卒業式と送祝祭(1)
東雲学院芸能科の卒業式が執り行われた。
ついに三年生たちが卒業だ。
ぐすぐず泣く在校生。
短縮とはいえ滞りなく卒業式は終わり、生徒たちは全員明日の『送祝祭』リハーサルに参加。
特にへこんでいたのは、各学年一人ずつの『Monday』の駿河屋祝。
今年は二年生の松土結良と二人きりだ。
「新入生が入ってこなかったら、『Monday』は俺のソロで終わっちゃう……うっうっ、寂しぃよぉ」
シンプルに寂しがっていた。
だが、三年生が卒業して寂しいのはなにも駿河だけではない。
しかし、泣きすぎて目元が腫れるまで泣いていたのは駿河だけ。
「で、石動くんは結局どうするの?」
残念ながら明日は雨予報。
なので、野外大型ステージから急遽講堂ステージに変更された。
講堂なので、他のグループメンバーとの遭遇率が高い。
綾城がジャージで水を飲みながら、同じく水をがぶ飲みしていた石動に切り出した。
石動の進路は結局不明のまま。
質問された方はものすごく嫌そうな顔をしている。
「うっせーなぁ。少なくともアイドルをやる気はねぇよ」
「うちの社長が石動くんのこと、ずいぶん気にかけていたよ。仕事がないならうちにおいでー、って」
「無理無理無理、マジであの人だけは無理。絶対無理」
「なんでそんなに……!?」
超真顔で左右に首を振る石動。
こんなにガチで拒否る石動は初めて見た。
「……俺の実家はそこそこ……かなり古い宗教系財閥の一角だが、あの事務所社長は実家の財閥の邪魔を徹底的にやってくる春日財団の関係者なんだよ」
それは淳も聞いたことがあった気がする。
春日彗は財界にも顔が利く。
彗の父親が、財団の創設者なんだとか。
石動の実家も財閥というからには一族で相当の金持ち。
思わず後藤を振り返る一年ズ。
その視線にコクリ、と頷く後藤。
いや、声と言葉にしてくれ。
こくり、ではなんの肯定かわからない。
「石動くんの実家ってそんなに大きい家だったの?」
「まあ、面倒臭い程度にはな。俺の実家については詳しく話せんけど、とにかく実家と春日財団は仲が悪い。ガチで。マジで何度もバチバチでやり取りしている」
ちらり、と一年生ズがもう一度後藤を振り返る。
こういう話は世界的音楽家一族の後藤が詳しそうなので。
だが、やはり後藤はこくり、と頷くのみ。
説明する気はないらしい。
「それで無理なの? 絶対に? でも確か、石動くん自身は実家が嫌いで家出したとか言ってなかった?」
「ぐう……。嫌いだけれども」
「石動くんって本当に素直じゃないよねえ」
「っだぁー! もぉぉ! お前らマジでうるせーな! しつこいんだよ!」
なんだか『聖魔勇祭』の時のような話になってきた。
綾城と朝科がそれぞれ石動をチクチクといじっているように見えて、その実かなり石動を心配している様子。
淳としても、石動が引き続きアイドルをしてくれたらと思うので、春日芸能事務所に身を寄せていただけたらと心から思う。
卒業後も、アイドルの石動上総を見たい――という、ドルオタの欲望の話。
「大丈夫ですよ! 上総さんは卒業したらしばらく自分の伝手で働かせる予定なので、ご心配には及びませんよ!」
と、顔を覗かせたのは柴薫。
柴の言葉に石動が目を見開く。
「はあ!? やらねーよ! お前の伝手ってことは石神家関係企業だろう!?」
「あれ、上総さん自分が石神家の人間だって知ってたんですか?」
「ふざけんなよ、三年も俺なんかと一緒にいる時点で怪しいと思うに決まってんだろう! おれだってそれなりに調べる能力はある! 馬鹿にしすぎだろテメェ」
「あはははは。そうでしたか~。まあ、でも他家の者からちょっかいを出されても、自分が排除していたのですから感謝してくださいよ?」
「きっしょ。とにかく俺は家にはもう戻らない。勝手にしろ」
「そうはいきませんよ。結局なにもできないのですから諦めてお人形に戻ってくださいよ。本家は上総さんしか残ってないんですから、本家当主として勉強を再開してくれた方があんたのためだと思いますけど」
「絶対に帰らない。家の関係者の世話にもならねー」
なんか本人たちにしかわからない話を始めた。
ぷい、と顔を背ける石動と、やれやれ、という顔の柴。
困惑の一同。
「家の関係者に取り込まれるくらいなら、春日の関係者に世話になった方がマシだ!」
「え。じゃあ社長に石動くんのこと話していい?」
「いいよ!」
「ちょっと、余計なこと言わないでください。せっかく行く当てを制限できたのに」
「言っておくけれど、卒業と同時にお前と縁も終わりだ」
「え~……」
まさかの卒業と同時に勇士隊の君主と副リーダー柴が喧嘩別れ。
近くにいた勇士隊の一年がオロオロしている。
あと、高埜と苗村もオロオロ。
「じゃあ、春日社長に石動くんのこと相談しておくね」
「よろしく」
「はあ……本当に世話の焼ける面倒な人ですね」
石動から距離を取り、背を向けた柴がしみじみと溜息交じりに呟いた。
それを聞いたのは星光騎士団の面々だけだろうが――
「柴先輩も結構あれだよねぇ」
という宇月の呟きに同意せざるおえない。






