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聖魔勇祭(1)


 翌日、十二月三十日。『聖魔勇祭』本番。 

 開演すると『SAMURAI(サムライ)』からライブが始まる。

 一年生のみのグループである『SAMURAI(サムライ)』は定期ライブでもあまり集客ができなかったが、コラボユニット以来認知が広がり、IG夏の陣で増えつつあったファンの目に留まるようになってきた。

 それにより、今回の『聖魔勇祭』ではトップバッターを務める。

 

「わー! 芽黒くーん!」

「白戸くんー!」

「山原くーん!」

 

 と、客席の端の方でサイリウムを振る淳と智子と千景。

 その横で虚無の表情で三人を見守る魁星と周。

 トップ4のコラボユニット前――主催である星光騎士団、魔王軍、勇士隊がライブをするが、それも午後十七時くらいからなのでそれまでは自由時間。

 ドルオタ組は智子と淳の両親と合流して、盛大に満喫することにした。

 

「『SAMURAI(サムライ)』もずいぶん堂々とライブするようになったわねぇ。ああ、こういうのを見るのがいいのよねぇ、学生セミプロを見守るのって」

「うんうん! まだ持ち歌が一つしかないけれど、『SAMURAI(サムライ)』の子たちも来年はもっと成長するんだろうなぁ。淳、芽黒くんにMV録る時はお父さんとお母さんにまず声かけてねって言っておいてね」

「うん、わかった! 伝えておくね」

「「……………………」」

 

 ものすごく微妙な顔になる魁星と周。

 先輩たちが淳の両親の撮影編集の腕がよすぎて、金額との差がすごすぎて他の業者に依頼しづらくなった、という話を思い出してしまった。

 音無夫妻の所属する映像会社は世界的にも安定価格&高品質で、超有名。

 しかし、定時厳守の超絶ホワイトであるため、受注は完全予約制。

 月に一度だけオークション形式での特別枠を設置して募集を行い、それをボーナスとして支給される。

 やっていいのか、それ、と思ったが基本的にそれをやるのは他社員で、一番人気の淳の両親は金に物を言わせて映像を作るのが嫌なのと、金に物を言わせた創作自体本領を発揮できないのでその枠の制作者にはならない。

 しかし、腕前は世界から認められる超一流。

 以前星光騎士団のMVを“趣味で”受注した際は、その曲だけ再生回数が異常な伸びを記録して、二、三年たちが「やばいやばいやばい」と慌てふためいたほど。

 そして「申し訳ないから二度もあの金額で依頼できないよぉ」と拒否。

 それを知っているので音無家は多分、ズレている。

 

「それはそうと、御上くんが淳と仲良くしてくれているなんて嬉しいなぁ。御上くんの作詞作曲した楽曲を、我々にMV作製させてね」

「え、そ、そんな……! も、申し訳ないです……そんな……」 

「御上様の新規グッズって来年にならないと発売されないんですよね? あー! 早く欲しい〜! SBO内のグッズは全部買ったんですけど、リアルのグッズは後世に残せるからな〜。あ、御上様もSBOやってるんですよね? 智子ともいつか一狩り行きましょうね!」

「え、え、え、え、っ」

 

 智子に接近されて、慌てて距離を取る千景。

 当然のように女子が苦手。

 淳が内心で『顔は可愛いけど、中身はゴリラなんだよなぁ』と思っているとは知らずに。

 

「それに、まさかうちの淳が『トップ4』に選ばれるなんてねぇ。お母さん聞いた時は腰抜かすかと思ったわ」

「俺が一番驚いてる」

「えー、智子はそう思わなーい。お兄ちゃんはアイドルを愛する世界一立派なアイドルになるって思ってたしー」

「智子……」

 

 と、兄の腕にしがみつく。

 なんて健気な妹さん……と、魁星たちが少し羨ましく思いながら淳の顔を見ると、青い。

 なんかめちゃくちゃ緊張感溢れる青い顔をしている。

 兄が溺愛の妹に抱きつかれてそんな顔する? っていうほどに迫真。

 そして智子の中身がゴリラなのを思い出して、察する同期。

 中身がゴリラと知らない千景だけが「どうしたんですか、音無くん……?」と困惑。

 

「あ! 先輩ー!」

「え、ん? ……柳くん……?」

 

 緊張感で心臓がドッドッドッと早鐘のようになっている時、後ろからフランクフルトを持った柳響(やなぎひびき)が手を振りながら近づいてくる。

 一応有名人なので、マスクと帽子、かなり大きめのダウンジャケットを纏っていた。

 駆け寄ってきた柳は「来ちゃいました」と声をかけて参戦。

 

「あ、初めまして。柳響と申します」

「あ、花房魁星と申します」

「狗央周と申します」

「み、御上千景と申します」

 

 東雲学院芸能科アイドル、全員丁寧。

 

「智子でーす。お兄ちゃんの実妹です!」

「音無の父です」

「母です」 

 

 特に必要のない音無家のご挨拶。

 多分よくわかっていない。

 

「ええ、えええ? お、音無先輩のご両親と妹さん……!? そんな……こんな急に……まだ心の準備ができてないです……!」

「なにが……?」

「あ、なんでもないです……!」

 

 たまにわからないことを言うな、この子。

 首を傾げながら様子を見ていたけれど、くるとは言っていたのでまあいいか、と思い直す。

 

「観に来てくれて嬉しい。ステージ頑張りますね」

「は、はい! 頑張ってください! あ、新規グッズも買いました!」

「え、嘘。はやーい。ありがとうございます」

「あ、あの、あの……こちらの、柳さんは……音無くんのファンの方なのですか……?」

「あ、生徒です。演技指導と家庭教師を少々」

「いえ! ファンです!」

 

 え、と淳が胸を張る柳を見る。

 それに対して千景が瞳を輝かせた。

 これは同じドルオタを見つけた時の反応。

 

「あ、あの、あの、あの、で、では、音無くんプロデュースのオムライスは食べられましたか……? あの、入り口の屋台の一画に星光騎士団メンバーが地元の飲食店とコラボして開発したがメニューが販売されているんですよ……! 音無くんかプロデュースしたオムライス、卵がふわふわで美味しかったです……!」

「え! それ知らなかったです! 今から買いに行きます!」

「ぜひぜひ!」

 

 話が盛り上がってきた。



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