いちごのコラボユニット(2)
転科する者は毎年二桁に届く数が出る。
それ自体はなにも問題ないのだが、ドルオタとしてはやはりアイドルがいなくなるのは悲しい。
魔王軍は日守が勇士隊に取られてしまったので、四天王のユニットに今一年生が三人しかいないのだ。
「星光騎士団と勇士隊は割と安定的だけどさー、うちは来年後継不足で四天王ユニットが維持できない可能性もあるんだよなぁ」
「俺たちは俺たちで武器が必要だよなぁ。先輩たちみたいな色気が出せるようになるには、どうしたらいいんだろう?」
「麻野先輩はともかく、茅原先輩は朝科先輩たちくらいの色気は出せるようになってきてるもんな」
と腕を組んで考え込む緋村と飯葛。
二人もいい加減、今のままではダメだと思っているのだ。
今年一年、さらなる飛躍をするために。
少しでも先輩たちに恥じないアイドルに成長するために。
魔王軍といえば朝に相応しくないレベルの色気。
あの色気は日々意識して出せるようになっていると朝科が言っていたので、三年生がいる間に極意を伝授してもらった方がいいだろう。
「そのあたりも三年生たちが卒業する前に話をした方がいいかもね」
「うん、そのつもり。とにかくお前らに負けないように俺たちも成長するつもりだから!」
「……うん」
星光騎士団の淳と、勇士隊の千景にはっきり宣言する緋村に嬉しくなる。
これからの二年間、淳たちは互いに切磋琢磨してグループを支える主柱になっていかねばならない。
今年三年生になる今の二年生たちを支えられるような、柱に。
そこから、次の世代を守りながら育ててる“大黒柱”に。
「ま、でも今日は同じユニットメンバーとして頑張ろうぜ。今日で最後だしな!」
「そうだね。頑張ろう〜」
「最後なのがちょっと惜しいくらいには、すごく勉強になった。俺たちも別のグループと別のコラボユニットを組んでみるのもいいかな」
うんうん、と嬉しくて頷いていた淳の手元のスマホがブルブル鳴る。
なんだろう、と見てみるとSBO公式から新イベント告知!
慌てて通知からツブヤキッターを開いてみると、来月二月十日から二十八日まで『不思議の国のトランプスート』というイベントが開催されるらしい。
ダイヤ、ハート、スペード、クラブの4チームに分かれてレイドを行う。
もっともレイドで魔物を倒してポイントを稼いだチームに、特別衣装アバターと武器素材をプレゼント。
歌が戦いの行く末を大きく左右するゲームなので、歌上手がどれだけ揃うかが勝負。
たとえばいつぞや出会ったプロゲーマー、エイランや彼と同等のプレイヤースキル持ちのエルミーこと蔵梨柚子などが一つのチームにいたなら、レベルでぶん殴ってなんとかなるかもしれないが。
「なに見てるの?」
「二月十四日にSBOで『不思議の国のスート』っていう大型イベントがあるんだって。四つのチームに分かれてレイドモンスターを討伐して、ポイントで争うみたい」
「SBOかー。ゲーム内でライブできるゲームだっけ? 俺まだログインしたことないんだよなー。IDだけ取得して、いつでもログインできるようにキャラクリもしたけどさー」
「ええ……!? なんでログインしてないの!? 普通に面白いけど!?」
「え、あ、そ、そうなんだ? でもVRゲームとかしたことないからさー」
この学院の生徒、意外とゲームしたことない率が高い。
緋村と飯葛が顔を見合わせて「やったことない」と口を揃えるので、淳の方からSBO内で歌やダンスの練習ができることや推しグッズの販売も行っていること。
そのゲーム内での個人グッズ売り上げが、校内売り上げランキングに影響することまで説明した。
するとかなり驚かれる。
ゲーム内のグッズ売り上げのことは、知らなかったらしい。
「なら、ゲーム内のライブはやった方がいいのか」
「一年生だけでも、どんどんやっていいって先輩たちも言ってたもんな」
「うんうん。現実だけでグッズ売り上げ上位を目指してもいいと思うけれど、伝手としてSBOでライブしておくのもありだと思う」
「そっか、そういう営業の仕方があるのか」
さらにスマホに通知がくる。
先程のSBOイベントの続報。
三月に東雲学院芸能科『送祝祭』がゲーム内でも行われること。
三月十五日から三十日まで、ファーストソングのライブステージ利用者にステージ前に集まったお客さんの数によってインセンティブ――投げ銭機能が実装される――らしい。
もちろん投げ銭はゲーム内通貨だが、ゲーム内通貨も貯めれば換金できる。
SBO内で家が買えるようになったことで、ゲーム内通貨の価値が結構上がっているのでステージでライブをする人間を増やすための報酬になったのだろう。
あるいは、ステージでの演者を増やすためにゲーム内通貨の価値を上げてから投げ銭機能を実装したのか。
どちらにしても、ステージに上がって歌うことにかなり意味が出てきたように思う。
運営もなかなか考えているんだなぁ、とほっこりする。
「普通にプレイしてても面白いしね。ダンジョンとか。……まあ、最近俺も忙しくてログインしてないんだけど」
「え、そうなんですか? あの、あの、星矢さんのグッズがSBO内で販売開始したので、もうゲットしておられたかと……」
「それは発売日に買いました」
「! さすがです……!」
「なんの話?」
緋村と飯葛には理解不能な話だった。






