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聖魔勇祭(2)


「淳、普通に料理上手いよなぁ」

「そう? だとしたら嬉しいなー。神野先輩みたいに学力もアイドルとしてもまだまだだと思ってるけど、料理は少しでも追いつきたいし」

「いやぁ、普通アイドルだから料理スキルはなくてもいいものだと思うんだけど……」 

 

 淳以外の音無家をステージ前に置いて、全員で校門近くの屋台にやってきた。

 昼食には遅いし、夕食には早すぎるが千景と柳が仲良くなって淳プロデュースオムライスを食べにきたのだ。

 人見知りの千景が“音無淳”というアイドルを通して、柳と会話が盛り上がっているのは少し気恥ずかしいらしい。

 オムライスをもぐもぐ食べながら恥じらう淳を見ながら『アイドル≠料理』だと思う魁星。

 

「なんか、淳はさ……神野先輩みたいになりたいって頑張りすぎているように見えるよ」

「ええ? そうかな? いや、まあ、でも俺じゃあ背も足りないし顔も平凡だしモデルになれそうもないからなぁー。目標もミュージカル俳優だから、そんなふうに思わないな。俺よりも魁星は?」

「え?」

「芸能科に入ったけれど、アイドルになりたかったわけじゃないんでしょ? 四月から今までやってきて、今はどう思ってるの?」

 

 淳としては――魁星はコラボユニットの時に日守に引きずられる形で“アイドル”としての才能を開花させたように見える。

 このままアイドルとしてやっていけば、きっとトップクラスのアイドルになれると思う。

 多くの学生セミプロアイドルを見てきた淳がそう思うのだから、卒業後もアイドルを続けてくれたらなぁ、と思ってしまうのだ。

 しかし、少し考えた魁星は「アイドル以外の道も考えてる」と言う。

 

「アイドル以外でどんな職がある?」

「え? うーん……そうだなぁ……先輩たちの卒業後の進路は入った事務所にもよるけど、大きく四種類かな」

「四種類?」

 

 うん、と頷く。

 一つはそのまま卒業。

 一般人に戻り、一般企業や家業、まったく別の職種などに就職する。

 二つ目は事務所所属のアイドルになること。

 これは“アイドル”の寿命も関係してくるので、腰掛けの意味が大きい。

 三つ目は俳優。

 淳は俳優の中でもミュージカル俳優を目指しており、俳優はテレビ俳優、映画俳優、舞台俳優、スタントマンなど多岐に渡る。

 四つ目はその他芸能。

 事務所に所属し、アイドル以外の声優、モデル、もしくはテレビ局などに就職してニュースキャスター、リポーターなどの固いイメージの職業に就く。

 

「声優やモデルかぁ。って言っても俺、声に特徴があるわけでもないし演技に自信もないし」

「演技なら今から学べば?」

「ええ……? 自信ないよ〜。それにキャスターとかリポーターって頭よくないとなれないよね?」

「まあ…………そうだね」

 

 それはなんとも言えない。

 

「そう言って逃げてたらなんにもなれないもんね。演技とか教わってみようかな」

「魁星、陸上部だっけ? 演劇部にも入ってみたら? 兼部は何個でもOKだし」

「え、兼部って何個でもいいの?」

「うん。後藤先輩みたいにいくつかの部活でお手伝いを頼まれてるのもありだけど、兼部するとその分忙しいけれど色々教わることもあるし――」

 

 よく考えると部活の部長たちも三年生から二年生へ引き継ぎされている。

 淳は貴族部。貴族部部長は綾城。

 綾城の後は二年生の桃花鳥咲良(ときさくら)が部長を引き継ぐことだろう。

 桃花鳥(とき)は『花鳥風月』という和風ユニットのリーダーを務めている。

 和風アイドルは数が少ない。

 鶴城一晴により『和風でも人気が得られる』とわかって以降、結成されたのが中堅グループ『花鳥風月』。

 三代目リーダーになるのが二年B組の桃花鳥(とき)

 白髪に毛先が桃色、切り揃えられた短い髪と立ち居振る舞いが冷水のような青年。

 滅多に笑みを浮かべない珍しいタイプのアイドル。

 

(そうだよね……部活の方も色々変化があるんだ。俺も新しいことに挑戦していかないと、だめだよね。うーん……なにをするべきか)

 

 悩む淳と魁星。

 その横に周も近づいてくる。

 

「自分も演技は気になっていたんです。兼部がいいのでしたら、自分も演劇部に入ってみようかと思うのですが」

「いいと思う。俺はちょっと忙しくて厳しいのだけれど」

 

 と、言うと二人は沈黙。

 淳は二人の沈黙の意味を察して「あ、来年からは細かな表現やダンスの繊細さ、グループの運営中心になるから、体力作りはあんまりしないよ」と言う。

 それはそれで大変なのだが、二人は「や、やるか」とアイコンタクト。

 

「演技初心者なので、淳には色々教えてほしいです」

「うん、もちろん! 二人が演技に興味を持ってくれたの嬉しい」

 

 まあ、淳は兼部は無理そうなのだけれど。

 来年から第一部隊。

 団長引き継ぎのため、宇月のサポートをしなければならない。

 後進の育成もしなければならないので、演劇部を兼部できる気がしないのだ。

 

「……ちなみにさぁ」

「ん?」

「淳はマジで……そのーーー……御上と付き合ったりは、しないんだよね?」

「は?」

 

 なにを言い出すのか。

 魁星の少し拗ねた顔に本気で首を傾げる。

 しかし、付き合うというのはつまり「恋人って意味?」と聞き返す。

 周は呆れた顔だが、魁星は真顔。

 

「俺一人で決めることじゃないしね?」

「そ、それはそうかもしれないけど〜」

「千景くんはBL営業できるか不安って言ってるけど、十分できてるしね〜。そこから進むかどうかはわからないよ」

「あのさ!」

「うん?」

「BL営業だってやつさ! 別に他のグループ、別のクラスの御上じゃなくてもよくない?」

「……うん。うん?」

 

 魁星がなにを言いたいのかわからない。

 周が深々溜息を吐いて「同じBL営業なら、魁星とでもいいのでは、という意味らしいですよ」と教えてくれた。

 なるほど〜、と淳も考え込む。

 

「魁星が嫌でないなら俺は構わないけど」

「え! い、いいの!?」

「いいよ。絡み喜ぶ人は多いし。じゃあ、来年からはちょっとずつ絡み増やしていこうか」

「う、うん!」

 

 結構な食いつき。

 BL営業には抵抗がありそうだから、持ちかけるつもりはなかったのだが――。

 

(本人にその気があるのならいいのかな)

 

 なお、魁星はやる気満々。

 その魁星を、周が憐れみの目で眺めていた。



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