一年生と三年生(2)
「ハァハァ……朝科先輩と綾城先輩と大久保先輩が並んでるだけで美しいです……!」
「俺は?」
「ひっ! も、もちろん石動先輩も、顔は素敵です……!」
「顔はねぇ?」
「ひ、ひいぃ! すみません、すみません……!」
むにむに、ほっぺをこねられて泣きながら謝る千景。
アイドル大好きのドルオタでも、千景は石動にいじられるのが苦手らしい。
確かにどう見てもいじめっ子属性の石動といじめられっ子の千景はある意味で相性がよすぎる。
「石動くんが一年生をそんなに構うの初めて見た」
「うっさい」
大久保が興味深そうに首を傾げていると、石動が千景の頬を伸ばしながら睨みつけた。
それをものともしない大久保。
三年生のコラボユニットもなかなかクセが強かった模様。
「来たのか、一年」
「あ、茅原先輩」
ステージからリハーサルを終わらせて降りてきたのは二年生のコラボユニット。
二年生のコラボユニットは黒基調の生地にそれぞれのイメージカラー、後藤が白、茅原が黒、蓮名が青、夏山が赤のペリースを三年生とは逆の肩につけている。
「「カッコいい〜〜〜〜」」
ドルオタ組、目がキラキラ。
朝科が淳の様子に少し拗ねた顔を茅原に向けている。
そんな魔王の様子に茅原が絶妙に嫌そうな表情。
「石動先輩! 聞いてください!」
「なに、先生に爆発ダメって言われた?」
「え! そうなんです! なんでわかったんですか!?」
「なんでわかったって……まあ。うん。……先生にダメって言われたらダメだぞ。コラボユニットは勇士隊のメンバーだけじゃないんだから、先生がダメって言ったらダメだ」
「えーーーー」
超不満気。
が、茅原と夏山が「当たり前だろうが!」と怒鳴る。
後藤も箱の上に置いておいたSDを抱き上げ、首を横に振った。
野外ステージは大きく、勇士隊が爆発を伴うライブを行う時は必ずここを使用する。
だが、勇士隊は爆発慣れしている、いわゆる『彼らは特殊な訓練を受けています』というタイプのアイドル。
不慣れどころか、経験のない他のコラボユニットメンバーは絶対に焼ける。
「えーじゃないよ。勇士隊には被服部の高埜がいるし、焦げた衣装は修繕したり新しく作ることも難しいわけじゃないけどさぁ。予算は潤沢とはいえ爆薬と衣装代を三割と圧迫している。引き継ぎの時に口を酸っぱくして言ったよなぁ? 来年は俺や高埜がいないんだから、衣装と予算の管理ちゃんとしなきゃダメだぞって」
「う……っ!」
「苗村はお前よりも成績悪いんだから、お前がリーダーとしてしっかりグループの予算や備品、施設の管理を……」
「わ、わかってますぅ! ここでお説教はやめてくださいよぉー」
グリグリと頭に拳を押しつけられる蓮名。
グループの内輪揉めすぎるが、石動が卒業したあとのことを思うと心配すぎる。
「千景、成績どうだっけ?」
「へあ?」
「千景くん学年三位ですよ」
「え? マジで? お前そんなに成績上位だったの?」
「え、あ、え、あ、い、いいえ、そんな、あの……中学の勉強の延長線でしたから、別にそんなに難しくは……」
淳と同じこと言ってる、と遠い目になる魁星。
そう言ってその成績を取れる方がおかしい。
なぜなら中学では習わなかった“アイドル学”という学科が追加されているのだ。
勉強の方法を知っている周のような秀才でなければ、あんな成績普通は取れない。
「じゃあグループの経理、千景がやってよ。蓮名と苗村はバカだし後先考えないバカだし勉強もできないバカだから、予算管理とか絶対無理。日守と協力してグループの予算を守れ」
「え、えええ!?」
「い、石動先輩、バカ連呼はひどいっす!」
「うるさい、バカ!」
盛大に蓮名の脳天を殴る石動。
怖い。
三大大手グループの中で一番体育会系だった勇士隊。
ただ、淳や綾城、朝科の見方は違う。
上手いこと千景を“グループの指針”を預ける位置に据えた。
気弱な千景のサポートに、今いる一年生メンバーではなく気の強く新参の日守をつけて。
不安要素の多い蓮名と苗村を、一年生――来年の二年生にサポートをさせつつ反面教師で育てるつもりなのだろう。
綾城のちらり、とした視線に淳と後藤が僅かに頷く。
勇士隊は――来年間違いなく強い。
「一年生! 来てるのならリハーサルしろ!」
「あ、はい! じゃあ行こうか」
「おう!」
「了解です」
「は、はい……!」
本番は一年生が先陣を切る。
流れとしては野外大型ステージで東雲学院芸能科アイドルが十七時までゆっくりとライブを行う。
そのあと、一年生の『トップ4』、二年生の『トップ4』、メインとなる三年生の『トップ4』が一曲ずつ、コラボユニット用の曲を歌う。
例年であれば過去の『トップ4』が歌った曲のアレンジ曲を歌うが、今年は雛森が用意した曲がある。
雛森が、それぞれの『トップ4』用に書き下ろした曲。
だいぶ趣味が入っているとわかる仕上がりで、主に二年の茅原が渋い顔をしていた。
なかなかに千景好みの“アイドルアイドル”した曲で、二年生たちは夏山以外みんな嫌そうな顔をしたとかしないとか。
(俺たちは割と平気だけどなー)
一年生の曲もかなり“アイドルアイドル”していたけれど、二年生組のあの渋い顔は面白くて忘れられない。
「〜〜〜♪」
しかし、ドルオタは毎年この日がとても楽しみ。
演者側になると、それはそれでやはり苦労はするけれど――その苦労の上でお客さんに笑顔を届けるのがアイドル。
その憧れのアイドルに、淳はなったのだから。






