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合否の発表(3)


 北雲女学院合否発表の次の日、速達でA4サイズの封書が届く。

 封筒に書かれていたのは『東雲学院 普通科』と書かれている。

 恐る恐る智子が開封して中の書面を取り出す。

 

「合格だって!」

「「「おおお〜!」」」

 

 さすがに少し落ち込んでいた智子の表情が、パァッと明るくなった。

 まあ、正直なところ北雲でA判定をもらっている智子が東雲学院普通科を受験して落ちるはずもない。

 と、シスコンはドヤ顔で思うのだが、A判定で北雲を不合格になっていた智子にとっては一安心だろう。

 母が「今日は智子の食べたいものを作らないとね」とお祝いモード。

 淳も「ケーキは買うのと作るのどっちがいい?」と聞くと、智子は満面の笑顔のまま「片森洋菓子店のショートケーキ!」と答える。

 

「じゃあ、俺買いに行ってくるよ」

「あら、ちゃんと変装していくのよ?」

「大丈夫! 智子も一緒に買いに行くから!」

「ええ? 大丈夫?」

「お兄ちゃん一人じゃ絡まれたら大変でしょ! 智子がお兄ちゃんのボディーガードをしてあげるの! ほら、行こう!」

 

 昨日とは打って変わって、いつもの智子――いや、いつもよりもやや、テンションが高い。

 なにはともあれ、智子が元気になって本当によかったと安堵する家族。

 財布を持って、近所にある片森洋菓子店へと向かう。

 淳たちの住んでいる住宅地は、四方峰町東区から中央区に差し掛かるところに位置しており、片森洋菓子店は南区側に近い住宅地の中にある。

 小さい頃から、祝い事があると片森洋菓子店のケーキを買って食べるのが音無家の楽しみ。

 今は長男の片森泉が父親から店を引き継ぎ、新作をどんどん販売している。

 東雲学院芸能科でお菓子が物販で販売される時、商店街の舟笹和菓子屋さんとこの片森洋菓子店に注文することが多い。

 まさしく持ちつ持たれつ。

 徒歩で十分もしないところにある、小さな洋菓子店。

 少し坂になった場所にあり、外には二人席が三つほどあるカフェ型店舗。

 店で購入したケーキを、お茶やコーヒーと共に楽しむことができるのだ。

 

「こんにちは」

「あるぇ? 淳ちゃん、智子ちゃん久しぶりじゃーん! もしかして合格したぁ?」

「はい!」

「おめでとうー!」

 

 ちょうど完成したケーキを商品棚に置いていたのは、店主の片森泉。

 青い髪と目の爽やか系男子。

 歳は二十歳前半ととても若い。

 彼もまた東雲学院普通科のOBだったため、智子は「東雲学院の普通科受かったんだよ!」とカウンターに駆け寄った。

 

「マジで!? じゃあ淳ちゃんと智子ちゃん、両方とも俺の後輩になるんだー? うっれしー!」

 

 ご覧の通り、パリピ系陽キャである。

 性格がこうな上、顔も綺麗に整っているので店先に出ても若いお姉さんに言い寄られるのだが、ケーキ作り一筋すぎて未だに浮いた話がない。

 この容姿なら芸能科でも充分通用するように思うのだが、幼少期から父の跡を継いでこの店を切り盛りしていく、と決めていた泉は普通科で経営学を専攻したそうな。

 なんと泉は『CRYWN(クラウン)』の岡山リントこと秋野直と同級生。

 しかも同じ経営学専攻。

 一般人なのに、芸能人オーラがすごい。

 

「本日はなにをお買い求めですかー?」

「ショートケーキ! 四人分で!」

「かしこまりました〜! お祝いにチョコレートとフルーツ二つずつつけちゃおう〜」

「本当にぃ!? ありがとう、泉さん!」

 

 フルーツケーキなんて高いものを……!

 と、驚いたけれど、泉は本当にショートケーキ四つに、チョコレートケーキとフルーツケーキを二つずつ入れてくれた。

 倍額分だろうに。

 

「今日はこれからお客さん増えそうだからね〜。残るよりは食べてもらった方がいいし〜。食べて食べて〜」

「ありがとうございます!」

「あっりがとうございまぁーす! 絶対また買いにきます!」

「うんうん、待ってるね〜。よろしくぅ!」

 

 軽いノリでお支払いも済ませてケーキを持って帰路に着こうと踵を返した時。

 ちょうど店内に、新しいお客さんが入ってきた。

 淳の顔を見るなり「あ! 星光騎士団の音無淳くんだ!」と指さされ、叫ばれる。

 入ってきたのは二十代前半のギャル風の女性二人組。

 今日は厄日かな? と少し遠い目になる淳。

 いや、この女性が昨日の三人組女子のような厄介系とは限らないので、こくりと会釈だけして通り過ぎようとした。

 

「マジ! 本物じゃん!?」

「すげー! この辺に住んでるの!?」

 

 と、言いつつスマホを向けられてギョッとしてしまう。

 すぐさま智子が「今プライベートですよ! 写真や動画の撮影は肖像権侵害です! やめてください!」と淳と女性たちの間に入り、怒鳴りつける。

 すると女性たちはあからさまに表情を歪めて「はあ? なに? ウザー」と舌打ちした。

 

「ちょっとくらいいいじゃない。お金は払うから一緒にお茶しよーよ」

「いえ、もう帰宅するところなので」

「ケチケチしないでさ! まだ学生なんだし、お姉さんたちが奢ってあげるから!」

 

 これは、また。

 

(参ったな。学生だからこそ余計に舐められている。それに、最近如実に“こういうにわか”が増えた。にわかファン自体はありがたいのだけれど……)

 

 どんなジャンルも初心者さんやにわかさんは歓迎だ。

 同士はいくらいてもいい。

 ただ、さすがに学生アイドルだからと距離を弁えずに近づかれては困る。

 智子がすっかりガルルモードになりかけた時、カウンターから泉が「お客さーん、店内でトラブル起こすようなら出禁だよぉ?」と声をかけてきた。 

 

「別にそんなんじゃなくて――」

「そーよ、うちらはただ……」

「ダメダメ。学生だからこそ校則で決まってるしねー。東雲学院の芸能科アイドルにウザ絡みして普通に民事や刑事で訴えられてるクソ客もいるから、やめときな? 学院が事務所兼任してるからマジで容赦ないよ? 罰金で八桁いったやつもいたしね」

「ウッソマジで!?」

「えっぐ」

「エグいよー。だからやめときな? ね? 淳ちゃん、智子ちゃん、また来てね」

「泉さん……本当にありがとうございます」

「ありがとうございます! また絶対来ます!」

 

 泉の助け舟のおかげで、無事に店から出られた。

 しかし改めて『これはなんとかしないと』と思う。



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