卒業式と送祝祭(2)
翌日、三年生主体の――そして三年生は最後のライブステージの日だ。
入場から涙を流し、ハンカチを目に当てがうファン多数。
「で、昨日ゆっくり話せなかったけれど、マイスイート淳くんは髪型と色を変えたのだね。とても似合っているよ! 二年目からのイメチェン、素晴らしいね」
「えへへ。ありがとうございます! そうなんです、最近舐められることが多いので、少し気合いを入れていこうかと」
「なるほど。それは私も感じていたね。新規客が増えたから、とはわかるが確かに最近無礼者が多い。そうか、一年生や二年生はあしらい方も未熟だから大変だろうね」
最後のリハーサルも終わった魔王軍三年生がステージの下に降りてきて、淳に声をかけてきた。
最初に声をかけてきたのはやはり朝科。
次に檜野が「新しい髪型とお色もお似合いです」と褒めてくれる。
魔王軍三年生、みんな優しいので淳もニコニコしてしまう。
この三人は夏の陣の時に秋野直に声をかけられ、卒業後も秋野直芸能事務所で引き取られることになった。
おそらく四月以降、秋野直芸能事務所の方でプログループデビューしてくれることだろう。
ドルオタはもう、すでにソワソワワクワクしている。
魔王軍ファンの一部も、東雲学院芸能科の公式サイトに卒業後所属事務所が掲載されており、そこに魔王軍三年生組が全員秋野直芸能事務所所属になることを知って発狂。
大絶叫がSNSに響き、プロデビューを待ち望む声がトレンド入りするほど。
今日のラストライブも、きっと魔王軍三年生ファンたちは東雲学院芸能科の巣立ちを全力でお祝いすることだろう。
というわけで、入場口から泣いているファンは、卒業と同時にアイドルも卒業すると明言している三年生のファンだ。
主に――花崗や大久保、石動のファン。
石動は昨日の話で春日芸能事務所に所属しそうな流れになっているけれど。
「綾城くんは厄介ファンのあしらい方、テンプレートだもんねー。日織くんたちのあしらい方も教えてあげよっか?」
「え?」
「本当ですか? 俺も最近買い物の時とかに絡まれることが多くて」
「自分も授業で習った内容以外にも方法があるのでしたら、ぜひ教えていただきたいです」
「あかんあかんあかん!」
と、雛森がウキウキ近づいてきたら、花崗ガードが淳の耳を覆う。
厄介ファンには困っていたので、ぜひ、と言おうとしたらなぜか全力で止められる。
後ろから後藤が慌てて駆け寄ってきたが、花崗の方が早かった。
「なんでダメなんですか? うちのあしらい方は、ファンサービスも兼ねているのですが」
「ダメダメダメ、あかんあかんあかん。それやってええのはホストクラブのホストか魔王軍だけやねん」
察した。
淳だけでなく魁星と周も厄介ファンからの声がけが増えていたから、お断りバリエーションを増やしておこうと思ったらしい。
が、花崗の言葉で――察した。
確かにそれはホストクラブのホストと魔王軍しか許されない。
というか、方向性的に無理だろう。
「もう、うちの子に魔王軍方式のあしらい方は合わないよ、朝科くん、檜野くん、雛森くん」
「そろそろ開演ですよぉ~、先輩方~」
開演時間が迫り、スタッフと宇月が呼びに来る。
出演は三年生が中心で、二年と一年はバックダンサー。
グループの出演は少なく、公式ソングを歌う。
なので、二年と一年は割とゆるゆる。
特に最初のステージは『トップ4』が担当。
今年の『送祝祭』は時間が短縮され、午後三時からSBO内でのライブが開催される。
なので、実質去年よりも三年生の出演時間は伸びていたのだ。
最初の出番に呼び出された綾城と朝科は、石動と大久保の二人と合流してステージ横に待機。
二年と一年はそれぞれバックダンサーなりMCなり物販で未だ売れ残っている三年生のグッズ販売の手伝いをするなり、裏方に回る。
グループごとでお別れと卒業おめでとう会のようなことをするところもあるが、淳たち――星光騎士団はサプライズで花束とケーキを準備しているが二時半までは内緒だ。
「解せぬ。なんで小門先輩のグッズが売れ残っているんだ……」
「お疲れ~、駿河くん。小門先輩のグッズ残ってるの?」
「そうなんだよ! 今日がすぎたら全品破棄なんだろう? そんなのなんか、悲しすぎる! 小門先輩は普通にかっこいいし歌もダンスも上手いアイドルなのに!」
「うんうん、わかる。で、どういう売り方してたの?」
「え? 売り方……って?」
講堂前に並べられた三年生グッズは本日売り切り。
売れ残りはすべて破棄となる。
大好きな先輩のグッズが売れ残っては気になるのは避けたい。
そんなの東雲学院芸能科アイドル箱推しのドルオタだって、まったく同じ意見。
なので今までどんな売り方をしてきたのか聞いてみた。
しかし駿河は首を傾げる。
もしかして、突っ立っているだけで呼び込みもなにもしていないのだろうか?
「他の生徒みたいに、誰のグッズを販売してまーす、とか呼び込みで声掛けとかで宣伝とかしないと……」
「う、うーん……でもなんか小門先輩って、割と寡黙キャラじゃん?」
「それと呼び込みをしないのは話が別だよね?」
「え、う、あ……で、でもやり方がよくわからなくて……」
「わかった。じゃあ、見てて。俺が小門先輩のグッズを売り切ってみせるから!」
「お、音無……!」
ドルオタモード全開できる貴重な機会。
二時半前に、なんとか全部売りさばいた。






