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三年生の宇月先輩


「なんで僕が、って思ったけれど、これで去年どうしたんですかぁ?」

「去年は初心者の感じを出すために、カメラマンに最低限の指示を出してもらっていましたね」

「ふーん、なるほどぉ。それじゃあこの………………。あ、結構厳し目評価してもいいですかぁ?」

「はい。それ込みであなたに来ていただいたので」

 

 渡島先生の笑顔に宇月も笑顔で「了解でぇす♡」と返事をした。

 これにより魁星だけでなく周の顔色も悪くなる。

 身に沁みついた恐怖で、二人は体が震え始めた。

 可哀想だが、淳には比較的すぐ優しくなったしツボさえ理解すれば非常に扱いやすいんだが。

 

「じゃ、ひとまず全員『自分っぽいポーズ』考えてみなよぉ。あんまり時間ないから五分以内ねぇ? ナッシー、お前はすぐイケるんじゃない? 最初に撮影終わらせておいでよぉ」

「はい、わかりました」

 

 クラスメイトたちには申し訳ないが、淳はプロモデルの神野栄治を神と仰ぐ。

 手に入れられるだけ、彼が映る雑誌や写真などを入手してきた。

 ある程度モデルのポーズの知識はあるし、劇団にいた頃に宣材写真を撮影した経験もある。

 ので、淳自身は比較的難なく二年生の宣材写真を終わらせた。

 

「えっと……」

 

 わずか五分で撮影終了した淳が戻ると、ポーズを決めるクラスメイト。

 全員なんかどこかしらがプルプルしている。

 

「どいつもこいつも体幹の鍛え方弱すぎるんだけどぉ! モデルの仕事はただ突っ立ってポーズ決めてればいいとか思ってたぁ? ねぇ、ちょっとそこの青毛! あんた去年一年なに練習してきてんのぉ? 背筋弱すぎて震えてんだけどぉ!? そんなんでちゃんとダンス踊れてるわけぇ!? どいつもこいつもそれでよくアイドルでやっていけると思ってるねぇ!? 舐めてるぅ?」

 

 フルパワー全開だった。

 しかしながら「うちの雑魚どもがマシに見えるとか、あんたら雑魚以下ってありえなくなぁい? もういいよぉ、ブサーとクオー、撮影行っておいで。ヘマしたら殺すからね」と、魁星と周はお許しが出る。

 さすがに宇月が一年扱いてきた星光騎士団第二部隊メンバー。

 他のクラスメイトよりは“マシ”の判断。

 魁星と周は宇月から解放されたことで、満面の笑顔。

 ダッシュでカメラマンのところへ向かう。

 

「ねぇ、そのポーズで太もも震えるんならなんでそのポーズ取ろうとしたわけぇ? 立つならもっとちゃんと立ってくれるぅ? はい、全員やり直しー。直立!」

「「「はい!」」」

 

 パン! と宇月が手を叩くと全員直立態勢。

 モデルの基本中の基本は『頭から糸で吊られている状態のイメージ』。

 これが簡単に見えて鬼畜。

 全身の筋肉、バランス感覚、体幹を駆使してようやくできるもの。

 人間、普通にしていてもだんだん骨盤がずれ始めると言われている。

 また、左右均等な脂肪、筋肉のつき方も難しい。

 利き腕、利き足の方がどうしても筋肉が多いなど、意外に人間は左右対称ではないのだ。

 そのあたりもすべて均等に整えるのがモデルの第一歩、と語るプロモデルもいる。

 当然その肉体を作り上げるために食事からトレーニングも徹底的な管理が必要。

 さらに肉体だけでなく、表現力も必須。

 見る相手にどんな印象を持たせられるか――。

 多くの人間に“印象”を与える能力にも長けていなければならい。

 宇月の強みは“可愛い”や“愛らしい”などの印象を与えやすく、服の系統も『男性でも可愛い』を主張するもの。

 これはなかなか真似できるモデルが少ない。

 基本的に男性も女性もモデルは高身長でスタイルが重視される。

 宇月の場合はあまり身長が高いわけではなく、それが原因でバレエを辞めた経緯はあるものの、低身長の小学生、中学生、高校生の男子を中心に『可愛い服』を着たい層への顧客に向けた服装のモデルをよくやっていた。

 この系統は『CRYWN(クラウン)』の岡山リントにより広まった『可愛いけどカッコいい』男の娘がパイオニア。

 見た目が可愛いとしても、漢としてかっこよく。

 そんなテーマで定着している系統。

 

「ハァーーーーーー。他のグループなにやってんのぉ? 一年の教育丸投げしすぎじゃなぁい? 体幹クソしかいないじゃぁん? 立ってるだけでプルプル震え出してるやつまでいるしぃ? は? お前ら去年なに学んできたわけぇ? やる気ないなら今から普通科に転科した方がいいんじゃないのぉ?」

 

 ちなみに宇月は別段『プロモデルとして』の部分を他人に強要するタイプではない。

 後輩いびるのを楽しそうにやっていそうに見えるが、他人の面倒を進んで見るタイプではないのだ。

 どちらかと言うと、お人好しの後藤の方がその気があるのだが、人見知りが発動して右往左往しているところを見かねて宇月が声をかけて……というパターン。

 なので今回は「渡島先生に言われたから仕方なく」である。

 それを理解している淳はヒヤヒヤしてきた。

 宇月、興味のない相手にはとことん冷淡なので。

 

「はい、肩幅に足を開いて十秒維持。……肩幅って言ったよねぇ……? お前の肩そんなに幅ないのぉ? 自分の肩の幅も把握してないとかウケるんですけどぉ? おい、お前え! 肩幅の言葉の意味わかるぅ!? 肩幅って言ったら肩幅に開けよ、開きすぎだよ日本語わかんないぃ? 小学校からやり直したらぁ!?」

「宇月先輩、あと二割くらい抑え目で。パワハラって言われちゃいますよ」

 

 ヒートアップしてきた宇月の肩を淳が叩く。

 それに舌打ちした宇月に、淳が「ちなみに北王子くん、今年はショタコンって公表してやっていくんだそうです」と言うと腕を組んだまま「ふーん」と興味なさそうに呟いてから数秒、クラスメイトたちをじっと見て沈黙。

 十秒後、「じゃあ次、左足を五センチ前」と指示を出す。

 先程のような厳しい発言がまったくなくなって、クラスメイトたちが泣きそうな顔のまま困惑。


「ナッシー、もう一声。僕の機嫌とって。イライラしてヤバい」

「蔵梨先輩、SBOで最高難易度ダンジョンクリアしたそうです」

「そうなのぉ!? カッコいい〜〜〜〜!」

 

 一気に声優オタクに変貌したが、こほん、と咳払いしてクラスメイトに向き直る。

 が、表情はにっこにっこ。

 この変貌ぶりに、ますます怯えるクラスメイト。

 逆に不気味なのに気づいていない。



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