新年のコラボユニット(1)
「コラボユニットメンバー! 決定です!」
――時間は少し遡り、『聖魔勇祭』の十日前。
十二月二十日、冬休みに入る直前校内の会議室に六人の生徒が集まった。
来年すぐに『新年♪ アイドルといちご狩り』イベントのためにコラボユニットを組んだため、その顔合わせだ。
今回の参加者は前回参加しなかった魔王軍一年三人が参加。
千景が前回参加した勇士隊熊田以外のメンバーにも声をかけたが、誰も首を横に振らなかった。
日守もそれなりにランキング上位になってしまったので、ランキング下位を誘うように言われているため不在。
そのため、ランキング四十六位――最下位の苳茉葵がいる。
苳茉は眼鏡の非常に地味な黒髪の青年。
どうして東雲学院芸能科に入ったのかと聞くと「母と姉と妹に逆らえなかった」とのこと。
転科も考えていたのだが、女系家族で男子は逆らう権利すらない。
言いなりである。
そして母、姉、妹の目的は『東雲学院芸能科アイドル』との接触。
学院側でガチガチにガードされているため、基本的に東雲のアイドルは校則という形で厄介ファンからやんわりと逃げる。
それが不満な母、姉、妹は苳茉葵として学院に送り込んだ。
やる気がないのは、そのため。
教師からも本人のやる気のなさや家族の思想も相まって、普通科への転科を勧めているが家族の方が反対している。
自身の自我など認められてこなかった苳茉は無表情。
クール系というよりも完全に人生を諦めている。
その様子に淳も千景も非常に同情的。
アイドルを愛しているからこそ、苳茉の境遇は悲しい。
彼はアイドルをきっと憎む以前に、どうでもいいと思っている。
というよりも、彼自身が自分で考えることを放棄しているのだ。
クラスメイトの千景も、自分以上に自主性のない苳茉にどう話しかけるべきか困り果てている。
それでも一応、教えたことは完璧にこなせる天才肌。
彼が真剣に――自身で望んでアイドルを目指したなら、実に素晴らしいアイドルになれるだろうに。
「では俺から自己紹介しますね。一応、初見の人もいるので全員しましょう。星光騎士団、音無淳です。今回のコラボユニット……のリーダーを務めます。よろしくお願いします」
「あ、あ、えっと、あの、み、御上千景と申します……ゆ、勇士隊です……よろしくお願いします……」
「はい! 魔王軍所属、長緒幸央です! よろしくお願いします!」
「同じく魔王軍、緋村壮馬です! よろしくお願いします!」
「魔王軍、飯葛快斗です。よろしくお願いします」
「苳茉葵です。『Sand』所属です」
『Sand』は三年生二人、苳茉の三人組。
あぶれていた苳茉を助けてくれた三年生組は、自分たちの代で終わりのつもりだった。
三年生の吾妻夕と葉加瀬雅は、ちゃんと苳茉の事情を聞いた上でグループに入れてくれたそう。
「吾妻先輩と葉加瀬先輩の『Sand』はバラード系のしっとり曲が強みなんだよね〜」
「わかります〜。アルバム曲はどれも切ない歌詞で、凛咲先生の普段の姿からは想像もつかない繊細で傷つきやすい恋の歌が染みるんですよね〜」
「「「え……」」」
硬直する魔王軍三人。
基本的に凛咲先生は学院内のアイドルのオリジナル曲の作詞を担当している。
作曲はできる者がそれなりにいるのだが、作詞は恥ずかしさが勝るので結構やりたがる者がいない。
作詞の授業もあるのだが、だいたいの者が悶絶する。
思春期だから、仕方ない。
千景や雛森は比較的歌詞も恥辱に負けないくらいに書くことはできるけれど、やはり凛咲の語彙力種類は多岐に渡る。
「で、企画書の方は今お配りした通りです。俺と千景くんは『聖魔勇祭』もあるので、練習は少し時間がずれるかもしれません。でも、普段だとライブはしないし、曲もないものなのですが、今回は千景くんが曲を用意してくれたのでこちらを二十日ほどでマスターしてください」
「「「二十日!?」」」
「大丈夫大丈夫。三人とも魔王軍の練習で基礎はしっかり叩き込まれているはずだから。苳茉くんも不安かもしれないけれど、俺と千景くんで練習に付き合うから、不安なことがあったらなんでも聞いてね」
「はあ……」
――という不安が残る顔合わせから二十日。
一月五日に小さめのバスで六人は四方峰町郊外にあるいちご農家に移動していた。
いちごは冬が旬。
正月休みでいちご狩りをしよう、というお客さんに向けたステージが用意されている。
いちご農家に着くと農家の人と話をして、衣装に着替えた。
配信の準備もして、カメラを凛咲に預ける。
「風道いちご農家にご来場の皆様、こんにちはー! 東雲学院芸能科、星光騎士団第二部隊、音無淳でーす! 今日は美味しいいちごをもっと多くの人に食べていただくために、お手伝いに来ましたー!」
「同じく東雲学院芸能科、魔王軍西軍所属、緋村壮馬ですー!」
「同じく魔王軍南軍、長緒幸央です! どうもどうもー!」
「同じく魔王軍北軍所属、飯葛快斗です! 名前だけでも覚えて帰ってくださーい」
「『Sand』所属の苳茉葵です。よろしくお願いします」
お客さんは想像以上にまばら。
え、これは大丈夫か、と不安に思ったが淳たちがステージに上がったのを見て奥でいちごを摘んでいた家族連れや、若い男女のお客さんが近づいてきた。
「淳くんだ!」
「千景くーん」
「あの子たち魔王軍の子?」
「へー、初めて見た」
どうやらちゃんと定期ライブなどで淳たちを覚えてくれていたお客さんらしい。
追いかけてくれたのは本当にありがたい。






