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いちごのコラボユニット(4)


「ああ、俺も笹荻(ささはぎ)先生に相談したらそういうやり方を勧められたな~。だから学院積み立てにしてもらってる」

「え? 飯葛くんもお給料を取り上げられてくるタイプの親なの?」

「そうそう。うちは父親が酒狂いのクズ野郎でさ~、母さんは言いなりタイプの被害者面系毒~。姉ちゃんがいるんだけど、中学卒業したら風俗に売り飛ばすとか話してたから、県外に逃げてもらって就職してもらった。で、金になりそうな”アイドル”にってこの学院を受験させられたって感じ」

 

 なので、自分で口座を作ることなく学院側に積み立てにしてもらっている。

 そういうシステムもちゃんとあるのだが、自立を促す意味でもあまり推奨はされていない。

 だが、飯葛の場合は通帳やキャッシュカードを持っている時点で取り上げられかねないとのことで、学院側で積み立てを行っている。

 将来的に魁星と同じく卒業と同時に成人したら部屋を自分で借りて、親と絶縁して姉と生きていくつもりとのこと。 

 

「だからさー、俺は結構苳茉の気持ち、わかる方だと思う。親の言いなりになる必要、ないんだよ。一人で生きていけるように稼げるようになれば、絶対にいつか自由になれる」

「………………じゃあ、グッズ……好きにしてください」

「いいの?」

「どうせ無駄だと思うから」

 

 飯葛の話を聞いても、なんの感情もない表情と眼。

 これには誰ももう、なにも言えない。

 

「『いちご狩り』のメンバーの皆さん、そろそろステージの方にお願いします」

「あ、はーい。じゃあ、行こうか」

「「おーう」」

 

 

 

 ◇◆◇◆◇

 

 

 

 二月といえばバレンタイン。

 二月十四日には、定期ライブの代わりに『チョコレディ』という特殊ライブが開催される。

 東雲学院芸能科アイドルグループが各自チョコレートを制作、または四方峰町の商店街業者に発注のどちらかを選択。

 星光騎士団はグループメンバーの誕生日月には、必ず手作りケーキを物販販売していたので問題なくチョコレート菓子を作る予定。

 

「で、先月解散予定のコラボユニット『いちご狩り』が、いちごを使ったチョコレート菓子の宣伝に是非ってオファーが続々きてて? ユニット延長になった――と」

「はい……なんか時期的に他のお菓子会社や飲食店からもバレンタインイベントに出てほしいと……」

「思わぬ需要の高さ……」

「ほんとに」

 

 腕を組んだ宇月とSDを抱えた後藤が顔を見合わせる。

 今来ている依頼は飲食チェーン店で、いちごフェアやいちごを使ったバレンタインのフェスのイベント、商店街でのバレンタイン商戦イベント、町中にある百貨店で開催予定のバレンタインコーナーなどなど。

 淳も驚くほどに依頼が殺到している。

 どうやら『年に一度のバレンタイン』と『旬のいちご』と『期間限定のコラボユニット』のトリプルコンボが炸裂した模様。

 学院側も予想外の依頼件数に、担当の真水(しみず)先生から「スケジュール調整をこちらでするので」と言われたほど。

 

「まあ、いいんじゃない? コラボユニットで各々のグループの宣伝にもなるし、五月までは営業に力を入れるつもりだったし、頑張っておいでよ。真水先生なら週一に必ずお休み入れてくれると思うしさ~」

「えっと、でも二月は星光騎士団のチョコ作りもありますよね?」

「うーん、でも大丈夫じゃない? 料理上手いナッシーがいないのはちょっと痛手かなぁと思うけれど、逆にブサーを鍛えるのと一応調理研究部で一年頑張ってきたクオーの実力を発揮させるにはちょうどいいかなぁ?」

「毎年三百個くらいだったけれど、今年はIG夏の陣のこともあるから五百個の予定なのに?」

「ブサーは料理の練習もあんまりしないんだから、簡単なチョコ菓子の量産で鍛え直してあげないとね♡」

「ごふっ!!」

 

 ソファーで身を縮こませ、ちびちびスポドリを飲んでいた魁星が噴き出した。

 顔面真っ青にしてあうあう言っているが、宇月に「できるよねぇ? ブサー?」と笑顔を向けるとガタガタ震えあがる魁星。

 可憐な笑顔が悪魔の笑顔にしか見えない。

 

「とりあえず僕とごたちゃんがトリュフ、ブサーとクオーは型抜きかな」

「それが妥当だね」

「が、頑張ります……」

「予定が合えば俺も作るの手伝うね」

「絶対だよ~~~!?」

 

 淳にしがみつく魁星の頭を撫でる。

 宇月に笑顔のまま「甘やかさないでよ」と言い放たれる。

 甘やかしているつもりはないのだが、後藤にも「自覚ない?」と首を傾げられてしまう。

 

「最近SNSで結構甘やかしてない? 手作りお弁当をブサーとクオーに手渡して、三人で距離近い写真上げてるじゃん」

「あれはBL営業の一環ですね」

「BL営業!? 僕がまんまと引っかかったとでもいうの!?」

「「「え?」」」

「なんでもないけどねぇ!!」

 

 宇月のそういう性癖を知っているのは今のところ淳だけなので、宇月のツンケンしたごまかしには誰も否を言えない。

 淳としてはちゃんと一定数の”効果”が得られたのでニコニコ笑顔である。

 

(BL営業はやんわりこのまま続けつつ、コラボユニットの仕事をとにかくこなすしかないよね。コラボユニットの方は最悪、ある程度のシーズンを越えたら二年生のコンビアイドル『Puff(パフェ)』や三年生四人と二年生一人の五人組『SWEETS(スイーツ)』に引き継いでもらうのがいいかな。テーマ的にもあのニグループの方がいいと思うし)




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