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お誘い(1)

 

「えええええええ!? 綾城珀がSBOを!? しかも、今日!? 本当に!? しょ、紹介してくれるの!?」

「うん。十九時から。大丈夫か?」

「お風呂もご飯も全部終わらせてくる!」

 

 と、帰宅してすぐに今日の練習前にあったことを智子に話す。

 妹はテンションを爆上げして一階のリビングから二階の自室へ駆け上がろうとした。

 が、階段の前で膝から崩れ落ちる。

 行動が理解できなくてギョッとするが、智子は全身を震わせて顔を両手で覆う。

 

「え、でも……え? 推しに認知される……って、オタとしてどうなん……? いいの? ええ?」

「お、落ち着いて。俺も同じこと思ったけれど、綾城先輩が『初めてやるゲームだから、経験者に色々教えてもらいたい』って言ってたし智子のこと話したら『いいよ』って言ってくれたし」

「うおおお! うそおおおお! 珀様がオタクを認知してくださるとー!」

 

 やっぱり発狂した。

 

「……智子お風呂入ってくるからお兄ちゃんご飯作ってくれる? 心頭滅却して冷静になって粗相のないようオタクとして推しにどのように接するべきかを心に刻む時間がほしい」

「とてもよくわかるからいいよ。お兄ちゃんに任せて。ちょっと買い物に行ってくるね。お留守番よろしく」

「うん」

 

 共働きの両親は、きっと十九時に帰ってくることはない。

 VR機も二台しかないので貸すことはできないけれど。

 

(っていうか、俺もお風呂入ってガッツリやりたい! 間に合うかな~)

 

 と、財布を持って出かける。

 今日も地獄のようなレッスンを終えての家事なので、頭が回らない。

 献立はクックドパッドで適当に決めよう、とスマホをいじりながらスーパーに向かう。

 手軽に牛丼の材料を買い込み、足りない調味料や日用品を袋に詰めてスーパーを出る。

 と、スーパーを出た直後、斜め右方向にあるアパート二階の通路手すりに見覚えがあるイケメンが見えた。

 

「え? あれ? 魁星……?」

 

 派手なオレンジ色の髪。

 ボーッとスーパーの方に歩いて来る。

 駐輪場でその様子を見ていると、向こうも淳の存在に気がついた。

 

「あれ、淳ちゃん?」

「やっぱり魁星。家このへんなんだ?」

「あ――あー、うん。まあ……」

 

 歯切れが悪い。

 首を傾げると、魁星は淳が自転車に積んだ袋を見て「淳ちゃんもこのへんだったんだ?」と目を細める。

 様子が学校と違う。

 

「うん。今夜は綾城先輩とSBOやるって言ってたから、早めに夕飯作ってお風呂入って待機しようと思って」

「ああ、そういう話してたなァ。そっかそっか。じゃあ、忙しいんだ」

「うん――」

 

 なぜだろうか、直感のようなものが働く。

 このまま魁星を一人にしておいてはいけないような気がした。

 

「魁星、もしよかったらさ、夕飯食べに来る? うち、今日は両親も遅くて。妹と二人なんだけど、今夜は綾城先輩とゲームで遊ぶ予定でしょ? 人は多い方が楽しいと思うし」

「え……でも……そんな、俺ゲーム機持ってないし……」

「フルフェイス型が余るよ。俺も妹も元々一人一つVR機持ってたから」

「……本当にいいのか?」

「うん。魁星が大丈夫なら」

 

 そう誘うと、魁星は一瞬泣きそうな表情になった。

 見間違いかもしれないけれど、少しだけ涙を浮かべていたように見える。

 見間違いかもしれないけれど。

 自転車に荷物をしっかりと固定して、淳は乗るのではなく自転車を押して歩き出す。

 魁星はその隣に歩み寄った。

 

「今日は牛丼の予定なんだ~。多めに買ってきてよかった。あ、うちの牛丼って糸こんにゃく入ってるけど大丈夫?」

「う、うん。っていうか、え? お、俺の分も作ってくれるのか?」

「え、そりゃあ作るでしょ。お招きしたの俺だし」

「――そっか……」

 

 料理作れるのすごいな、と力なく微笑まれて褒められる。

 学校で見る魁星とは明らかに違う。

 

(こんな一面もあったんだな)

 

 アイドルたるもの、いろんな一面があっていいと思っている。

 淳自身はドルオタがそういう一面になれば、と都合よく考えていた。

 事情を聞くべきか悩みつつ、あまり立ち入った話を聞くほど信頼関係ができているかと言われると自信がない。

 今日の練習の話など無難なことを話題にしていると、唐突に魁星が息を詰める。

 

「東雲の芸能科ってさ……希望したら寮に入れるんだっけ?」

「え? うん。でも手続きが結構大変って聞いたなぁ。県外から来ている子で、成績上位、親の許可がある、とか……俺もそこまで詳しくないけれど」

「そっか……。成績も関係するのなぁーーー!」

 

 頭を抱えてしまう魁星。

 スマホで学校のホームページを見てみたら、と助言すると「その手があった」とスマートフォンを開く。

 

「ほんとだ。県外から入学した生徒優先。近郊出身の芸能科学生は、親の許可と芸能活動で一定評価を得ている者、所属グループのリーダー及び顧問の許可……」

「一定評価は多分、星光騎士団所属なら大丈夫じゃないかな」

「あ……でもお金がかかるんだな」

「それはまあ……。でもほら、ここに『グループ活動で支払われた給金より差し引き可能』って書いてある」

「つまり、仕事で家賃を払えるってことか」

「うん。星光騎士団は元々知名度のある東雲芸能科御三家の一角だし、このまま星光騎士団でちゃんと真面目に活動していけば実績としては問題ないんじゃないかな。明日先輩に――あ、どうせ今夜綾城先輩とゲームするし、その時に聞いてみたらいいんじゃない?」

 

 と、提案すると魁星は顔を勢いよく上げた。

 その目はいつもの――見慣れている彼の表情だった。

 

「そ、そっか! それだ! ありがとう!」

「いやいや。そんなお礼を言われるようなことはしてないよー」




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