冬の陣のあとのお見舞い
十一月の定期ライブも終わり、今年最後のIG冬の陣。
参加グループ数は夏よりも多く、しかし初日に再び『Blossom』が綾城と甘夏のコンビ曲で一気に集客。
他の追随を許さない勢いを保ったまま、夏と冬のIGを制する結果となった。
来年の夏の陣を制すれば、殿堂入りが決定する人気ぶり。
星光騎士団は三位。
準優勝は魔王軍が勝ち取った。
これにより東雲学院芸能科の“学生セミプロ”の地位と知名度は格段に上昇。
「やっぱ正装魔王軍は強かったわ〜」
「エッッッッすぎでしたね」
「その感想正解なん?」
「でもでも〜、珀先輩のプログループ、殿堂入りに大手ですよね! すごいです〜!」
「本当だよねぇ。やっぱり新曲を決勝戦に持ってきた、神野先輩の采配が活きたんだと思う」
「で、いつ退院できるん?」
「…………ら、来週の月曜日には……?」
思い切り目を背ける綾城。
冬の陣も終わってすぐ、無事過労で入院した。
今回は当日ではなく、翌日に倒れたのでセーフ、と本人は言っているが結局過労で一週間入院になったので全然セーフではない。
「コ、コラボユニットの練習もあるから早く退院したいんですって言ったんだけど」
「「「は?」」」
「……うっ……朝科くんと石動くんに叱られたからちゃんと来週まで休みます……」
「そうしてくれや」
一応、四方峰町にある月科総合病院の個室で点滴治療を受けている。
淳も夏の陣の時と同じく三日目はハイテンションになり、三日ほど入院したけれど綾城の過労の方が重い。
幸い『聖魔勇祭』は十二月末――三十日なので、綾城の退院は間に合う。
そしてテレビやネットのニュースは『Blossom』の二連覇で連日大盛り上がり。
綾城へのインタビュー依頼はあらゆるマスコミからきており、学院も「どうしてもインタビューしたい方は所属事務所へ」とぶん投げる始末。
春日芸能事務所の方からは「音無くんにもインタビュー依頼は来てますけれど、学生なので遮断しておきますね」と言われている。
綾城と淳の差は、来年卒業か、まだ二年間在学するか。
「でも寝てるだけなのは暇なのでSBOでライブでもしようかな」
「おとなしく寝とれー」
「コラボユニットの練習がしたい……」
「わかるけれども」
「VRMMOは脳に負担が大きいから休んでくださいね」
淳含め全員に言われて、しょんぼりとする綾城にさらに「絶対あかんで」と花崗が釘を刺してお見舞いを終了。
メンバー全員で病室から出る。
「おや、音無くんではありませんか」
「え……あ、春日社長……!?」
自動車椅子で近づいてきたのは春日芸能事務所社長の春日彗。
もしかして、綾城のお見舞いだろうか?
「綾城先輩のお見舞いですか?」
「そうですね。定期検診のついでに。……いやぁ、別に二連覇しろとは言ってないんですけど……本当に頑張り屋なので予想以上の成果を出しちゃいましたね、彼ら」
「本当にすごかったです。夏の勢いもあったとは思いますけれど」
「ナッシー、どこかの社長さんなの? この小さい子」
宇月に耳打ちされて、対面では初対面なのだろうと淳が車椅子の彼を星光騎士団のメンバーにご紹介することにした。
「俺と綾城先輩のお世話になっている事務所、春日芸能事務所の社長、春日彗社長です」
「「え」」
「子どもじゃん!? え、うそぉ!?」
宇月、素直に言い放った。
それに対してまったく気にした様子もなく笑顔で「初めまして」と答える。
この人――春日彗は見た目こそ歳の変わらない子どもだが、この年齢で芸能事務所の社長。
しかも、彼がプロデュースしていた『Blossom』はIG二連覇。
“今年のアイドル”と言っても過言ではないアイドルを輩出した、芸能事務所になった。
「綾城先輩のところの社長さんなんだ。えっと宇月美桜といいます」
「花崗ひまりちゃんでーす」
「……」
「花房魁星っす!」
「狗央周です」
「――後藤琥太郎? ……と、狗央周……? 周……もしかして東雲周くん?」
周、天井を見上げる。
名前だけで見抜かれた。
「後藤琥太郎くんは、後藤家の宗家のご子息ですよね」
「…………」
こちらも思い切り顔ごと背ける。
苗字はごくごく一般的なのに、名前でバレるとは。
「そういえば十月の定期ライブ――SBO内で一年生だけのコラボユニットでライブしましたよね」
「え? あ、はい。よくご存知ですね?」
「データを見せていただきました。御上千景くんという子に声がけしたのですが、お返事がないので音無くんの方から相談に乗ってあげてくれませんか?」
「え……?」
SBO内のライブで見かけて、研修生のお誘いを学院へ出したらしいのだが一ヶ月間音沙汰ないらしい。
別に急ぎのお誘いではないのだが、一ヶ月間の無視はなかなかないので意向だけは聞いておきたいとのこと。
「さすが春日社長、お目が高いです!」
「え? はい……え?」
「千景くん、本当に可愛いです! 了解しました、千景くんに聞いておきますね!」
「え……ええ、お願いしますね……? それじゃあ、僕は綾城くんのお見舞いがあるので、失礼します」
「はい! お任せください!」
コラボユニットでも顔を合わせることが増えて、ドルオタトークにも深みが出てきており淳の濃度に付き合える唯一無二の存在になりつつある。
そんな彼もまた、春日芸能事務所に誘われているなんて――!
うっきうっきの淳を見て、魁星がわかりやすくムッとした顔をしていた。






