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文化祭に出張中(3)


「なーなー、花崗ちゃん」

「おん? なーにー?」

「綾城ちゃん、プロポーズしたってニュースあったべ? あれ本当なんか?」

「ほんまよ」

 

 さすが控え室。

 表では堂々とできない話をここぞとばかりにする。

 

「本当なんか! まじか! びっくりだなー!」

「そうそう。わしは仕事あって参加でけへんかったんやけど、『SBOソング・バッファー・オンライン』ゆうVRMMOん中でプロポーズしたんよ。シアの姉さん、『あのアバター気に入ってたのにもう使えないよぉ〜』って言うてたけどなぁ」

 

 ははは、と笑う花崗。

 淳もその場を見ていたので、なんとも言えない顔になる。

 綾城はIG夏の陣以降、『CRYWN(クラウン)』から受け継ぐように『キング・オブ・アイドル』と呼ばれるようになった。

 そんな綾城の“彼女さん”は、綾城の知名度が上がると同時に存在も広まっていく。

 先日のSBO内のプロポーズは、あの日集まっていたファンと偶然居合わせたにわかのスクショが各ネットニューストップを飾り、昼間のワイドショーでも連日取り上げられている。

 さすがに二ヶ月も経てば落ち着いてくるかと思ったが、IG夏の陣優勝と準優勝のグループリーダーということもあり綾城の“彼女さん”改め“婚約者さん”は芸能記者による特定が急がれているらしい。

 ファンや特定班と呼ばれるネット民も加わり、特定は競争のように加熱中。

 なお、このことを案じた後藤が「大丈夫ですか?」と綾城に聞いたところによると「今海外の大学にいるから大丈夫じゃない?」と、ケロリと言い放たれた。

 彼女さん……いや、婚約者さん、マジ優秀。

 なんか先月からアメリカの大学に通い始めているらしい。

 ただ、一年間だけの研究生。

 ちょっと特殊な扱いで、一時的にアメリカの大学で研究をしているそう。

 なんでも綾城の婚約者さんが新しくデザインした缶詰の構造があまりにも素晴らしく、最長保存期間がなんと十年も延長できるようになるとか。

 その保存期間の長さを絶賛されて、宇宙食にも持ち込めるのかなどの調査が行われることになったのだとか。

 で、なんとアメリカの大学に招かれた――らしい。

 婚約者さん、マジ優秀。

 つまり、婚約者さんは今日本にはいない。

 特定されたとしても、彼女になにかする術はないだろう。

 今の日本の記者に一人のアイドルの婚約者を追って海外に行く予算と気概のある者もいないはずだ。

 なぜなら昨今の記者は金がない。

 予算が降りない。

 せいぜい金持ちなワイチューバーぐらいだろうが、婚約者さんのいる大学はセキュリティもしっかりしているので、凸してもまず会えないはずだ、と。

 

「ところで『SBOソング・バッファー・オンライン』って、どんなゲームなん? ワもゲームやるんだけど、あんまりフレンドができなくって」

「そうなん? ええよ、わしもゲームはあんまりやらへんけど、SBOはうちの学校ぐるみでプレイ推奨されとるゲームなんでわしもアカウント持っとるんや。一緒に遊ぼ。えーと……淳ちゃんー、アカウントのあれ、フレンドになるんどうしたらええん?」

「あ、待ってくださいね。今行きます」

 

 スマホを鞄に入れて、花崗と葛のところに向かう。

 まずアカウントIDを教えて、ゲーム内でフレンド登録をしなければならない。

 が、当然花崗は自分のSBOアカウントIDなんて覚えていない。

 思い切り目を逸らす花崗。

 

「そもそもSBOはプレイするのにVR機本体が必要なんです。フルダイブ型でもプレイは可能ですけど、フルフェイス型なら声紋精度が桁違いなので、プレイするならフルフェイス型がおすすめですね。葛先輩はVR機はお持ちですか?」

「旧型……フルダイブ型なら持ってんさー。けど、それとはなんか違うんべ?」

「はい。フルフェイス型はこれですね」

 

 鞄にしまったばかりのスマホで検索して、フルフェイス型VR機を葛に見せる。

 すると葛と同じグループの屋城(やしろ)が顔を覗かせてきた。

 

「これ知ってる。最近Vtuberの間で人気になっているやつ。なんかすごいんだよね、防音機能つきで、叫んでも音漏れしないって」

「そうですそうです。しかもリアルの声をかなりの精度でゲーム内に反映できるので、歌をバフにして盛りまくれるSBOではフルフェイスマスク型が推奨されているんですよ」

「なるほど。オレもゲームは好きだから、やってみたいな。遊梨(ゆうり)、やるのなら一緒にやろうか」

「ええんか!? やったあ! しろやんが一緒にやってくれるんだったらなんとかなるさー」

「旧型でもできるんですよね?」

「はい」

「フルフェイスマスク型は――うえ、た、高い」

 

 話に入ってきたのは屋城逸人(やしろはやと)

 さらにその後ろから鈴流木灯群(すずるぎほむら)が顔を出す。

 

「確かに高額だが……どうしても購入しなければならないわけではないのだろう? 旧型のVR機でもプレイできるのなら、それですればいい。我もこの手のゲームは鍛練になるのでぜひプレイしたい」

「わあ、それならぜひ『御輿(ミコシ)DE・JUMP(ジャンプ)』の方々にもゲーム内でライブしてほしいです!」

「「「ライブ?」」」

「SBOの中でライブができるシステムがあるんです。レイドイベント中だと、ステージで歌ったらそれがそのままサーバ全体のユーザーのバフになったりするので推奨されているんですよ。十二月にレイドイベントが開催されるって噂があるので、今から始めるのはとてもいいと思います! アップデートで新しい職業も追加されてて、今すごく盛り上がってますし!」

「「「へー」」」

 

 回し者みたいにプレゼンしてしまった。

 しかし三人とも本当に興味が出たらしく、花崗と予定を調整し始めたので、近くSBO内で『御輿(ミコシ)DE・JUMP(ジャンプ)』のライブを観られる日が来るかもしれない。







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