SBO内の送祝祭(1)
「あ、でも一応オンオフできるんだ。……うーん、でも、どうしよう……」
ログイン中のフレンドに自分のログイン状況を通知できる機能は、オンオフが可能。
少し悩んだが、別にオフにする必要性を感じないので放置することにした。
それよりも、ファーストソングの広場へと転移。
最低限、現在のステータスや新機能などのチェックをしてから、転移を実行。
ファーストソングの広場前に到着すると、ものすごい数のユーザーが集まっていた。
(うっわ……なにこれ、こんなに人が集まっているの、初めて見たかも)
周りを見回すと、だいたいが初期装備。
新規ユーザーばかりの様子。
ちらほらと中堅装備も見えるものの、中には以前無料配布した淳と千景がダブルリーダーを務めたコラボユニット衣装のアバターを纏う者もいる。
「うわあ!?」
なぁんて周辺のユーザーたちのアバター衣装や、装飾アイテムを眺めていると突然通知音が鳴る。
通知音は淳にしか聴こえていないのと、目の前に突然メッセージモニターが出てくるのでよほど気を抜いていなければここまで驚くことはないのだろうけれど。
周囲に大声を出してチラチラ見られるのが少し恥ずかしくて、広場から死角になる木の裏でメッセージモニターを開く。
送信者はエルミー。蔵梨柚子だ。
「えっと……『アイテムドロップ率上昇のバフ歌よろ』………………なるほど?」
ファーストソングのステージで行われるライブは、すべてのサーバーで“歌バフ”として共有される。
レイドイベントの時など、必ず一日に一度東雲学院のアイドルが招かれるようになったのも、その機能が実装されたから。
で、このエルミーはプロゲーマーとエイランとともに、現在最高難易度ダンジョンにいる。
おそらく今日の『東雲学院芸能科三年生の送祝祭SBOバージョンライブ』に合わせてダンジョンに挑んでいるのだろう。
今頃「アイテムドロップ渋い」と文句を言っていたに違いない。
そんな時、ちょうどよく淳がログインしてきたので、歌バフでドロップ率を上げてもらおう、とメッセージをよこしたと容易く想像できてしまう。
ちらり、と自分に現在付与されているバフを確認すると、三時から始まっている『送祝祭SBOバージョン』のおかげで[斬撃属性攻撃力LV2][突技性攻撃力LV3][物理防御力LV1][魔法攻撃力LV2][魔法防御力LV2][速度上昇LV2][武器攻撃力LV2][防具防御力LV1]……以下略。
ものすごい数のバフが70秒以上。
若干引いた。
いや、歌によるバフをいくらでも盛れるのがこのSBOのシステム。
売りの一つだ。
それに全体的にバフのレベル自体は低め。
追加付与も見当たらないし、エルミーがメッセージで送ってくる通りアイテムドロップ率関係のバフはない。
申し訳ないが、『送祝祭』で歌う曲は東雲学院公式曲がほとんどなので、アイテムドロップ率関係の効果が出るかは不明である。
曲調や歌詞、歌の上手さ、ハモリなどで精密採点ののち、該当するバフが付与される――と公式サイトに解説が載っていたので。
アイテムドロップ率上昇関係は和系、という攻略情報も出ているが、今回先輩たちが歌う曲に和風はなかった気がする。
一応、『すみません、自分選曲権限ないです』とメッセージを送り返すと直後に『そこをなんとか。飛び込みで歌って』とのこと。
蔵梨柚子のことはもちろん先輩としても芸能の先達としても尊敬しているが、ゲームが絡むとなかなかの無茶振りしてくる人だ。
戦い方も環境まで巻き込んで破壊の限りを尽くす、超広範囲重装備タイプ。
うーん、と悩んでから『やってみますけど、あんまり期待しないでほしいです』と返信。
すぐに『よろしく〜。エイランにも言っておくね』と逃げ道を塞がれた。
多分今頃エイランに「後輩に無茶振りするものじゃないよ」と注意されていそうだ。
「和風となると、鶴城先輩がいた頃の星光騎士団の曲ならアリかな?」
『お兄ちゃん、今どこにいるの?』
「やば。チコからもメッセージきてる……!」
サーバーは同じらしいし、同じくファーストソングにいるので合流は難しくないが、地図にフレンドのアイコンが出るようになったので合流が大変に楽。
千景にもメッセージを送りつつ、ステージの前へ移動した。
「あ、こっちこっち。もー、どこに行ってたのよ」
「そういえば淳のアバターは女の子なんだなぁ。シーナちゃん、か」
「う、うんまあ。身バレ防止的な?」
「確かにその姿ならバレないかもね。……まあ、淳……いえ、シーナよりもチコのアバターにびっくりしたけれど」
母がSBOにログインするのは初めてではないが、父は二回目。
事前にアバターのキャラクリエイトをして、放置。
そして初めて家族のアバターを見て、一瞬固まった。
無理もない。
息子は可愛い女の子のアバターで、娘はゴリマッチョの筋肉大男。
加えて母。
淳も母のアバターをじっくり見る機会は初めてなのだが、身長130センチくらいの魔法少女系ロリ。
父と共に沈黙するシーナ。
可もなく不可もない平凡男性容姿のキャラクリをした父が、逆に変な人みたいになっている謎。
いや、別にご本人の理想的な容姿にキャラクリするのは、なんにも悪いことではないのだが。
もちろん、ちっとも悪くないとも。
……ちょっとびっくりしすぎただけで。






