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星光騎士団新加入生(1)


「音無先ぱぁぁぁぁぁぁあい!」

「あ、柳くん」

 

 練習棟、星光騎士団エリアのブリーフィングルーム。

 飛び込んできたのは柳響。

 そのまま淳に抱き着くと、嬉しそうに「俺、無事に受かりました! 先輩もお口添えありがとうございます!」と丁寧にお礼を言ってくれた。

 確かに根回しはしたが、淳の根回し程度で動く宇月と後藤ではない。

 柳のことを認めて加入申請を受け入れたのは、柳のこれまでの功績があったからこそ。

 ……というか、卒業した綾城と花崗が子役の頃の柳の演技を絶賛していたのが特に大きい。

 なのでやはり柳の努力の結果だろう。

 

「っていうか、柳くん、まずは先輩たちにご挨拶しようか!」

「あ、はい!」

 

 ハッとした。

 ブリーフィングルームには淳以外にも宇月、後藤、魁星、周がいる。

 一応部屋の中で淳は一番偉いわけではない。

 それなりに筋を通さないと怒られる。

 宇月に。

 

「一年A組、柳響(やなぎひびき)です! 俳優をしています! よろしくお願いします!」

 

 と、実にシンプルな自己紹介。

 うんうん、と頷いていたが、宇月は無表情、半目。

 半年程度だがそれなりに可愛がっている“生徒”で“後輩”をいびられるのは……ちょっと。

 変な冷や汗が流れる。

 淳の様子になにか察したのか、柳も改めて「えっと、よろしくお願いします」と二回目のお辞儀。

 

「もう一人はぁ?」

「ひへっ!? え、っあ……(まどか)くんですか? えっと、ごめんなさい、俺クラスが違くて」

 

 えっ、と二年生組が宇月の方を見る。

 鏡音(かがね)(まどか)は“取らない”と言っていたのに、加入申請を受理したのだろうか?

 いや、加入申請を受理したところで『仮加入』扱い。

『地獄の洗礼』を受けたあと、正式加入の扱いになる。

 

「うちに加入申請していた子の中で経験者ってところ、君と鏡音円って子だけなんだよね」

 

 つまり未経験者は全部落としたと。

 容赦がないが、去年もそうだったのでなにも言えない淳。

 淳たちも、来年はこのような対応をしなければならないのだから、気をしっかり持たなければ。

 特に淳。

 

夕陽廉歌(ゆうひれんか)っていう子は、ウチに加入申請してなかったんっすか?」

「きてない。聞いた感じ『面白ければなんでもあり』の勇士隊の方に加入申請したみたい。蓮名を締め上げたら苗村が教えてくれた」

 

 それは聞いていいのか? というのと、教えていいのか? という疑問が同時に出てきたけれど“あの”蓮名を締め上げられる宇月に恐怖を覚えたので、全員口を噤む。

 知らぬは柳だけ。

 

「もしかしたら迷っているのかもしれませんね。練習棟って、初心者には迷いやすいですし」

「えー? 迷うぅ? うちワンフロア全部うちのグループのだけど?」

「あと普通に来るのに緊張しますし」

「わかる」

「確かに、入学して一週間の新入生には来るのも緊張しますよね。広いですしでかいですし」

 

 と、二年生ズが口々に遅刻らしき鏡音円をフォローする。

 それを聞いて宇月が仕方なさそうに溜息を吐く。

 

「じゃあ探してきてぇー。クソガキが……遅刻なんてしたらどうなるかわかってんでしょうねぇ?」

「まだ連絡先も交換してませんし、今日は大目に見てあげましょうよ」

「あのねぇ? ナッシーも知ってるでしょ? 仕事に遅刻は厳禁なのぉ。むしろ行ったことない場所にソロで行く仕事だってあるのに、初手からそんなのバカにしてるでしょ! ゲームは上手いかもしれないけれど、遅刻が社会に通用すると思ったら大間違いなんだからねぇ? 今からしっかり教育しないと。ウチに入るならねぇ……?」

 

 笑顔。

 さすがの淳と後藤も、宇月の仕事への真面目な姿勢は知っているので震え上がる。

 それにこればかりは淳も完全同意。

 社会人として、学生とはいえ――いや、学生セミプロだからこそ、遅刻は“信用”を一度で失墜させる致命的なミス。

 仕事とは信用で成り立っているもの。

 かのお方、神野栄治様もおっしゃっておられた。

 

『遅刻はクズのやること。遅刻が許されるのは実績がある天才だけ』

 

 ――と。

 それでも遅刻することになりそうな場合、事前連絡は必須。

 それすらできないやつは社会のゴミである、とも。

 宇月は別に、神野栄治を信奉しているわけではない。

 あくまでも宇月美桜の信奉対象は蔵梨柚子! 圧倒的声優オタク!

 だが彼はモデルでもある。

 モデル業界は存外、一部を除いて職人気質な人間が多い。

 宇月もしっかりそれに染まっている。

「神野先輩のことは尊敬してるけどぉ、やっぱり蔵梨先輩が神〜」なのが宇月美桜という人だ。

 そんな彼の前で遅刻だなんて致命的がすぎる。

 慌てて淳たち二年生ズがブリーフィングルームから出て、件の鏡音円を探しに行くことにした。

 

「宇月先輩が怖すぎる……! 後藤先輩なんにも言ってくれないし!」

「このままだと今年一年で星光騎士団がパワハラグループと言われるようになってしまうかもしれませんよ……! 今のうちになんとかしなければ!」

「う、うーーーん。でも遅刻に関しては宇月先輩の言うことがど正論だしなぁー」

「ぐっ……それはそうかもしんないけどさぁ!」

 

 魁星と周は特にいびられる期間が長かったので、宇月のそういう面しか知らないかもしれない。

 が、宇月のツボを抑えるとあの人はかなり可愛い。

 アイドルとして素晴らしい魅力のある人だと思うのだが、最近いびりモードが多いのは淳も気づいている。

 本人もあんまり怒るのは好きではないらしい。

 お肌に悪いので。

 

「あの人、結構煽てておくとすごく扱いやすいよ。本人も自分のちょろさを理解した上で、あえて転がしてほしいっていうくらいだし」

「そんなのできるのジュンジュンだけだよ!」

「慣れればみんなもできるよぉ」

「我々はもうトラウマになってるんですよ」

 

 宇月のいびりが。



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