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”ご褒美”(3)


 神野と楽しそうに流行り曲を歌い上げ、客席に手を振りながらステージを去っていく、嵐のような男――憩星矢。

 彼が立ち去ってから泣き止んだ日守と千景の肩を、コラボユニットの面々が撫でて宥める。

 残った凛咲と神野も「音無、泣かせすぎだよ」とニヨニヨ笑いながら言う。

 淳だってこんなに泣くと思わなかったのだから仕方ない。

 ギリ、日守は泣かないとも思っていたし。

 

「なんか、ごめんね。本当に。喜んでもらいたかったんだけど」 

「ちちちちが、違います……! う、嬉しかったです! あの、あの、せ、星矢さんが元気そうで……! ま、また会えるなんて、お、思っていませんでしたし……!」

「マジでもう本当……直接話す日が来るとか思わなかったし」

 

 日守、また顔を両手で覆ってしまう。

 事情を知らない勢、日守がこんなふうになるとは思わず淳よりも困惑。

 

「恨まれててもおかしくないのに……」

 

 憩星矢は日守姉のことを、恨むでも許さないでもなく、純粋に日守が自分の後輩になったことを喜ぶだけ喜んで帰っていった。

 さっぱりとした人なのだ、憩星矢というアイドルは。

 また、非常に明るく“アイドル然”としているアイドルの一人。

 同級生の、同じ三大大手グループリーダーがやや暗めというか、冷静な性格の“神野栄治”と“秋庭廉”だったので、余計に彼の明るい性格が目立っていたと思う。

 元気を分けてくれるタイプのアイドル――それが憩星矢。

 この人の笑顔に救われた、という人も多い。

 千景と日守の姉は、特にそういうファンだった。

 なので日守が『アイドルになりたい』と言った時、理想に掲げたアイドルはきっと憩星矢だろう。

 

「お、お元気そうで……アイドルの星矢さんをまた目の前で見られて……今日死んでも悔いはないです……」

「死なないでね?」

 

 グスグスとまた泣き出しながらとんでもないことを言い出す千景に、割とガチ目にツッコミを入れる淳。

 そりゃあ、淳も神野が『Blossom(ブロッサム)』として再びアイドルとしてステージに立った時、同じことを思ったけれど。

 なんなら失神したけれども。

 

「しかも星矢さんのグッズが再販されるかもしれないんですよね……!? 買う、買います……! 全財産出します〜!」

「ガチ勢がすぎない? 憩、アイツこんな重度のファンいたの? ヤバ……」

「え? 俺も許されるのなら神野様のグッズ全部揃えたい派です。神野様の現役時代のグッズ再販されるんですよね? 買います」

「う、うわ……ガチ勢怖ぁ……。わざわざ俺の養分になる必要ないんだけど」

「買います」

「「ガチ勢怖ぁ……」」

 

 ついに凛咲にまで怖がられるガチ勢。

 

「あ――あの、お、お、音無くん……」

「うん?」

 

 袖をくいくいと引っ張られ、振り返る。

 千景が未だかつてないくらいに“生きている”顔をしていた。

 憩との再会は、それほど彼を喜ばせたらしい。

 

「星矢さんに会わせてくれて、ありがとうございます……あの、こ、神野様も……」

「なんで様づけ? 俺、後輩に様づけされて呼ばれて喜ぶ趣味ないんだけど? 普通に先輩呼びでいいよ? あ、なんなら“お兄ちゃん”でもいいし」

「コーノって後輩に対してそういうとこあるよなぁ……」

「だって一晴ばっかり“お兄ちゃん”って呼ばれるのずるくない? 不公平だよね。まあ、アイツ普通に長男だから当たり前なんだけどさぁ」

「おれも先生よりお兄ちゃんがいいなぁ」

「は? いや、アンタはダメでしょ。倫理的に」

「倫理レベルで?」

 

 凛咲は先生なので。

 確かに生徒に「お兄ちゃん」呼び強要は怖い。

 神野が笑顔で千景に対して「だから俺のことは普通に“先輩”か“お兄ちゃん”でいいよ」と言い放つ。

 困惑の千景。

 全力で首を左右に振る。

 恐れ多すぎて無理ですぅ、と消え入りそうな声でお断りされた。

 

「音無くんも俺のことは普通に“先輩”か“お兄ちゃん”でいいからね。事務所も一応同じだし」

「はい!? は!? は!? なに……え? は!? いやいや!? え!? は!? おに……は!?」

「そんなに聞き返す? 別に変なこと言ってないよね、俺」

「無理無理無理無理無理……なに言ってるんですか? 神野栄治ファンに殺されますが?」

 

 主に妹とか智子とか妹とかに。

 

「俺も君のことは普通にジーくんって呼ぶし」

「ジ……え」

「淳くんだから最初の一文字のジ、でジーくん。嫌?」

「嫌なことありませんけど……え!?」

 

 神野栄治にあだ名つけられた。

 神野栄治、この人気に入った後輩のことは割と変な為あだ名で呼ぶ。

 その変なあだ名つけて呼ぶのは星光騎士団の謎の文化となっている。

 その気は宇月が主に引き継がれているのだが、神野は綾城のことを「はーくん」と呼ぶ程度には普通斜め上の呼び方。

 なお、鶴城と蔵梨のことは下の名前で呼び捨て。

 

「夢……?」

「現実だよ。ゲームの中だけど」

 

 魁星のツッコミ。

 ガタガタ震え始めるドルオタ。

 

「え……あ……う……す、好きです!」

「え……ああ、うん。ありがとう」

 

 動揺しすぎて謎の告白をしてしまうドルオタ。

 完全な限界オタクが並ぶ姿に客席もほのぼのとした見守る空気。

 

「ほらほら、君たちコラボユニットからもお知らせがあるんでしょ。いつまでも俺に構ってないで、最後の宣伝しちゃいなよ」

「は、はい!」

「え? コラボユニット、なんかお知らせあるの?」

 

 魁星が首を傾げる。

 淳がこほん、と自分の状態をニュートラルに戻す。

 

「えっと、はい! そうなんです! コラボユニット『Stars born(スターズ・ボーン)』からお知らせです! 俺たちが今着ている『Stars born(スターズ・ボーン)』専用衣装が、明日、十一月一日から十一月三十日まで東雲学院芸能科公式ショップにて、アバター衣装として配布されます! 衣装のデザインは星光騎士団第一部隊の後藤琥太郎先輩で、後藤先輩から許可をいただいております! 一ヶ月限定配布、十二月からは有償販売となるので無料配布のこの機会にぜひぜひ、東雲学院公式ショップに足を運んでゲットしてくださいねー!」

「「「おおおおおおお〜!」」」



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