識を優越する。
「でもなんか、ライブ? は張り合いがない……? 敵、いないし?」
「敵は確かにいないねぇ?」
「IGなどは勝ち抜き戦ですよ。敵と呼ぶのはいささか抵抗感がありますが、ライバルはたくさんいます」
「でも定期ライブ? とかは……いないじゃないですか……」
「それはそうですが……」
これには淳たちも困り果てる。
ゲーム脳、ここまでくると重症では?
「やだなぁ、円っち! そこはそれこそ『ライバルは自分』なんじゃない?」
「ええ……?」
「実際ダンスも歌も難しかったじゃん。円っち、音ゲーもやるんでしょう? 音ゲーってなんのためにやるの? 別に敵はいないよね、ああいうゲーム」
「それは……ポイントとかを――あ……そうか……前の自分より上手くなりたい、ってこと」
「そうそう、そういうテンションでやればよくない?」
「それならできそう。ありがとう、響くん」
にこ、と応える柳と、ささやかだが初めて笑みらしい笑みを浮かべた鏡音。
それに超絶デレデレになる淳。
純粋にアイドル同士のやり取りに悶えている。






