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ソング・バッファー・オンライン~新人アイドルの日常~  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
6章

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特別授業(2)


「“グループの個性”と“自分自身の個性”を出し切って、相手と合わせることは考えずにもう一度やってみ?」

「は、はい」

 

 秋野に言われて全員やや困惑しつつ、普段グループでやるようにパフォーマンスをし始めた。

 しかし全員『自分自身の個性』に関しては、よくわからない。

 特に淳は“人の理想のアイドルを演じている”タイプ。

 自分の個性を殺して、全力で合わせにいっているスタイル。

 それなのに自分の個性を出せ、なんてずいぶんと難題。

 そう思っていたのに、最初の一節を千景が歌ってからゾッと鳥肌がたった。

 

「〜〜〜♪」

 

 元々歌が上手い子だったが、その中に間違いのない、彼自身の感情が乗っている。

 切ない。悲しい。つらい。寂しい。

 負の感情が多いはずなのに、突き刺さるほどに美しい歌声。

 

(千景くんすごすぎぃ……!)

 

 作詞作曲といい、歌がうますぎるといい、顔も美しいし――なんでこれで自信がないのだろう?

 後藤といい、ハイスペックの自覚がなさすぎる。

 次の節もそれぞれが自分の好きなような歌い方、表現を行う。

 淳も自分がもっとも好きな人――神野栄治の歌い方を真似てみた。

 自分に個性はないと思っている。

 だから自分の好きなものを表現しよう。

 

「「「〜〜〜〜♪」」」

「「〜〜〜〜♪」」

『〜〜〜♪ 〜〜〜〜〜♪』

 

 最後の全員の合わせ。

 いつの間にかほとんど全員楽しくなって顔を見合わせていた。

 ただそうなると目立つのが苳茉。

 

「うん、さっきより俄然いい。もうそれでいいんじゃね」

「うんうん! 格段にイイな! お前らライブもそれでいけよ!」

「あ、ありがとうございます!」

 

 秋野の視線が苳茉に向けられている。

 思わず淳も苳茉を振り返ると、絶望したように顔を白くしながら息を吐き出していた。

 他のメンバーがそれぞれに“個性”を見せていたが、苳茉だけは“個性”を見せられなかったからだ。

 

「お前さ、少し面倒見てやるからカウンセリングは受けろよ。仕事、とでも言えば親も納得すんだろ」

「え……あ……」

「お前はお前の自由に生きていいんだよ。本来は。奪われすぎて麻痺ってるだろうけれど。押さえつけられてるだけで、なくしてはいないだろう?」

 

 秋野の言葉があまりにも神の声のように聞こえてくる。

 CRYWNのリーダーは空風マオトだが、精神的主柱は彼、秋野直こと岡山リント。

 俯いていた苳茉が静かに「はい」と頷いた。

 

「じゃ、俺、他のグループも見にいくわ」

「よろしくなー」

「凛咲先生も作詞よろしく」

「おうともよー」

 

 スタスタと、淡々と去っていく秋野。

 あ、と淳と千景がサイン色紙とサインペンをどこからともなく取り出して、下げた。

 

「ダメだぞ、お前ら。生サインは」

「「はぁい……」」

 

 凛咲にも注意されてしまった。

 残念。

 

 

 

 翌日は一月の定期ライブ。

 冬休みも終わり、裏では卒業式と『送祝祭』の準備が進んでいた。

 一月の定期ライブは今までとは様相が変わる。

 一年生、二年生が主体となり、三年生はほとんど出演しなくなりグッズ販売も『在庫のみ』となるのだ。

 綾城のグッズは残らず完売済み。

 花崗のグッズも量産されていた缶バッチ、サイリウムぐらいしか残っていない。

 物販を担当しているスタッフには「綾城珀のグッズは?」という問い合わせが殺到していて、急遽増員を求める無線が飛び交う。

 

「綾城先輩と花崗先輩は今日休みなんすね」

「そうー。一応二人とも仕事しながら大学に通うらしいよ。ひま先輩、大学受験して受かるのかねぇ? ま、落ちたらモデルと俳優の仕事だけで生きていくしかないよねぇー。ふっふっふっ」

「あはは」

 

 今時“高卒”だとクイズ番組にも呼ばれない。

 いや、呼ばれたとしても“バカ枠”だ。

 最低限、大学には通った方がいいという話になるだろう。

 綾城はそれなりにいい大学を受験したようだが、花崗は学力相当の三流大学を受験したらしい。

 今は二人とも仕事を本格化させていて忙しそう。

 綾城は去年からずっと忙しそうではあったけれど。

 

「さてと、少し早いけれど新体制に移行する準備段階ってことで――お前ら、わかってると思うけど三月に珀先輩とひま先輩は卒業する! で、四月一日づけで僕が星光騎士団団長(リーダー)になるから!」

 

 突然立ち上がり、宇月が胸を張る。

 確かに、ここで一度今後の流れを聞いておく必要はあるだろう。

 本番までまだ時間があるので、場所は練習棟のブリーフィングルーム。

 衣装はすでに着ている。

 が、後藤はSDを木箱にしまうのをやめて取り出した。

 

「で、僕とごとちゃん、ナッシーが第一部隊のメインメンバーになる。ブサーとクオーは第二部隊。二軍だからと拗ねたりしないでよねぇ。割といつものことだし、お前らも一年が入ってきたら五月にごとちゃんと同じように第一部隊に昇格予定だから。で、四月に入学してきた一年たちに第二部隊を任せることになる。第一部隊は基本的に定期ライブよりも仕事メインに動く。ブサーとクオーは入学してきてピヨピヨの一年生をしごきにしごいて使えるようにして、一ヶ月で使い物になる程度にして。でないと第二部隊として稼働もさせられないから。教えながら自分の伸ばせるところを見つけられるでしょ」

「そうですね。コラボユニットで教えながら学ぶことは覚えました」

「うんうん。第二部隊の隊長はクオーでいっか。まあ、そんな感じでさ、一年をバリくそにしばいてしごいて使えるようにするのが仕事ね! もちろん僕もやるけどさ!」

 

 と、胸を張ると魁星が震え上がる。

 完全にトラウマになっているのが可哀想。

 

「あと、去年の自分たちのことだから覚えてるよね? バトルオーディションのこと。星光騎士団(ウチ)は大手古参だから志望者が殺到してくるの。新入生の四割から五割が希望してくるから、バトルオーディションの時にしっかりと見て可能性ありそうなやつを通してね。うちはオーディションはよほど知名度と実力がある子以外オーディションは全員落として『地獄の洗礼』で選別する予定だけど、一応ね! 一応! オーディションもちゃんと選んでね!」

「は、はい!」

「そ、そっかー、俺らもオーディションで後輩を選ぶ側になるんだな……なんか感慨深いっつーか、一年早ぇぇえ……」

「だねぇ」



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