コラボユニットライブ(3)
呼ばれてすぐにそのまま列になっていくメンバーたち。
お辞儀をしたり、客席に手を振ったりして、ついに全員がステージに揃う。
淳が「顔だけでもお気に入りのアイドルがいたら名前を覚えてあげてくださいねー。物販に参加アイドルの名前入りグッズも置いてありますので、忘れそうな人は帰りに名前入りグッズをご購入よろしくお願いします!」とさらなる宣伝。
宣伝上手か?
メンバー全員「ありがとう音無……」と内心で手を合わせる。
「最後に本人たちにも自己紹介してもらいますので、目で追いかけておいてくださいね〜。そして、『決闘』についてもう少し詳しくご説明します。『決闘』は星光騎士団の“特権”です。譲れないものがあった時にグループ同士のトラブル解消のために用いられます。定期ライブで双方が同じ曲を歌い、在校生とライブを見にきたお客様、公式ワイチューブチャンネルにて生配信を見てくださっているリスナーさんにジャッジしていただきます! 投票の仕方もご説明しますね。会場の方は東雲学院芸能科公式ホームページ、『イースト・ホーム』のトップページからチームA、チームBのパフォーマンス後にどちらかへご投票ください! ワイチューブで観てくださっているリスナーさんは、アンケート機能からご投票くださいね〜。説明が長くなりましたが、このシステムは東雲学院芸能科の定期ライブで『決闘』が起こったら同じルールで投票できますので、ぜひぜひ、今後も楽しく東雲学院芸能科の定期ライブに遊びにきてくださいね〜」
ユニットメンバーからの、尊敬の眼差し。
淳のMC能力が高すぎて、魁星と周以外笑顔を貼りつけたまま震えている。
東雲学院芸能科は現場主義。
特に星光騎士団は一年生であっても容赦なく仕事に放り出す。
質疑応答はもちろん、先輩たちのMCを見ながら覚えて、場数も踏んでいく。
中でも淳は、劇団の方でも練習していた。
本来『決闘』の時は執行委員会からローテーションでMC及び審判を派遣してくるけれど、今回は一年生だけでやらせよう、と言うことになったらしい。
「ここまで大丈夫ですかね? わからないことがあったらとりあえず『イースト・ホーム』で検索してください。皆さんの清き一票で、我々の運命が決まりますので! ではでは、前振りが長くなりましたが、そろそろ本日限定のコラボユニット――始動させていただきます!」
淳が叫ぶとチームBがステージ後ろの際に並び直し、チームAが位置につく。
スタッフが曲を流し始める。
先制は不利だが、チームBには日守がいるのでこのくらいは――ハンデだ。
「「「〜〜〜♪ 〜〜〜〜♪」」」
出だしは全員で。
そこからは位置を替えつつ、最初のAメロ一節を周、二節目を淳、三節目を千景と歌唱力つよつよ組で固めてBメロを全員。
歌詞の振り分けはチームメンバー全員で話し合い、決めた。
だから楽しく歌い上げ、全員がミスもなくパフォーマンス終了。
そのままチームAがステージの後ろに向かい、チームBメンバーがステージ中央へと進む。
残った淳が「次はチームBのパフォーマンスです! それではご覧ください!」と言って脇へと移動する。
その瞬間、日守がマイクのスイッチをオンにして叫ぶ。
「祭りの時間じゃーあ!」
淳もギョッとした。
だが、日守風雅のキャッチコピーは『祭り大好きお祭り男』だ。
同じ曲が開始したが、始まりの位置も歌い出しは魁星一人、とチームAとまったく違うパフォーマンスの仕方。
チームAメンバーもチームBメンバーのパフォーマンスを初めて観たが、魁星を中心にしたやり方。
チームAのパフォーマンスは全員に一度はセンターを経験するように、という配慮があったのだが、チームBは真逆。
ただ、それをしたのには理由がある。
魁星がやはり、飛び抜けて歌とダンスが上手い。
なにより顔とダンスが人目を引く。
しかし、チームBがやや全体的に困惑している。
魁星の隣に、日守が挑むように陣取っているのだ。
「あれ――」
「うん。すごいね……」
入学から今まで、練習をサボっていた日守。
対して魁星はずっと星光騎士団で扱かれてきた。
実力差はどう頑張っても埋めようがない。
それを埋められるのは――天才的な才能のみ。
そして日守にはそれがない。
ないと思っていた。
とんでもない。
『俺を見ろ! 俺を見ろ!』
そう叫んでいるかのような、強烈な存在感。
笑顔も歌声もダンスも、なによりオーラ……雰囲気も。
今までまったくそんな感じはしなかったので、日守風雅は『お客さんのいるステージ』で真価を発揮する“天才型アイドル”だということが今、発覚した。
歌もダンスもやはり、他のメンバーに比べて下手くそで、まして魁星と並んで前へ出たら当然、その差が非常に目立つはずなのに。
その技術力も歌唱力の差も吹っ飛ばす。
アイドルにとってもっとも必要不可欠なモノ。
存在感。
「っ――!」
だがどうやらその日守の姿に魁星も焚きつけられたらしい。
淳も周も目を見開く。
「〜〜〜〜♪」
日守に引けを取らない、聴いたこともないほどの歌声。
魁星はこんな歌い方をするタイプではない。
一番は周りを見ながら、周囲のバランスを調整しつつ強みを強調したパフォーマンスだったのに、日守に煽られるように二番が始まると一気に周りを置いてけぼりにして『花房魁星』を出してきた。
技術も歌唱力もある魁星が“自我”を出してきたら、日守も太刀打ちできない――なんて思っていた時期が一瞬でもありました。
「「〜〜〜♪」」
とても合唱ではない。
あれはもう――戦争だ。
たった二人の、ステージ上の。






