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星光騎士団新加入生(3)


 一階のエレベーターホールで発見した鏡音を連れて、淳と魁星と周は星光騎士団エリア、ブリーフィングルームに戻る。

 イライラしていた宇月に後藤がクッキーを差し出している現場に遭遇して、ああ、ご機嫌取りしていてくれたんだな、と察した。

 さっきまで淳に対して子犬のように尻尾を振っているように見えていた柳も、直立不動で緊張しきった表情。

 もしかして、洗礼を受けられましたか?


「宇月先輩、鏡音くん、エレベーターホールで迷子になってましたよ」

「ふーん。でもエリア移動は別に普通にできるよねぇ……?」

「……す……すみませんでした。何階だったか、覚えてなくて……」


 一目で宇月がお怒りなのを感じ取ったのか、鏡音が頭を下げる。

 それで許してくれるような宇月ではないのだが、淳は早速手札を切ることにした。


「鏡音くん、蔵梨先輩のゲームフレンドのエイランさんと同じゲーマーチームなんだそうです。覚えてますか? SBOの『井の中』でレベリングした時に会ったプロゲーマーの」

「え、蔵梨様と友達の……覚えてる覚えてる〜」

「蔵梨先輩……蔵梨さん?」

「あ、やっぱり知り合いなんだ?」

「いくつかのゲームで、一緒に遊んだことはあります。変な人だけど、プレイヤースキルはプロと遜色なくてすごい人です」


 予想通り、鏡音も蔵梨柚子もといエルミーと知り合いであった。

 エイランが「新しいゲームを始めるとだいたい遭遇して、結局一緒にレベリングしたりする」と愚痴のように語っていたのでエイランの後輩である鏡音も面識――ゲームの中で――があるのではと思っていたが。

 蔵梨柚子の話題が出た途端、やはり宇月が目を見開いて姿勢を正す。


「えー! お前、蔵梨様とゲームの中で一緒に遊んだことあるのー?」

「え? はい……ゲーム内だとプレイヤーの名前はエルミーさんなんですけど……あとなぜか女性アバターばっかり使ってて……ネカマらしいですけど……」

「それが蔵梨様の演技力の秘訣なんだって! へー、そうなんだぁ〜! やっぱりネカマプレイで演技の勉強した方がいいかなぁ? アバター作り直そうかな〜。現実の自分とはかけ離れた容姿とキャラで生活してみるっていうのがどういうものなのか、関係したりとかするのかなぁ」


 腕を組んで考え込む宇月。

 そんなことを言われたら、反応するのが演技世界で生きてきた二人。


「なるほど、ゲームの中で自分では演じたことのないキャラクターを作り出して演技してみるってことですか? そっか、ゲームの中ならそういうこともできるんだ? 確かに衣装とかもゲームの中ならいくらでも変えられるもんな」

「深く考えたことなかったけど、そう考えるとSBOのファーストソングでステージを貸し出ししてもらえるのって劇団関係者にも有益なのかも? 歌じゃないからバフをサーバーに提供できないのがネックだけど……」

「面白そうですね、音無先輩!」

「うんうん、面白そうだね。どうせ新入生もSBOでアカウント作ることになると思うし、普段使い用のアバターを現実とは真逆なキャラクターで作ってみたら? 俺も一応身バレ防止で女の子のアバター使ってるし」


 とか言い出す淳と柳。

 途端に目が輝く鏡音。


「え、新入生もSBOのアカウント作っていいんですか」

「むしろ今年から義務化されると思うよ。SBOゲーム内で東雲学院芸能科公式ショップもあって、そこで売られているグッズは校内売上に加算される新システムが導入されたばかりだし」

「よくわからないですけど、好きなだけゲームしていいってことですか?」

「それはちょっと違うけど……ある程度のレベリングをしてバフの種類を増やすのは必須かな。あまり積極的にログインしている生徒は多くないから、低レベルでも十分レイド戦ライブはこなせるけど」


 なぜならSBOは歌の上手さで十分“レベル”の概念を覆すことができるからだ。

 そのことを説明する場合、やはり語りたくなるのは比較的初期に綾城と魁星、智子とレベリングしていた時に初心者狩りをしていたプレイヤーキラーを倒してくれた三人。

 神野栄治ことエイナ。

 鶴城一晴ことハルナ。

 蔵梨柚子ことエルミー。

 三人とも容赦なかった。

 そして歌が上手すぎて相手のレベルを軽く凌駕してプレイヤーキラーをフルボッコしていた。

 脚色なしでその時のことを語って聞かせる淳だが、推しのかっこよさがとにかく強調された語り口調に宇月から「蔵梨様は!」と突っ込まれてしまう。

 エルミーにももちろん見所はある。

 むしろ最後、逃げ出したプレイヤーキラーどもを大技でまとめてキルした姿は正しく騎士。

 超絶かっこよかった、と熱く語る。


「えーーー! そんなことあったんだぁぁぁっ! かっこいーーー! 神野先輩も鶴城先輩もかっこいい〜!」

「そう! そうなんです! 神野様も一晴先輩もゲームめちゃくちゃ苦手って言ってたのに、歌が上手くて歌の追加バフであっという間にプレイヤーキラーたちを一人、また一人と倒していって、その鮮やかさは録画してもう一度見たいと思えるほどでした! っていうかまた見たい! 日曜の朝に放送してほしい!」

「歌いながら倒すってところがかっこいいよねぇ! 『井の中』で聴いた自信に満ち溢れた強い歌声が今も耳に残ってるもん〜。エイランさんも蔵梨様の歌がなければSBOやってなかったって言ってたしね〜」

「ですよねー!」


 完全に推し語りになっている。

 宇月の機嫌が完全に上向きになった。

 そして淳は推し語りが楽しくなって鏡音のフォローをしていたのも忘れている。

 淳と宇月が楽しそうなので、特に止める必要性を感じず黙って微笑ましく眺めている後藤と魁星と周と柳。

 お気づきだろうか、止める人間がいない。




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