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SBO内の送祝祭(2)


「いらっしゃーーーい! 星光騎士団副団長を本日で卒業する花崗ひまりくんやでー!」

「皆さん、こんにちは〜。同じく本日で星光騎士団団長を卒業する、綾城珀でーす。普段はお会いできない方がいらっしゃるかな? 今日、東雲学院の方に来れなかったけれど、SBOで来た人〜? おててあげてほしいでーす」

 

 キターーー!!

 音無家全員ステージの方へ駆け寄る。

 ついに星光騎士団、綾城珀と花崗ひまりの出番がきた。

 綾城がステージ下に声をかけると、かなり多くの人――さっきまで仕事をしていた淳の両親も片手をあげて「はーーーーい!」と叫ぶ。

 やはり九割くらいの人が現地に来れなかった人のようだ。

 SBOで『送祝祭』を行ったのは、大成功と言える。

 ただ――

 

「ちょっとどきなさいよ! あたしが先に前にいたのよ!」

「はあ!? 別に座席が決まってるわけじゃない立ち見なんだから誰が前へ行っても関係ないでしょ! そんなに近くで見たいならモニターで見てなさいよ! 町中にあるんだから!」

「そういう問題じゃないわよ!」

 

 始まってしまった。

 やはり、厄介ファンも参加して騒ぎ始めたようだ。

 SBO内のライブは元々すべてが無料。

 ゲームをするためのVR機とゲーム自体の料金はかかるがライブには席料などない。

 制限は多いが、ゲームの無料ダウンロード版もある。

 ちゃんとお金を出してソフトウェアを購入した人は、無料ダウンロード版でライブ参戦している人が不快でたまらないだろう。

 無料ダウンロード版はアバター衣装の購入ができないので、有料版の初期装備よりもさらにシンプル。

 布の服とショートパンツ、サンダル、ショートソードのみ。

 ゲームが歌バフを盛って戦い、攻略を進めるので無料版の装備でも第二の町までは行けるだろう。

 なので有料版初期装備の人と並ぶと一目瞭然。

 かと言って、今日のライブ目的でゲームを購入したユーザー同士、無料のライブなので結局客質はどっこいどっこい。

 ついに髪の引っ張りあい、頰の叩き合いが始まった。

 ステージ上からはさぞ、醜い女の殴り合いがよく見えるだろうけれど、綾城も花崗もそこから目を背けて左右のファンへ手を振っている。

 スタッフもいないので、周囲の人間が迷惑そうに見ていても止めることはない。

 しかしさすがに迷惑すぎる、と周囲の人たちが通報し始める。

 今回のSBOで開催された『送祝祭』についての注意書きが、ステージに近づくと電子音で読み上げられた。

 今回は今までで一番観戦者数が多いので、東雲学院側からリアルの定期ライブでも冊子に書かれているライブ観戦に関する注意事項がお知らせに載っている。

 ゲーム内なので、トラブルがあった場合はお気軽に通報してください、とも。

 

「私たちも通報しよっか」

「そうだね」

 

 一人二人の通報なら放置されるが、五人六人からの通報で本人に通知がいく。

 十人以上の通報で行動ログが運営にチェックされ、強制ログアウトやIDログイン禁止になる。

 殴り合っていた女性たちは、あっという間に強制ログアウトになってしまった。

 平和が戻ってきた。

 

「ああ……仕事を休んででも現実でライブを応援しに行こうと思ってたけど、早退してきただけで綾城くんと花崗くんの送祝祭に間に合ったの嬉しいー」

「二人とも立派になったよなあ。特に綾城くんは、一時期辞めてしまうかもしれないと思っていたが、今や時代の寵児と呼んでも過言ではないアイドルに成長したものだ」

「そうよねぇ。自殺未遂のニュースが飛び込んでてきた時は、心臓キュってなったものよねぇ」

「ああ……そうだよねぇ」

 

 音無家は神野栄治が一年生の時から東雲学院――星光騎士団に沼って応援していた。

 綾城珀が入学してきたのは、神野栄治が三年生の時。

 綾城はその時飛び抜けて顔がいい、有望株。

 一年生で飛び抜けて注目されていた綾城が、案の定というべきか――すぐに厄介ファンが沸いた。

 その前年、神野栄治と鶴城一晴がアイドルグランプリ夏の陣と冬の陣で学生アイドルが初めて予選を突破し、にわかファンが大量に流入してきたばかり。

 そのため綾城は、にわかファンの餌食に。

 中でもかなり高飛車な厄介ファンがガチ恋勢化して、ファンサを定型文でお断りした綾城はガチ恋勢の偽情報で炎上。

 彼を入学当時から知っている普通の古参は、彼が自殺未遂からの休学で「もうダメかもな」と残念に思っていた。

 そんな彼が、翌年復学して――留年してしまったけれど――次の一年生と共にアイドルに復帰。

 今やIGに所属グループを優勝に導くアイドルになったのだ。

 そりゃあ、感慨深くもなる。

 

「花崗くんも入学した時よりもずっといい表情をするようになったわよね。一年生の頃は、関西から出てきたばかりで、しかも訛りが強いからなかなか友達ができないって言ってたし」

「言ってたねー! 懐かしい〜」

 

 花崗ひまりは神野栄治の所属していたモデル事務所経由で、東雲学院芸能科に入学した。

 当時は関西、奈良でも田舎の方から出てきたばかりで訛りが強く、怯えられてしまっていたという。

 しかも神野の贔屓で星光騎士団に招かれて同級生からは敬遠され、孤立。

 なんなら当時神野は卒業済みだったので、蔵梨柚子からややネチネチ言われていたらしい。

 綾城が復学して星光騎士団にも復帰してから、ようやく“友人”を得られて元の明るい性格を取り戻した。

 なので、入学から数ヶ月は本当に表情が暗いことが多かったのだ。

 今はもう、綾城珀と花崗ひまりは背中を預け合う戦友(とも)

 だがその姿を見るのも、今日で見納め。

 これからは二人、別々の道を歩む。

 学力差で大学も違うようだし。

 しかしそれでも同じ芸能界で生きる。

 どこかで必ず二人が揃ってステージに立つこともあるだろう。

 神野栄治と鶴城一晴が、再び同じアイドルグループに所属して、ステージに立っている奇跡を見たからそう思える。

 だからみんな心から、二人の門出を祝福した。

 

(卒業おめでとうございます。綾城先輩、花崗先輩)




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