宇月の隠れ嗜好
「それでは先にIG冬の陣についてです」
と、綾城がタブレットを手にしたまま、ブリーフィングルームのソファーに座りながら話し始める。
その内容はIG冬の陣と、年末の『聖魔勇祭』の話。
星光騎士団は一、二、三年、全学年で『トップ4』に入っている。
入らなかったのはたった二人――。
「なんか……別に気にならないと思ってたけど一年全員『トップ4』に入ってると思うとなんかこうモヤモヤするね」
「わかる」
真顔でジト目のまま睨む花崗と宇月。
花崗はランキング五位。
宇月は六位。
星光騎士団全員“トップ10”以内の時点でやはり別格と言って差し支えない。
花崗も宇月も充分すごいのだが、なんとなくハブられているような気がして拗ねた様子。
あはは、と愛想笑いするしかない一年生。
「今年一年間、本当に一年生はみんな頑張ったものね。冬の陣も頑張ってね」
「「「え……あ、ハイ……」」」
綾城の笑顔の「頑張ってね」に一瞬なにを言われているのかわからなかったが、夏の陣の時の――あの過酷な三日間を思い出した魁星と周が硬直する。
にこり、と微笑む綾城。
「冬の陣は“シード枠”なんですよね」
「そう。勇士隊もね」
「魔王軍も予選は余裕で突破してたしぃ、冬だから魔王軍の本領発揮だよねぇ。あいつらの“正装”衣装は全部長袖だもんねぇ〜」
「めっちゃ豪華やもんなぁ、魔王軍の“冬服”」
「わかります。しっかり着込んでいるのに、あちこちにスリットとか丈がちょっと足りなかったり、ボタンを全部閉めてないからお臍とか鎖骨とかチラチラ見えてめちゃくちゃえっちですよね。俺、檜野先輩がノースリーブなのに袖が長い上着を絶妙に着崩して脇の下が見える『World炎上』のMVがあまりにもえっちすぎて『これは放送していいんですか』って思いましたもん。あれは新たな扉が開きますよね。『Adam』も朝科先輩の臍チラと光沢のあるパンツのせいですっごい性的なダンスがアレすぎて、その衣装でまったく着崩してない状態の檜野先輩との絡みは腐女子が生モノ同人誌を出しちゃうのも仕方ないと思うんですよね。絶対真似できない、二人にしか出せないエロスといいますか……。いや、でも『禁断の林檎』の雛森先輩も――」
「淳ちゃん、淳ちゃん。……え? 魔王軍のやつら、同人誌になっとるん……?」
「あ……」
しまった、と口を覆う。
生モノは本人にバレてしまう事態は禁忌。
本人に生モノ活動を知らせるなんて言語道断。
推しへの冒涜。
ちなみに星光騎士団の生モノだと『花崗×綾城』と『後藤×宇月』と『花崗×宇月』が王道。
もちろん淳は読んだことはないけれど。
その妄想を垂れ流すファン仲間はいるので。
すると花崗の横にいた宇月がシュッと消えた。
ビクッと肩を跳ねさせる綾城と花崗と後藤。
消えた宇月が淳の真横に現れて、小声で「ナッシーこれ、なんて読む?」とスマホを見せてきた。
他メンバーに背を向けつつ、スマホに書いてある文字を覗き込む。
『攻めの反対は?』
ピーン、と察した。
「“受け”ですね」
「……茅原と麻野なら?」
「うーん……俺は茅原先輩が左ですね……」
「わかる〜〜〜〜〜〜」
突然の握手。
自体がさっぱり飲み込めない他のメンバー。
というか「なんかコソコソしてるな?」と顔を見合わせる。
「ねぇねぇ、ナッシー最近勇士隊の一年生の黒髪の子と仲良しじゃん。アレはそういう目で見ていいの?」
とってもによによの宇月。
勇士隊の黒髪というと千景のことだろう。
ふと、宇月が“そっち系”とわかってしまったので気になることが出てきた。
「宇月先輩的にどっちに見えます? 傾向的に背の高い方が左、低い方が右になりがちですよね、ウチの学校」
「そぉそぉ。えー……でもなんかあの子右っぽいよね。ナッシーは僕と背丈変わらないけど、あの子170センチくらいあるのに」
「めっちゃ可愛いですよ。見た目あんなに美人系なのに、褒めると真っ赤になってすぐ涙目になっちゃって……ギャップ萌ってこういうことを言うのか〜って実感します」
「グループが違うのもクラスが別なのも妄想掻き立てる〜。いいと思う。僕は応援するよ」
「じゃあ、千景くんに許可をもらって積極的にやっていこうと思います!」
本人不在で不穏な売り出し方がほぼ決定してしまった。
「…………。二人とも、そろそろミーティングに戻ってきてくれていい?」
「「はーい」」
綾城が少し心配そうに声をかける。
笑顔で振り返って答える淳と宇月。
いや、しかし宇月が立派な“腐男子”だったのは驚いた。
それで後藤一家から“嫁候補”扱いされているのも吝かではない顔をしていたのか、と納得。
「では話を戻すけど、来月、十二月の五日から七日はIG冬の陣があります。夏の陣の時と同じホテルに宿泊予定です。楽曲についてはリストアップしているので、確認しておいてください。一日は新曲を入れる予定です。雛森くんが提供してくれた曲のうちの一曲ですね。すでに歌詞は頭に入っていると思うので、振付の練習を開始します。あまり難しくはないので、各自練習よろしくお願いします。また今回も僕は『Blossom』と同時進行なので迷惑をかけてしまうかもしれないのですが、どうぞよろしくお願いします」
今回も二足の草鞋か。
花崗がわかりやすく眉を寄せたので、綾城は「無理はしないよ」とフォローを入れる。
前回入院しているのだから、あまり説得力がない。
「珀ちゃんもやけど、淳ちゃんも無理したらあかんよ。淳ちゃんも過労で入院しとるんやから」
「大丈夫です。夏の陣の反省を活かして体力と持久力中心にトレーニングしました! 冬の陣はBlossomと魔王軍と勇士隊のライブ観戦もするつもりですから!」
「うーん、ブレへんねー! そうやないんやけどー」
魔王軍の“正装”ライブはマジでかっこいいので、と拳を握る淳に対して、能面のようになる魁星と周。
ドルオタはどうあがいてもドルオタ。






