『聖魔勇祭』前日
『聖魔勇祭』は星光騎士団、魔王軍、勇士隊が主催となって開催される。
必ず毎年十二月三十日に開催され、十二月の定期ライブはお休み。
開始時間も午後十三時開演、午後十八時閉幕と全体的に遅めの時間。
一年の集大成とも呼べる三大大手グループ主催の『聖魔勇祭』は、東雲学院芸能科所属アイドルグループ一つ一つがじっくりとステージをこなしていく。
使用されるステージは野外大型ステージのみで、雨天は講堂ステージ。
ともかく一つのステージで、すべてのグループが一曲だけ、たっぷりライブができる。
「で、星光騎士団が商店街の人と開発したメニューが、露店に並ぶんですね」
「そうそう。一応他にも料理に自信があるグループが企画書とお金出してコラボして、数店舗で出る。で、企画者の名前のついたスイーツなり料理なりの売り上げも来年度の校内売り上げに加算されるの。今回星光騎士団からは珀先輩、ひま先輩、僕、ナッシー、クオーが出品してるから、これらの売り上げ次第では来年の前期ランキングも余裕が生まれるよね〜」
と、いう話をランニングマシーンで二時間走り続けている魁星は横で聞いて、涙を浮かべる。
その横で同じ時間走っている周は、料理研究部として開発に協力できたので、と少し誇らしげ。
明日は『聖魔勇祭』本番。
だというのに、体力作りのために朝登校してからずっと走らされている魁星と周。
午後はコラボユニットのリハーサル。
「それじゃあ、僕先にリハーサルに行くね。石動くんと大久保くん、いまいち合わせが上手くいってないから詰めないと……」
「あの二人普通に相性悪いもんなぁ。気ぃつけて行ってき」
「うん、じゃあね」
と、トレーニングルームを出ていく綾城。
花崗が軽いランニングで打ち切って、ソファーでタブレットやら書類やらを見せ合う宇月と淳に近づく。
そこに後藤が入ってきた。
「音無くん、衣装」
「あ! ありがとうございます!」
「遅くなってごめんね」
SDを抱えた後藤が、おずおずと紙袋を差し出してくる。
その中に入っているのは、明日の一年生コラボユニット用衣装。
三年生、二年生のコラボユニット用衣装も、服飾部が作った。
装飾も多く、高埜と後藤こだわりのデザイン。
「わあー! かっこいい〜! それに動きやすそう。あ、意外と生地薄いんですね」
「うん、冬だけどステージの上はライトで暑いから……」
「ありがとうございます! わあ〜………………千景くんが着たら腰のラインとかくっきりわかって絶対似合うだろうなぁ〜♪」
後藤、硬直。
宇月、書類で口元を隠す。
「あ、後藤先輩はBL営業苦手ですっけ」
「…………(こくり)」
「わぁ〜、ごめんなさい。気をつけますね」
涙目で震える後藤に申し訳なくなる。
この様子を見るに、宇月が「BL興味ありません」と装っているのはやはり後藤への配慮なのだろう。
最近宇月が腐男子とわかって気が緩んでいた。
(苦手な人の方が多いことだし、気を引き締めて気をつけないとね)
と、腕組みしながら気合いを入れ直す。
綾城は「事務所の事務員さんが腐女子だからBL営業関係はまったく抵抗ないよ」と笑顔で言い放っていたけれど、花崗も「わしもあんまり得意やないな〜」とおっしゃる。
改めて「気をつけます」と反省。
「まあ、うちの学校男しかおらんからたまーに“そういう話”はあるみたいやけど」
「「え!」」
アイドル同士の本物!? と、食いつく淳と、ランニングマシーンを走りながら振り返る魁星。
しかし花崗も「まあ、その辺は個人の自由やし……よう知らんけど」と肩を竦める。
「ええ……詳しく聞いてみたいですけど……」
「わしが聞いたんはもう卒業した先輩の話やし、ほんまに詳しく知らんよ。悪いけど」
「卒業生!? よ、余計に詳しく知りたいんですけど!?」
「一番“ガチ”って言われてたんは秋庭先輩が男拾って同棲しとるっていう話やな~。わしも珀ちゃんに話を聞いただけやけど、めっちゃイケメンだったらしいで。なんか空腹で行き倒れてたところを寮暮らしだった秋庭先輩が拾って~って話。学生寮やったから、その兄ちゃん養うために寮から出て行ったとかなんとか」
「「えええ~~~」」
もっと詳しく、と詰め寄りそうになるが「わしもさすがに卒業生のことはわからんて~」と言われてしまう。
残念。
「秋庭先輩って十二代目魔王だよね~。神野先輩と同系統のクールビューティー。今なにやってるんだろ」
「秋庭廉先輩は今お天気キャスターになってますよ。卒業後モデルと俳優業も齧りながら大学に通って天気予報士の資格を取得し四方峰テレビ局所属のクールなお天気お兄さんとして脅威の89%的中率を誇る笑顔が最後に見られた日はいいことあるかも☆っていうジンクスもあるよ!」
「へ~、そうなんだ。……めっちゃ頭いいんだね。天気予報士って難易度すっごく高い国家資格なんでしょ?」
「神野先輩が勉強もできる人だったので、上位二人で学力で殴り合っていた感じらしいですよ」
「神野先輩ヤバァ……」
淳は周に学力で勝てる気はしないが、神野と秋葉は均衡していた。
神野にとって学力で殴り合える相手が秋庭。
アイドルとしてのライバルは鶴城一晴。
そんな学生生活を送っていた二人は相当に頭もいい。
神野栄治に至っては今も現役アイドルとして再デビューまでしているし。
「気にしたことなかったけれど秋庭先輩、朝のニュース番組に出てるんだぁ? 今度見てみようかな~」
「ぜひぜひ! すっごく美人なんで!」
「ナッシーって美人系好きだよねぇ」
「はい!」
「へえ~、そうなんや……いや、そういえばそんな話しとったね。なんやっけ、最近淳ちゃんが仲ようしとる勇士隊の子、元々タイプって言うとったもんね」
「はい!」
「へ~~~。え、ガチなやつなん……?」
「普通に人間として、ドルオタ友として大好きですけど……」
そっか……と、花崗と後藤、割と真面目に安堵した表情。
もしかしてガチで疑われてたのだろうか?
「俺と千景くんってそんなにそう見えますか? まだBL営業の話し、千景くんにしてないんですけど」
「いやいや、SNSで盛り上がっとるよ? コラボユニットの練習風景SNSにあげるといつも隣にいるとかで」
「あ~~~、そうですね~。一応コラボユニットリーダー経験者なので、二人で周にも教えながら練習をしていました」
「「あ……そういう流れ……」」
なんだと思われてたんだ。






