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『下剋上』結果発表!


 ついついドルオタトークで時間を消費してしまった。

 にゃは、と二人で顔を見合わせてから、淳は客席の方を一瞬で見渡す。

 誰も不快そうな顔をしていないのでセーフ。

 むしろ千景がドルオタなのがお客さんに知られ始めている。

 

(千景くんはアイドルが大好きな、素敵なアイドルなんだって知ってほしい)

 

 そう願いつつマイクを手に持ち直して「日守くんの言う通り、そろそろ投票時間の終了です」と告げる。

 モニターがパッと光り、『日守風雅 対 御上千景』の文字が浮かぶ。

 

「投票終了でーす! 結果は現在集計中ですね。あ、ちなみに今回は負けてもセンブリ茶はないですよ〜」

「当たり前だ! 何回も飲むもんじゃねぇ、あんなもん!」

「そ、そんなに苦いんですか……?」

「苦いけど俺は美味しいと思うんですけどね」

「あんなの人の飲むもんじゃない!」

「こ、今度ぼくも、飲んでみたい、です」

「じゃあ薄めて飲みやすくしてあげるね」

「なんだよその差!」

 

 なんて漫才じみたことをしている時間も惜しいので、センブリ茶の苦味を思い出している日守をスルーしつつ「それではせっかくなので集計が終わるまで、館内のライブについてご案内しましょう」と冊子を取り出す。

 これは定期ライブ実行委員会で配られた、本日分の決まっている分のタイムテーブル。

 空いた時間はステージを自由に飛び込みで使用してよいものとなっている。

 もちろん早い者勝ちだけれど。

 

「こちらの野外大型ステージは十四時半から、二年生グループ『Color(カラー)』の単独ライブが予定されております。同じく十四時半から体育館ステージでは三年生、二年生グループ『SWEETS(スイーツ)』のライブが予定されています。十五時の講堂ステージでは、三大大手グループの一角、『魔王軍・西軍』がユニットライブを開催。同時刻、野外第三ステージにて同じく『魔王軍・東軍』がユニットライブを開催予定です。これ以降のステージのご案内については、『イースト・ホーム』または、本日のパンフレットをご確認ください。改めまして、先程一年生コラボユニット『Stars born(スターズ・ボーン)』のグッズは本日限定販売となっており、すでにハンドタオル、サイリウム、ステッカーは完売しているとのことです。グループロゴ缶バッチも残りわずかとのことですので、ご希望の方はお早めにお買い求めください。また、同じく物販ベースには『Stars born(スターズ・ボーン)』参加生徒のオリジナル公式グッズも販売しております。生徒の公式グッズは年末の『聖魔勇祭』コラボユニット『トップ4』選出ランキングに反映されますので、応援したいアイドルがいたらグッズを買って応援してあげてくださいね〜」

「「…………」」

 

 日守と千景からの視線が「めっちゃ喋るな、コイツ」と「すごい〜……」という別の意味のもので面白い。

 淳の呼びかけに、客席からは「え、まじ?」「そうなんだ」「物販寄ってく?」とちらほら声が聞こえる。

 新規のお客さんにもしっかり認知していくのが、必要なのだ。こういうのは。

 

「あ、結果が出る? 了解です! では、皆様! モニターにご注目ください〜!」 

 

『日守風雅 114票 対 152票 御上千景』

 

 表示された結果に客席から声が上がる。

 チラリと日守を見ると、千景に負けたのが悔しかったのと負けても仕方ないという気持ちと、色々ごちゃ混ぜになった複雑な表情。

 どちらにしても、『下剋上』のルールにより、千景の勝利イコール日守風雅の強制移籍である。

 

「千景くん勝利おめでとう〜」

「あ、あ、ありがとう、ございます……ありがとうございます……! まさか皆様に選んでいただける、なんて……あわわわ……」

「わかりますわかります。俺も中立でなければ絶対千景くんに投票してました。純粋に歌が上手すぎる」

 

 と、拳を握る淳に客席からの「わかる〜」という声。

 多分今年の一年で一番歌が上手い。

 顔もいい上、作詞作曲もできて歌も上手いし性格も謙虚で優しいなんて完璧では、とさらに淳の恒例化しつつある千景アゲが始まり、千景が「やめてくださいぃ〜〜〜」と半泣きになるので会場もほっこり。

 日守がますます不快そうに表情を歪ませるので、見兼ねた石動が再びステージに飛び乗ってくる。

 

「はいはーい。うちの作曲家アイドルを口説いてんじゃないよ、新人騎士」

「えっ!? すみません!?」

「――と、まあ、そういうわけで、朝科く〜ん、おたくのところの一年生、うちでもらうね。いいよな? 『下剋上』でうちの千景が勝ったんだし」

「いいよ。『下剋上』は久しぶりに見たけれど、同い年の子たちでやり合うのは初めてみた。今回は御上くんのお誕生日ということで、『下剋上』開催自体に目を瞑ったけれど二度目はないよ」

「はいはーい。じゃあもらうねー。手続きは先輩で今の君主の俺がしておいてあげるから、千景はちゃんと面倒を見るんだよ」

「は、はひぃ!」

 

 コクコクと頷く千景の気持ちがよくわかる。

 三年の先輩に声をかけられるだけで「ヒョェ〜!」となるのだ。

 まして三大大手グループのリーダーは、『トップ4』間違いなしのアイドル。

 東雲学院芸能科箱推しのドルオタなら、憧れてやまない。

 

「勇士隊の君主、石動先輩の許可も、魔王軍魔王、朝科先輩の許可もいただけましたので、これにて『下剋上』決着です! 本日の結果により、魔王軍三軍に所属していた日守風雅くんは勇士隊二番隊に移籍、決定いたしましたー!」

 

 パチパチと客席の拍手が大きくなっていく。

 日守はなにも言わず、魔王軍のメンバーに向かって頭を下げた。

 彼なりのケジメなのだろう。



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